二話 いざ、中央地域へ
今回受けた
待ち合わせ場所へ向かう為、しばらく街の中を歩く俺たち。だが、突然ルーシアがお菓子屋の前で立ちどまる。
「ねぇ……ちょっとだけ寄り道しても平気よね」
「おいおい、ローレライは少しでも早くギリアスに行きたいんだからまた今度にしろよ。なぁ、ローレライ?」
俺は賛同を求めるようにローレライの方へ振り向いた。あれ? いない……。
さっきまで後ろにいたはずなんだが、忽然と姿を消したローレライ。
「ちょっとだけ。……ちょっとだけなら……いいよね」
あっ、いた。お菓子屋のショーウィンドウに両手を押しつけて、まじまじとホールケーキのサンプルを見つめている。
店員さん苦笑いしてんじゃねえか。
「まぁ……仕事の待ち合わせまで時間もあるしな。でも食ったらすぐ行くぞ」
「「 はーい! 」」
カラーン、カラーン。
店内に入ると彩り豊かなケーキやスフレ、プリンなど数一〇種類のスイーツがショーケースに並んでいた。
どうやらこの店は先にレジで会計してから、好きな席で食べる
「お待たせ」
少し遅れて、ニコニコしながら椅子に座るローレライ。注文してきたのはミルクティーと苺のミルフィーユだった。
うん、実に女の子らしい。
「お待たせー! いやぁ、どれにしようか悩んじゃったわー!」
ドスン!
ルーシアが注文してきたのは……。
キャラメルマキアートとモンブラン、ミルクレープ、ショートケーキ、ティラミス、フルーツタルト、ブラウニー……。
「って、おい! どんだけ持ってきてんだよ!
「えへへ。悩んでたら気になったの全部頼んじゃってて……」
プレートいっぱいにスイーツを乗せてニコニコしながら現れたルーシア。その表情からは後悔なんてものを微塵も感じられなかった。
ちっ、これだからボンボンは。まぁ、いいけどさ。
「「 いただきまーす! 」」
しかしさすがはお嬢さま。二人ともお淑やかにスイーツを嗜んでいた。一名だけ尋常ではない量のケーキだが。
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そして待ち合わせにちょうど良い時間になり、俺たちは依頼主のいる宿屋に到着した。
『おやおや! 君たちが護衛を勤めてくれるんだね! うんうん、いい武器を携えているな! 頼りがいがありそうだ!』
「よろしくお願いします! 私はルーシアです! こっちの二人はローラとミストです!」
「よろしくな。おっちゃん」
「よろしくお願いします」
いつの間にかローレライは腰丈ほどの白いマントを羽織り、フードを深く被っていた。
ほう、マントか。なかなかかっこいいな。ローレライの奴め、冒険者の先輩として気合い入っているに違いない。まずは形から入るタイプだな。
そして荷馬車一台、馬が二頭でちょっとした
先頭の馬にはルーシアが乗り、斥候を務める。何て事が決まった途端、右拳を掲げながらやる気をみなぎらせていた。
「さあ、みんな! 王都にしゅっぱーつ!」
「おおー!」
「お、おー」
「おおー」
『わっはっは! 宜しく頼むよ!』
早速
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「氷の精霊フェンリル。力を貸せ!
「雷の精霊ボルト。力を貸せ!
