590.同じ魂の色〜ソビエッシュside
『しかし王女の異母兄として、王女を良く知るエビアス王太子から、ミルローザは直接話を聞いて、噂は真実だと断言しています。
ミルローザの性格に問題はありますが、生徒会役員とし生徒会長であるエビアス王太子と直接関わるのはミルローザだ。
全て嘘だと思えない。
それに王女がそのような性格だからこそ、王女のいただけない性格がここまで有名になったのでは?』
義父は酷い誤解をしていたのだな。
しかしベルの悪評は、国の中心となる王族が流したのだから、質が悪い。
それに学生時代のシャローナは、ミルローザと違ってチェリア家の家計を助けようと、身分を偽って働いていた。
学園での成績はその分、
何よりベルからきつく、自分達の関係を他言するなと言われていたからな。
表向き、無関係を通していた。
『実の母親より、スリアーダ王妃を選ぶのは仕方ない。
そう……考えていたのだがな……』
暫く無言になったロウビル。
やはりロウビルは、ベルの真実に気づいていたようだ。
『ベルジャンヌ王女の王族印は、赤いリコリスだと公表されておる。
実際、王女が令嬢達へ宛てたとする悪辣な手紙に押された印章も、封蝋も赤と聞いておった。
じゃが、この封蝋の色は違う。
わざと違う色にする必要も、そうするメリットもなかろう。
色が違うからこそ、本物の可能性が濃厚じゃ。
それだけではない。
儂に直接届けに来た者の瞳の色を見れば、疑うべくもなかった」
直接届けに来た者?
瞳の色?
そうか。
ベルは聖獣を使って届けさせたのか。
ロウビルも、あまり大きく公表はされていない、聖獣の瞳の特徴を知っていたようだ。
『シャローナ?
何をしているの?
盗み聞き?』
『儂らはアシュリーの件で、王家の闇を知ってしまった』
不意にミルローザとロウビルの声が被った。
ビクリとしたシャローナの視界に、怪訝な顔つきのミルローザが映る。
シャローナが人差し指を口元に当てると、ミルローザは黙って近寄り、姉妹仲良く片耳をドアへと押し当てた。
『ならば王女について出回っておる話こそ、疑うべきなのやもしれん。
王女が知らせてくれたのなら、少なくとも儂がアシュリーを、娘を20年ぶりにこの手に取り戻せる機会は、これが最後だと思うのだ。
儂はお前が止めても、アシュリーを迎えに行く』
『父上、わかりま……』
『お祖父様!
お父様!』
突然、ミルローザがドアを開けて乱入した。
『ちょっ、お姉様?!』
『ミルローザ?!
シャローナも?!』
ロウビルと、記憶よりも若い外見の義父が焦り、声を上ずらせていた。
この後、ミルローザは泣きながら、アシュリーを構うなと祖父に縋った。
王女への罵詈雑言を並べながら、これ以上没落したくないと叫んで。
そうして場面が変わる。
シャローナとロウビルを馬車事故に見せかけて暗殺されそうになり、ベルが救い出す。
ああ、私にとって大切な記憶が薄らいだのは、このせいだったのか。
やっと合点がいった。
流民達の病が寛解する時期が、新たな記憶では早まった。
ベルへ手を貸す機会が無かったはずの、当時19歳だった私に、手を貸す機会が訪れたのだから、ある意味では僥倖とも言える。
ベルに内緒で描いていた、私の1番気に入っていた絵に関する記憶。
それが薄くなってしまったのは、残念でしかたないが……。
まあ良い。
私がベルを描いていた絵は、オルバンスが蟄居の際、苦しめと願いをこめ、全て
新たにできた記憶のロウビルは、オルバンスに制約魔法を使う事なく、生きて隣国へ旅立っている。
ロウビルをアシュリーの乗った船に転移させたベル。
疲れきっているな。
こうして他人の記憶から、数十年ぶりにベルの姿を視ると、郷愁に胸が締めつけられる。
しかし私は別の女性を妻にし、何十年と共に過ごした。
だからかもしれない。
当時抱いていたベルへの感情は、いつの間にか変わっていたのだと、ホッとしている。
ベルは……私の孫、ラビアンジェとして転生しているのだろうか?
ベルがシャローナにかけた守護の魔法。
それを容易に解除して、ベルの魔力に逆還元するなど、誰にもできない。
他ならぬ
けれど否定したい気持ちになるのは、自分が孫のラビアンジェを切り捨てていた事が、後ろめたいから。
実際にはベルをラビアンジェだと、確信に近い形で認めている。
異能で視たラビアンジェの魂と、ベルの魂の光が全く同じで、2人の姿も重なって映ったから。
そしてラビアンジェは、ベルの記憶も持っているのが視えた。
次にラビアンジェに会ったら、私は何と声をかければ……。
シャローナの中で変わってしまった記憶を視ながら、自問自答する。
それと同時に、平気そうに振る舞うベルの、母親に対する真実の感情に関する記憶を、1番気に入っていた絵と共に思い起こす。
何十年という時間の中で、変わってしまったベルへの感情を否定するつもりはない。
しかしベルを唯一の女性として、長年愛し続けた自分の若い恋情を、否定したくもなかった。
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