十一話 新たな冒険者
「ねえねえ、ローラ。本物の冒険者ってどんな人たちなの? やっぱり厳つい顔の強面な人とか?」
ドリアスの街へ向かう途中、ルーシアがそんな事を尋ねる。
「もちろん、恐そうな人もいるよ。でも、依頼は戦闘だけじゃなくて、お店のお手伝いとかもあるんだ。だからね、以外と普通の人も多いかな」
「へぇ、子供は?」
「年齢制限は、特には無いみたいなの。その街のギルド審査にもよるけれど。あっ、そういえば、ドリアスのギルドには、王立学園の生徒も来てるんだよ」
「マジか」
ローラが言うには冒険者ギルドは王立学園の隣に建っており、学園の生徒も兼業で依頼を受けに来ているらしい。特に学園の寮生は仕送りだけでは生活に困るだろうからな。
そんな何気ない会話をしながら一時間ほどかけて街道を進む俺たち。
いつの間にかドリアスの街に到着していた。楽しい時間は過ぎるのが早いとはよく言ったもんだな。
「それじゃあ俺たちは学校行ってくるからな」
「あーあ、ローラも入学してたらなぁ……」
「フフフ。そうだね。いつか……一緒に勉強できたらいいね。いってらっしゃい」
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ギルドに向かうローラとは一旦別れ、俺とルーシアはCクラスの教室に入った。
二日目とは思えないほど賑わっている室内。すでにある程度のグループができている様子だ。
あぶねぇ。俺単品だったら間違いなく
『よう! ミスト、ルーシアちゃん! おはよう!』
「あぁ、おはよう」
「みんな、おはよー!」
カラーン! カラーン!
始業のチャイムが鳴ると、のそのそとのんびり歩く頭領が教室に入ってきた。
入室するなり先頭の席に座る生徒たちに用紙を配る。ゆっくりと五分ほどかけて。
「キジ先生……あんなにスローモーションだけどさ、授業平気かな。うちのクラスだけ遅れたりして」
「俺にはちょうど良いかもな」
「馬鹿だもんね」
「直球すぎんだろ」
そして黒板に文字を書きながら頭領が何かを囁く。
【先日お話しした通り、今配ったアンケート用紙に学びたい専攻を記入して提出して下さい】
早速、隣の席のルーシアは
元々決めていたみたいだし、迷う道理もない。
「やっぱり……私はパパとママを手伝いたいから」
そう言いながらぎこちなく笑う。
「あぁ、自分で決めたんならそれが正解だろ?」
「うん……。そうよね」
俺は……。俺は、何にしようか。
『やりたいことをやる』……か。
少し考えた俺は、
「言っておくが騎士団には入らないからな。上司にヘコヘコすんのなんか俺はごめんだ」
「分かってるわよ。第一、そんなミスト見たくないしね」
あっという間に迎えた昼の時間。
新入生である俺たちのクラスはここまでだ。
今日の授業が終わるなり足早に校門を潜り、王立学園を後にする。ローラが待つ冒険者ギルドに立ち寄る為に。
せっかくだし、ついでにローラも混ぜて街の探索でもするか。
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カラーン、カラーン。
冒険者ギルドの玄関を開く。
「うわぁ……。なんだか……賑やかなところね」
少し居づらそうに萎縮するルーシア。俺の背中を掴みながら、ぎこちなくギルドの中を見回している。俺も一緒にギルドの中を見回したが……。ローラの姿は見当たらなかった。
「ローラ、いなさそうだな。とりあえずあそこで訊いてみるか」
そして俺たちは
「すみませーん。今日ローラという女の子の冒険者が来たと思うんですけど、どこにいるか知りませんか?」
『ローラさん? って事は、もしかして君たちがミストくんとルーシアちゃん?』
そう返してきたのは優しそうな顔をした大人の魅力に溢れた容姿のお姉さんだ。
ハッとした顔で逆に質問してくるが、一体どういう事なのか。なぜ俺たちの名前知っているのか。そう疑問に思い、ルーシアと顔を見合う。
『ローラさんは朝早くに
受付さんは引き出しから封筒を取り出し、気まずそうに手渡す。渡された封筒を開けると、そこには一枚の手紙が入っていた。
「ねえ、これ……どういう事かな」
「……とりあえず読んでみるか」
丁寧に手紙の封を破り、ルーシアにも見えるように広げた。
「……何だよ、これ」
内容を読んではみたが突然の事で手紙の内容が頭に入らなかった。いや……その時の俺は、現実を受け止めたくなかったのかもしれない。
それから俺とルーシアは何度も読み返し続けた。
「うそ……なんで」
ギルドに併設されな食堂の椅子にへたりと座り、俯いてしまうルーシア。しばらくの沈黙が続く。
「なぁ……やっぱ気に入らねえよな」
不服そうに立ち上がった俺は意気消沈のルーシアの両肩に手を添えた。一瞬背中をビクッとさせた後、ルーシアは恐るおそる顔を上げた。
「ど、どうしたの? ミスト」
「あぁ、悪い。なんとなく腹が立ってさ。力がこもったみたいだ」
そのままルーシアの両手を握り、ゆっくりと立ち上がらせた。
「なぁ、なんの相談もなく勝手にいなくなられたら許せない。そうだろ?」
