第5話
そして僕は今、魔王城が有った場所に来ていた。
僕にはここでやらなければならない事が有ったんだ。
建物には僕が壊してしまった跡があちこちに有って、それがずっと気になっていたんです。
「ベルちょっと待っていてくれる?急いで壊れたところを直しちゃうから」
まぁ、壊れた所じゃなく、壊した所なんだけどね。
『何だそんな事か』
そう言うとベルは、魔法で瞬く間に直してしまった。
「僕が直したかったのに……」
『まあ細かい事は気にするな。それよりこれからどうするか決まったのか?』
「うん。どうしたら良いのか具体的な事は分からない。でも僕は普通の人間として生きて行きたい」
幼い頃から嫌われ、目立たないように隅っこで生きてきたんだ。
でもこの世界での僕は、広く知れ渡っていて、それが嫌でまた隠れるようにしていた。
だからもし機会を与えられたなら、僕は普通の人の生活がしたい。
今なら、いろいろな事をやり過ごすし、その対処法だって分る。
だから人の中に紛れ込んで、普通の人間として暮らす事だって容易だと思うんだ。
それでも受け入れてもらえなかったら、ベルと二人、山奥でひっそりと暮らしてもいいし……。
きっと僕とベルなら、お互いを補いながら暮らせるだろうし。
『目立たないで生きる……難しい話だな』
この世界で普通に生きる事は、そんなに難しいの?
『ヒロは自分の能力を、全て隠すなんて出来ないだろうなぁ』
「え~、僕の能力なんて、ただの力持ちだけじゃん。後は全然普通だし」
『ただの力持ちじゃなくて、桁違いの力持ちだろう?それにその見た目も…』
「見た目?やっぱり僕って気持ち悪いかな…」
『いや、気持ち悪いと言うより、お前は誰からも目を引く容姿をしているからな』
やっぱり気持ち悪いんだ……そう思い、がっくりと肩を落とした。
『容姿に何やらコンプレックスを持っているようだな。ならばそのままでもいいか』
向こうから寄って来ても、お前なら全力で逃げそうだし……。
何て訳の分からない事を呟いているけれど、誰も僕の傍になんか寄り付きもしないよ。
魔王を倒した勇者の時は、綺麗な服や魔石で飾り立てられていたけれど、何の変哲もない恰好をして、元の世界の様な暮らし方をすれば、僕が優者だったなんて誰も気が付かないさ。
『それも有るが、論点が違う』
「論点って何さ」
『まあ説明したところで、話にはならないだろうな』
その話が何なのさ。
まさか僕の顔が良いって言うんじゃないだろうね。
無いな、絶対に。
ベルほどのイケメンなら話は別だろうけど。
「力はあまり使わないように気を付けるよ。それに人よりちょっと力持ちだと言っておけば、近所の人とはそれなりに付き合ってもらえるだろうし」
『そうか…、まあせいぜい気を付けろよ』
僕よりベルの方が心配なんですけど。
僕の特技はただの力持ちだけ、だけどベルは顔が良くてスタイルも良くて、背も高いじゃん。
おまけに魔法もたくさん使えるし、僕より全然目立っちゃうよ?
僕の事より自分の事を心配するべきだね。
『王よ、このまま城に居て下さるのですよね?』
今、僕達の目の前には、魔王の側近であった四天王がいた。
『いや、俺はもう死に、魔族は滅びたのだ。このままこの城に残ったら、いずれその話が外に漏れ、お前達にも命の危険が及ぶ事になる』
未だベルには、自分を慕ってくれる多くの魔族がいる。
このままここに残るか、僕と一緒に行くか、それはベル次第だろうけれど、僕としては一緒に来てほしい。
今の僕には、気が許せて何でも話せる人は、ベルしかいないのだから。
だけどこれは僕の我儘だ…。
今のベル…ベルガモーゼは初めて会ったような姿に戻っていた。
光沢のある黒い絹で織られ、金色の刺繍を施したカッコいい上下に、ピカピカのブーツ。
肩から黒く重厚な織のマントを羽織り、そしてその背には黒く艶やで大きな羽根が有った。
僕は服の事は分からないけれど、何かロココ……?ゴシックとか言う服っぽくて、まるでアニメやゲームの登場人物のようで、男の僕でも惚れてしまいそうだ。
『それでも構いません。魔王様は私達が命を掛けお守りします。だからどうぞこの地にお戻り下さい』
「ダメだ、せっかくヒロが一計を案じたのに、それを無駄にしたくない」
いざ僕が魔族と会ってみれば、聞いていたような人たちと全然違っていた。
傍若無人で自分の本能のまま生きる、我儘で残酷な種族。
確かに人間の中にも僅かな魔力を持つ人はいるけれど、魔族は全ての者が大きな魔力を所持していて、恐ろしい異形の姿をしている。
そしてその魔力を使い、気に入らない物を惨たらしい屍にする。
魔物も、動物も、人間も。
魔族すらも。
誰がそんな事を言い始めたのかな?
