588.変わる記憶〜ソビエッシュside
※※前書き※※
初のソビエッシュ視点です。
______________
「ご令孫方は奥の通路を突き当たった場に。
私はここまでしか案内を許されておりません」
「わかった」
「ご苦労様」
案内した騎士に鷹揚に頷けば、妻であるシャローナが労う。
四大公爵家前当主夫妻の権限。
そして孫2人が学園の中にいるからと王妃へとりなしてもらい、学園周辺が立入禁止区域となってすぐ、校舎の中へと夫婦で足を踏み入れた。
魔獣が暴れる事件が起きたとして、学園祭は中止。
外で待機していた来客は、既に帰宅させられた。
学園にいた学生達と、貴族が大半を占める来客は、ひとまず広いテントを用いて学園の敷地の隅で待機させられている。
国に属する騎士と魔法師が警備と称して付いた為、今のところ騒ぎを起こす者もいない。
騎士が離れて2人きりとなってすぐ、シャローナが戸惑いの表情を向けた。
「ああ。
私もそうだ」
妻となり、何十年もの長い時を連れ添った妻。
その表情で、今自分に起きている異変が、妻をも襲っているのだと察した。
「どうして体験した覚えのない記憶と、体験したはずの記憶が……」
やはりそうか。
互いの記憶が歪んでいるらしい。
「私もだ。
ベルジャンヌ王女が流民達を自分達の国へ帰国させたのは、もっと後だったはず」
「それに彼らの帰国直前、私とソビエッシュ様が2人そろって、ベルジャンヌ王女へ会いに行ったりなどしてません。
祖父と父が、深夜に密談していた場へ、お姉様が、ミルローザが乱入したりもしなかった」
「密談?」
「ええ。
記憶を視て下さい」
私の
前触れなく発動しない限り、シャローナに異能を使う時には必ず許可を得る。
そう自らにルールを科していた。
『……考え直せ、と言ってもしないのでしょう?』
『ああ。
やっとアシュリーの生死がわかったのじゃ』
2人の男の声が、扉の奥から聞こえた。
聞き覚えのない声は、今は亡きロウビル=チェリアのものか?
最初の声は、シャローナを妻にすると決まってから何度か交流した、立場的には私の義父となった男の声だ。
『しかし国王陛下が……』
『儂はもう長くない。
この20年あまりで、我がチェリア家は随分と没落した。
愛娘が突然行方不明となり、王太子の婚約者の管理責任を問われて降爵。
その上、我が領地だけを狙ったかのように作物が不作となり、このままでは本当に爵位を手放さなければならん。
度重なる心労にお前の母は倒れ、娘の安否もわからぬまま、亡くなってしまった。
さぞ無念だったじゃろう』
シャローナの祖母は、確かシャローナが生まれる前に亡くなっていたな。
『わかっています。
しかし滅多に表に出ず、悪評高いベルジャンヌ王女をシャローナの入学式で見かけて、希望を持てたではありませんか。
金環はともかく、あの藍色の瞳は、チェリア家の色だ。
顔立ちも、どことなくアシュリーに似ていました』
『ああ。
だから王家に何度も、王女との謁見を申し入れた。
本当ならアシュリーの事を直接問い質したい。
しかし過去に婚約者の管理責任を問われ、罰を受けた以上、これ以上表立って動く事はできん』
『私と父上だけなら、どうなっても良いのですが……』
『わかっておる。
じゃがアシュリー……叔母の存在すら実際に見た事のない、うら若い孫娘達は何も知らない。
その上、孫娘達の母親は貧しさに耐えられず、出て行ってしもうた。
随分と悲しませ、当時は醜聞にも苦しんだじゃろう』
『はい。
不用意に関われば、娘達の将来に影を落としかねません。
何より王女は1度として、我々と謁見の場を設けてはくれなかった。
王女自身、没落しかけの貴族である私達と関わり合うつもりはないのかもしれません。
王女は側室の子供でありながら、スリアーダ王妃にが母親として受け入れ、愛情深く育てていると聞いています』
それは違う。
当時の国王であるオルバンスと王妃であるスリアーダが、チェリア家に行った非道な行為を隠す為、謁見申請を握り潰していたのだ。
それにスリアーダが、ベルを愛情深く育てる?
笑わせる。
ベルを使い捨ての駒として扱い、虐待していたのに。
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