少し黙った後、ルーシアは静かに口を開いた。
「……ローラは私たちに迷惑をかけたくなかったのよ。頼ってもらえなかったのはすごく悲しい。でも仕方ないわ……。悔しいけど……」
「あぁ、そうだな。これは一言あいつに文句言ってやらないと気が済まねえな」
そう言い放った俺はすぐに振り返り、速足で受付へ向かった。
「ちょっとミスト! どうするの!?」
「ククク、決まってんだろ?」
慌てて追いかけてきたルーシアに向かって悪い笑みを浮かべる。
「すみません。今から俺とこの子、冒険者登録します」
『は、はぁ……それは構わないけど……』
ローラからの手紙を渡してくれた受付さんに声をかける。
『あっ! 君、もしかして……』
「あぁ、ご察しの通りだ」
少し考えた後、受付さんも笑顔になった。
どうやら俺が企んでいる事を悟ったらしい。
『分かりました。王立学園の生徒さんですよね。学生証の提出と、こちらの用紙に記入をお願いします』
受付さんは敬語での対応に変わり、冒険者の登録用紙と羽ペンを渡してきた。
「ほら、ルーシアも早く学生証出してやれよ」
「えっ? えっ? うっ……うん」
未だ状況を飲み込めていないルーシアもとりあえず学生証を渡し、用紙に記入をする。
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『━━はい。これで冒険者登録が完了しました。では、これが冒険者の証の腕輪になります』
受付さんは記入した用紙をファイルに閉じ、きれいに整えた後、腕輪を渡してくれた。
早速俺は自分の腕に腕輪を嵌めた。同じようにルーシアの腕にも腕輪を嵌めてやる。
「あっ、ありがとう……」
ルーシアは少し顔を赤らめながら俺の顔を見つめていた。
「あれっ? ローラが身に付けてた腕輪と少し違うわね」
『王立学園の生徒さんは初めからランクⅢなんですよ。ローラさんはランクⅡなので刻印が違うんです』
「そうなんですか。でもミスト、どうして冒険者になったの?」
「さっき学校で冒険者についての授業を受けただろ? 基本的に誰かが受けた
「えっと……パーティーを組むだっけ?」
「その通りだ。……って訳で受付さん、ローラとパーティーを組むからあいつが受けた依頼内容を教えてくれ」
それを聞いて、やっと気が付いたルーシア。
ようやく表情にも明るさを取り戻したみたいだ。
『ふふふ。やっぱり、そう考えていたんですね。お二人とローラさんが知人なのは承知してますので、パーティー登録はすでにやっておきましたよ』
「さすがだな。俺の目論見が読めてたのか」
『……但し! 今回だけの特例です。この事が上司に見つかったら私も処罰を受けてしまうんですからね。くれぐれも、内密でお願いしますよ』
そう言いながらデスクから身を乗り出し、人差し指を立ててくる受付さん。
「もちろん。約束だ」
「なんか巻き込んでしまってすみません。必ず約束は守りますね!」
そして、受付さんからローラが受けた
『━━以上が依頼内容です。しかし最近、近くの炭坑夫の話によるととても大きな魔物の影を見た。という情報が相次いでいるんです』
「それでランク表記が曖昧なんですね。この辺は大した魔物なんて出てこないのに……」
「なるほどね。だったら俺たちでその魔物も片付けてくるぜ」
ドリアスの街周辺に現れる魔物は、冒険者ギルドで言うところのランクⅡが相場だ。稀に出てもランクⅤがせいぜいらしい。
ランクⅦの魔物なんて人が寄りつかないような辺境にしかいないはずなんだそうだ。
『君たちも無理はしないで。危険を感じたらすぐに逃げて下さいね』
「あぁ、ほどほどにしておく。さっさと見つけて、あいつを連れて帰ってくるぜ」
「必ず三人で戻ってきます!」
受付さんは少し不安げな表情で俺たちを見送ってくれた。
「うーん」
「何やってんだよ。置いてくぞ」
ギルドを出た瞬間、顎に手を添えて頭を悩ますルーシア。
「ねえ、ミスト。先に正門に行って馬を引き取りに行っててくれない?」
「まぁ、それは構わないけど……。急いでローラを捜しに行った方が良いんじゃないのか?」
「もちろん、急がなきゃだよ! でも、ローラの為にも必要な物があるから……ちょっと行ってくるわね!」
そう言い残し、ルーシアは商店街へと駆け出してしまった。
ローラに必要な物とは……。まぁ、いいか。
そう不思議に思うも、一足先に街の正門前にある馬小屋に到着した。預けていた馬を引き取り、しばらくルーシアを待つ。
急がないといけないのに。そう思うと時間の流れが早く感じてしまう。
「お待たせー!」
しかし、不安を他所にすぐにルーシアが駆けつけてきた。
特に目立った物は持っていないが、気のせいか鞄がパンパンに張っている気がする。
「じゃあ、さっさとグロース山に向かうぞ」
すぐさま馬に跨がり、手綱を力いっぱいに引いた。最高速度でグロース山を目指す俺たち。
「ローラ……本当の友だちっていうのがどういうものか教えてやるからな」
「無事でいてね! ローラ!」
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