ルーシアが氷の礫を打ち出し、同時にローレライも雷の矢を放つ。挟み撃ちに狙われた魔狼ウェアウルフを一瞬で貫いた。
「ローレライ! あと何匹いる?」
ローレライが弓を構え、三本の魔力の矢を森の影に放った。
〈グギャァァ!!!〉
更に三匹のウェアウルフが魔石に変わる。
「あと……森に二匹隠れてるよ」
すると、残りの二匹が猛スピードで荷馬車に飛びかかった。
「惜しかったな。
俺は飛ぶ斬撃を放ち、二匹纏めて両断する。
『みんなお疲れさま。もう少し進むと湖があるから、今日はそこで夜営をしようじゃないか』
荷馬車を守っていた行商人がありがたい申し出をしてくれた。
王都への近道には街道を進むより森の獣道を通った方が速いらしい。そのかわり、魔物との遭遇率が高いからさすがに疲れる。
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翌朝になると、朝早くから出発した。
草木が鬱蒼としていた森を抜け、西方地域の特色ある緑の景色と別れを告げる。今度は枯れた木々が所々に聳え立つ荒れた谷にさしかかった。
「うわっ。こえぇ……」
崖の下を覗くと更に深い谷があり、水を叩く音を響かせた激流が流れている。
「ミスト……昔から高いところ苦手だもんね。木登りした時なんか恐くて泣き喚いてたし……」
「ミスト、かわいい」
「おいおい、いつの話だよ」
「えっ? 去年だよ? 大樹のてっぺんで泣いてたじゃん」
「あんなの木登りじゃねえわ! っつーかルーシアが上級魔法で吹っ飛ばしたんだろ!」
「あれ? そうだったっけ?」
大樹とはアルヘム村の近くの森にある二〇メートルにも及ぶ老齢の木だ。どれだけ季節が変わろうとも緑を絶やさず、どんな嵐が吹き荒れても決して折れない。そんな神聖な大樹に好きこのんで登る人なんかまずいないだろう。
『みなさん! お話し中すまんがまた魔物だよ!』
「うわっ、本当だ。退治するよ!」
「ルーシア、先頭なんだから前見て走れよ」
行商人のおっさんがそう叫ぶと、前方から魔骸スケルトンが一〇体、隊列を組んで襲いかかってきた。こいつ等は過去の戦で死んだ兵士の亡骸。なんて逸話もあるが、実際のところは定かではないらしい。
〈ゲギャギャギャー!〉
更に崖の上からも一〇体。一斉に飛び降りてくる。
〈ギャギャギャ……アゥアァ!〉
だが着地の衝撃で数体のスケルトンが足を骨折してしまっていた。痛覚があるのだろうか。足を押さえてもがき苦しんでいている。
「アホだ」
「アホね」
「お気の毒」
〈キシャシャシャー!〉
前方から現れていたスケルトンたちが突然走り出す。荷馬車めがけて一直線に接近してきた。すかさず間に割って入り、片手剣ルーンソードと短槍コルセスカでスケルトンの猛攻を捌く。そして後衛に陣を構えたルーシアが両手を空に掲げて魔法を唱えた。
「光の精霊ウィスプ。力を貸せ!
空からキラキラと輝き、いくつもの光の柱が現れる。ルーシアの手が振り下ろされると同時に、辺り一帯に見境なく降り注いだ。
ズドドドドドッッ!!
〈ギャギャァァァァァァ!!!〉
「さすが天才魔導師。相手の弱点も見極めてんな」
「当然! 魔法は闇雲に撃つだけじゃないのよ!」
やはり光属性の魔法は効果が覿面だったようだ。爆発音と共に一〇体のスケルトンたちは粉々に砕け散り、次々と魔石に変わる。
「ローレライ! 後ろは平気か!?」
すぐさま背後の戦闘に加勢しに行くと、ローレライは六体のスケルトンに包囲されていた。その瞬間、細剣エストックを構えたローレライが走り出す。優雅に舞い踊るように次々とスケルトンの剣閃を躱し、すり抜けていく。更にすれ違いざま、音速の斬撃で斬り伏せていった。
「ごめんね」
小さくそう言うと、ローレライは骨折してもがき苦しんでいた哀れなスケルトンたちを介錯してやった。
「ローレライ、やるじゃん」
「うん、ありがとう」
その後もしばらく馬を走らせると、ようやく殺風景な谷を抜ける。その眼前には、広大な草原が一面に姿を現していた。
『君たち! ここからは王国の中央地域、ウェスティア大草原だよ! 明日の昼前には王都ハルモニアだ!』
「わあーっ! すごい眺めねー! 緑色の海みたいだわ! 」
「本物の海も見た事ないだろ? ……しかし、こりゃすごいな」
「 ……。」
ここからは王都のある中央地域なのか。
俺は、産まれて初めて王都に足を踏み入れる事になる。そう思ったら、なんだか少し心が弾むような気持ちになってしまった。
旅ってのも悪くない。
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