第12話 リズ
静けさに包まれた中で進んでいた愉快な夜は過ぎ去り森は再び静けさに支配されて、やがて朝が訪れた。静かに眠る幹人の耳に優しく語りかけるキジバトの鳴き声。目を開いた幹人は思う。
ここにもいたんだね。
キジバトの鳴き声に癒されながら幹人は目を擦りながら起き上がる。ボロボロのまくらの隣りではリズが丸まって寝息を立てていた。その柔らかな毛玉のような姿、幹人の心は完全に毛玉の方へと誘導されていた。甘美なる誘惑、触って揉んで可愛がりたい。衝動はあまりにも強く、戦う術なくすぐさまその手でつかみ、優しく揉み始めた。ふわふわでもふもふでもこもこでぬくぬく、温かで柔らかで、とても気持ちが良かった。リズはとっくに目が覚めてしまっていたが、動じない、震えつつも起きていることを悟らせない。もみもみさわさわ、心地よくてやめられなくて、とても可愛らしい。
ずっとあるがままに触られていたリズだったが、己の中に何かが湧いて、触られることで溜まる何かを感じて身を震わせていた。
溜まり溜まり、身を突き破りそうな尖った感覚。
突然、大きな音が周囲に広がる。
小さな家を満たす暴風にリリはたたき起こされた。何事か、疑問と危機感を持ちつつも周囲を見渡して気が付いた。
リズは、風を起こしていた。
リリは焦りでいっぱいの表情で震えるリズを抱えて外に出る。その間にもリズの震えは大きくなり、家を出て刹那の空白ののち、風に花びらが混ざり始めた。
「ごめんよリズ、私のせいで」
淡い赤、穏やかな黄色、激しい桃色、若々しい緑の葉と色とりどりの花びらが風に混ざり渦を描く。
「いったい何事!?」
幹人が目を見開いてこぼした問いに、リリは心なしかいつもより少し高くて楽しそうな声で答える。
「リズは魔獣なんだ、周りの魔力を頬袋に溜めるように心に溜めて打ち出す類の」
「えらく楽しそうだねリリ」
いつのまにやら余裕を取り戻したリリは目を輝かせながらリズの起こす風と花びらが織り成す魔法の美しさに心を奪われていた。
「魔力を込めないで触る修行が必要かもなあ、幹人」
その言葉を聞いて幹人は思い浮かべていた、滝に打たれながら身を心を動じぬよう修行する己の姿を。苦行の様に身を震わせる。
「で、どうすれば収まるの?」
「言えることはリズの魔法は溜まった魔力を涸れるまで撃ち出すこと、あんなにたくさんの魔力を使うことなんて初めてだろうからリズにも抑えきれない、そこで我々に取ることのできる手段、それは……」
リリは一息おいて、清々しい笑顔で続きを伝えてみせた。
「待つことだけかな」
――それだけかよ
呆れつつも、暴走は抑えられないと諦めて。
リリと幹人はその様子を見守り立ち尽くすことしか出来ないままでいた。
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