第18話 後始末
軒先に一つ、階段下に二つ、リビングに一つ、マレイは死体の横を通りすぎながら数を数える。
「あれぇおっかしいなぁ。確か五人居たはずなんだけど一人足りん」
村に来た人数と死体の数が合わず頭を捻る。
仕方なく二階へルピを迎えにいくと部屋の隅で小さくなっている姿があり、それを見てマレイに少しばかりの悪戯心が芽生えた。
背を向ける彼女にそっと近づくと、勢いよく肩を掴む。
「おぎゃぁあ!」
驚きのあまりまるで赤子のような悲鳴を上げ、ルピはその場でひっくり返ってしまった。
「こここ殺さないで!」
腕を顔の前で交差させ体を背ける。
「ばーか誰が殺すかよ」
「その声、マレイさん?!」
交差した腕の隙間からそっと覗き込むとマレイの姿が目に入り、大きく息を吐いて胸を撫で下ろす。
「やめてくださいよもぅ......。でも、戻ってきたってことは」
「おう、綺麗サッパリ片付けたぜ。と言いたいとこだけどなんか一人足んないんだよなぁ」
「それって逃げられたってことですか?!」
「いやー、逃げたって言うか多分始めからこの襲撃には参加してなかったっぽい?」
自信なさげに語るマレイにルピはもどかしくなる。
「じゃあこれからどうするんですか」
「どうもこうも、親の敵討ちに行くのは変わんねぇだろ。お前ログレンて町は知ってるか」
「え、ええと確かここからそんなに遠くない場所にあったと思います。それが何か」
「襲ってきた連中の一人が親切にどこで雇われたか教えてくれたもんでね。とりあえず次の目的地はそこだな」
「そ、そうですか。とにかく今日はもう終わりなんですよね、あー安心したら喉渇いちゃいました」
まだ震えの治まらない体で壁伝いに階段を下りていく。と、下りきったところで足に何か重いものが当たり彼女は視線を落とした。
「ひっ、ひっ、死んでる!!」
「さっきまで殺りあってたんがら当たり前だろ」
「そうですけど、て言うかこんなとこに置いてかないでくださいよ! どうするんですかこの人達」
「どうするったって、どうしよっか」
「どうしよっかじゃなくて、とにかく、このまま家に置いとかないで下さいよ!」
その頃、先程の凄惨な現場を目撃し一人残され計画が失敗に終わったと言うのにクライアインは至って冷静であった。
「よう爺さん」
彼はあの一件の後その足で村長を訪ねていた。
「お前か、でどうだった」
「どうもこうも全滅だ」
「ぜっ!」
彼の報告に村長は顔中の皺が延びる勢いで目を見開いた。
「そう驚くなって。狩人どもが予想以上に使えなかったのもあるが、あのメイドえらいおっかないのな。遠くで見てたがゾっとしたね」
「そんな話はどうでも良い! これではお前に頼った意味がないではないか。村の金もどうするつもりだ!」
「どうってねぇ、この村の行く末なんてまっっったく興味無いしなぁ。俺は今回の件をボウズに報告するまでだ。まぁ力になれなくて悪かったな」
「ま、待て!」
言うだけ言ってその場を立ち去ろうとする彼の背を村長は呼び止めた。
「話は終わったはずだが」
「いくらだ」
「は?」
「あの女を消すのにいくら払えば良いと聞いてるんだ」
長いため息のあと、クライアインは帽子を取って無造作に髪をかきあげ村長に向き直った。
「あのなぁ別に金が欲しくてこんなこと言ってんじゃないんだぜ?」
「いいから言え。出来るだけの対応はする。わしは、わしの代で、この村を潰すわけにはいかんのだ」
杖を握る手が強く震える。
「何か勘違いしてるようだが、別にあの女のことを諦めた訳じゃないぜ」
「どういうことだ」
「そりゃ爺さん、女は殺せませんでした諦めましたなんて、戻っておいそれと報告出来ると思うか? ただ今回は敵の力を見誤ってたんで追加の対策が必要だって伝えに戻るだけだ」
「それじゃあまだあやつとは戦ってくれるんだな?」
