第2話 食堂
「はぁぁぁぁ……」
学校が終わり、家まで直で帰ってベッドに身体を預け、今日の出来事を思い出す。
よくよく考えれば、カースト上位の美少女が、陰キャで、教室の隅っこに居るような奴が相手になるわけがないのだ。
そして、告白して笑いものになる事がなかったというだけ僥倖だったというべきだろう。
そうだ、そういう考えの方が良い。
きっとその方が、恥ずかしい思いをしないで済む……
はぁぁぁぁぁ……
いつからだろう。こんな自分の世界に閉じこもるようになったのは。
ああ、そうだ、中学卒業して、それから高校生活はおとなしく過ごそうって決めたんだっけ。
それにしてもまさか高校で一人も友達もできなかったとはな。
過去の自分が見たら軽蔑するだろうか。
あの明るかったころの自分に。
ため息を吐きながら左手に持ったスマホを画面の上に近づけすっかり習慣になっているユーチューブを開く。
なにか、なにか気持ちの晴れる動画はないか。
そう思いスクロールして面白そうな動画を見つけようと探す。
出てきたおすすめ動画はほとんど五人グループのイケイケの人たちや、すでにユーチューバーとして成功しているような人たちだ。
ふぃぃぃ……。
陽キャで、仲間がいて、人気者で、モテて、お金も持ってて。
羨ましぃなぁ。
明らかに比較する相手を間違っている。
画面の向こうの人たちは自分とは違い、成功している人達だ。立っているステージが違う。
だが、キラキラしている人、誰からも好かれている、かまってもらっている人を見てどうしても思って、そして感じてしまう。
純粋に心の内に自覚できるほどの嫉妬と、微かに入り混じった羨望の気持ち。
それが、どうしても何か焦りを感じさせてくるんだ。
そして、そんな感情を揺れ動かしていると、後は決まってリアルを振り返って自分の高校生活が灰色であることを自覚して、ネガティブになる。
いけないと思い思考をリセットして、一度ホームページに戻る。
検索ページをクリックして、自分の気になるワードを考える。
ぼっち 陰キャ コミュ障
「はっ」
思わず声が漏れて自虐を込めて笑う。
こんなの検索したって意味がない。
検索して出たところで陰キャを名乗るユーチューバーなんて結局のところビジネスでしかない。ほんとうに孤立して、誰の目にも止まらない、冴えないヤツがいるわけがない。そういうヤツは成功なんてせず、結局の所ネットでさえ孤立するだけだ。
そんな事を考えながらも、検索を掛けてしまう。
きっとどこか自分を救ってくれる人を求めているのだろう。
どこまでも受動的で、他人任せで、なんて自分に無責任なんだと自分でも思う。
それでも何かに救いを求めてしまう。
検索結果が出て、乱雑にスクロールしていく。
みんなかっこよくて、おしゃれで、仲間がいる。
みんな、楽しそうだ。
いいなぁ………
本音が漏れてしまった。
面白そうな動画もなさそうだし、いつも見ているホラーゲーム実況者でも見ようか。
そんなこんなで何だかんだ最初のおすすめ一覧の画面に戻る。
そこで検索したワードに影響が出たのか、ある一つの動画が明らかに周りと違い異彩を放って目立っていた。
再生数は百万を超えている。
動画をタップし再生する。
「あのさぁ!!」
第一声はいきなりの大声で始まる。
思わず面を食らってしまう。
恐らく有名な大学なのだろう、画面の向こうには人であふれかえっている。
だからだろうか、俺は大勢いる人たちの前でカメラを回し、動画に語り掛ける姿を見て身体に衝撃が走ったような感覚がした。
「この学食見てよこれ!!あのさぁ!!人がね!多すぎて席がないの!!だからね、もうしょうがないから立って食べるわ!!」
周りにはごった返す程大勢いる人たちの目の前で堂々と立ちながら飯を食べているその姿は、あまりにも周りと違和感がありすぎて合成画像にしか見えない。
メンタルどうなってんこの人。無敵じゃん。
あ、いや違う。
表情は微かに辛そうだ。
気が付けば口角が上がっていた。
だって笑うだろ、こんなの。
人の目を絶対気にするはずなのに、少しでも恥ずかしいって…思うのが普通なはずなのに………。
「……ごちそうさまでした。……あのさぁ!!席空くの遅すぎてさぁ!!食べちゃったよ!!これさぁ!大学の関係者みてたらほんと、お願いしますよ、ほんと。席で食べれるようにしてください!!」
そう締めて動画が終わった。
終わった後も何回か動画をループして見返した。
その後にのめり込むようにその人の他の動画を見漁った。
衝撃だ。
ただただ衝撃を受けた。
こんな自由でいいのか。
こんなにも自意識を通り越して無敵さを貫けるものなのか。
誰かに寄生するでもない、誰かに依存するでもない。
ただ自分の面白さを追求しているその姿に、胸が熱くなった。
人目を気にせず自分を貫き通す。
そんな勇士に憧れを抱いた。
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