実際に魔族の皆さんに会ってみたら、みんな優しいし、いい人達ばかりだ。
魔法が使えるから、人間に出来ない事が沢山出来る。
僕のために、木の高い所にある木の実を簡単に採ってくれたり、美味しい料理も魔法で簡単に作ってくれた。
魔族さん達自体は、自然界にある魔力を摂取すれば、お腹が空く事は無いみたいだけれど、寂しがる僕と一緒に食事もしてくれた。
確かに異形と言われる人もいたよ?
ベルみたいに大きな羽根を持つ者もいれば、ユニコーンのように角を持つ人や、ケンタウロスみたいな人、妖精みたいにちっこい人もいたな…。
でもほとんどの人は、そんな特徴を持っていても、とても綺麗でカッコいい。
尤も普段の生活は、自分の姿を変えれる者は、それが邪魔にならないようほぼ人の形をとっていた。
こんな人たちが、なぜ害悪と言われ迫害されているんだ?
それってただの、人間の僻みじゃないの?
そして僕は数日間魔王城にお世話になり、その間にいろいろな事を考えたんだ。
「ごめんね、僕にも約束が有るから、やっぱりベルガモーゼさんには倒れれもらう事にした」
『『『何だと!!』』』
『ヒロ殿、どうか考え直してください。そのためにはどんなことでも致しましょう。王の代わりにはなりませんが、この命を差し出しても構いません!』
『どうか王をお救い下さい』
「いいよ。でも最初の人間との約束を果たしてからね?」
『『『はぁぁ???』』』
訳が分からないと言うような皆の顔が可笑しい。
『それは王の命を奪うと言う事で間違い無いでしょうか…?』
「ちょっと違うね、倒れてもらうだけ」
それを聞いた皆は、血相を変え僕にとびかかってくる。
魔法で僕を止めようとした者もいた。
でもゴメンね、僕には魔法はあまり効かないし、力なら僕の方が強い。
で、皆は今、床の上に転がっていた。
ケガをした人もいるみたいで、動けない状態。
痛くしてゴメンね、後でちゃんと治療するからね。
するとベルガモーゼさんは、王座からゆっくり立ち上がり、僕に向かって歩いてくる。
『ヒロ、俺だけにしてくれないか?俺は何の抵抗もせずお前に打たれよう。だから他の皆は見逃してくれ』
「うん、いいよ」
そう言い、僕はベルガモーゼさんの胸を軽くトンと突いた。
少し突いたつもりだったけど、ベルガモーゼさんはかなり吹っ飛んで床の上に転がった。
「はい、僕の勝ち~。魔王さんを倒しました~~~!」
『『『はぁ~~~?』』』
ベルガモーゼさんも倒れている人たちも、訳が分からないみたいだね。
はい、ドッキリ成功~~。
「よく考えたらさ、僕はこの世界の人間に魔王を倒してくれと言われただけ。殺せとか殲滅しろとかは言われてない。だったら倒すだけでいいだろう?そうすれば依頼は達成される」
僕はベルガモーゼさんの擦りむいた腕に、回復薬を掛けながらそう言った。
『屁理屈だろう?それは』
「そうとも言う。だけど僕は間違った事はしていない。さて次は皆さんとの約束を果たすね」
そう言い、僕は魔王上の外に向かった。
可愛い勇者とイケメン魔王は平和をお望みです はねうさぎ @hane-usagi
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