「当たり前だろ。あぁだけど爺さんあんた気を付けた方がいいぜ」
村長は思いがけない言葉に怪訝な表情を浮かべる。
「多分あんたと俺が繋がってるのはあの女ににバレてる。俺が帰った後であいつに会うときは用心することだな」
「な、お前さんと会ってることは見られていないはずだが」
「言ったろ、力を見誤ってたって。ありゃ想像以上に腕の立つ相手だ、勘づいてたって不思議じゃねえ。ま、あくまで可能性があるって話だからどうするかはあんたに任せるさ。それじゃな。生きてまた会えると良いな」
「な、な、ちょっと待て、わしゃどうすれば......」
去る彼の背を見ながら村長はその場に崩れ落ちた。
「たく、あんな魔物じみた女どこで見つけて来たんだか。あーホント糞みたいな仕事だなぁ」
彼は馬に跨がると町に向かって村を出ていった。
一方、二人は死体を馬車に載せ村の外れまで来ていた。
「で、ログレンにはいつ向かうんですか」
「そうだなぁ、まだやることも残ってるしなぁ」
「やること?」
この村でやれることなど全てやったはずではと、ルピは頭を傾げる。
「あーそっかお前は知らないもんな」
マレイは荷台から死体を運び出しながら話を続ける。
「これで二つっと! 今回の騒動をこの村に招き入れた張本人を締め上げんだよ」
「張本人て、そもそもこの人達がどこの誰かかも知らないですし」
「そりゃ、そうよっと! あーあ床まで血でベッタリじゃねえか。そもそもこんな奴らがなんで急に襲ってきたと思う?」
「それは、マレイさんが外でなんかやらかしてきたからじゃ」
「バカ、どんなにヘマこいったって知らん顔に命狙われることなんてまず無いぜ? とすると、こいつらをワザワザ外から招いて襲わせた奴がいると考えるのが普通だろ」
「あーー、でもなんでそんなことを」
「わかんねぇ奴だな。お前だってあの金のことで目の色変えてる村人には会ったろ。となると、そんな大事な金を給金として受け取る私は奴らの目にどう映ると思う?」
「そ、それは嫌だなって思うんじゃないですか? け、けどそんなことでマレイさんを殺そうとするなんて考えられないって言うか」
「どうかな。お前さんが親の敵を討ちたいのと同じように身内のためなら何でもする奴はいると思うぜ?」
「それは......」
「で、そこらの村人がそんなコネを持ってるいるとは思えないし、平屋での話を聞いた限りじゃアレを雇ったのは村長で間違いないだろうな」
「そんな、村長が......。で、でももしかしたらしたら何かの間違いってことも」
「間違えで殺されちゃやってらんねえよ。とにかく本人に直接聞けば全部分かるさ」
四つの死体を全て並べ終わるとマレイはおもむろに懐を漁り始める。
「何してるんですか」
「何って、なんか金目のものでも」
「や、やめてくださいよ!」
懐に突っ込まれた腕をルピは掴むと、彼女を死体から遠ざける。
「ばーか冗談だよ。こいつらだってなんか敵に繋がる情報持ってるかも知れないだろ」
「笑えない冗談はやめてください!」
「ハイハイすみませんね。てか、お前も本気にするなんて、そんな目で見られてたとは心外だなー」
マレイの感情ゼロの棒読みに、ルピはやっていられないと肩を落とした。
「とにかく死体漁りはダメです! いいですそんなに言うなら私が直接村長に聞いてきますよ」
「別に止めやしないけど、本当のことを言うかねぇ」
「それは、大丈夫です! 多分」
言葉の切れの悪さに自信の無さが表れ、マレイは呆れて笑い声が漏らす。
「全く頼もしいったらありゃしねぇぜ。汚れ仕事は全部私に任せときゃいいんだ。親の敵を討つその瞬間までは綺麗な体で居させてやるから安心しときな」
そう言うとシャベルを取り出して墓穴を堀始めた。
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