585.封緘〜ミハイルside
「おのれ、おのれぇぇぇぇ!
アヴォイド!
ヒュシス!」
また場面が変わった。
赤黒い肌、背中には蝙蝠のような翼を生やしたヴェヌシスがいた。
耳が尖り、瞳が赤黒く染まり、両こめかみから後頭部へ角が生えている。
はみ出た牙が覗く口で、怨嗟の言葉を吐き散らすヴェヌシスと、対峙しているのはヒュシスとアヴォイド。
更にその後ろには、幼い王子が恐怖した顔で座りこんでいる。
かろうじて先程の城だとわかるこの場所は、まるで廃墟だ。
天井は完全に消し飛び、壁には無数の亀裂が入っている。
敷かれていた赤い絨毯も、幾つかあった亡き骸も、恐らくどこかに吹っ飛んだのだろう。
もしくは、場所が変わっているのかもしれない。
そう思わせる程にボロボロだった。
ヒュシスは体中に火傷や、深い切創を負っている。
傷口は黒ずみ、腐食されているように見えた。
光の影となってヒュシスの体と一部を繋げ、隣に並ぶアヴォイドも、放つ光が弱まっている。
大きさも、ヒュシスの2倍程まで小さくなった。
「許さん!
俺から離れるなど絶対に許さん!
ヒュシス!」
言うが早いか、ヴェヌシスの体から赤黒い靄がヒュシスを襲う。
「ヒュシス!」
アヴォイドが警告を発する。
しかしヒュシスは抵抗する事なく、靄に絡み取られる。
「アヴォイド、もう良いの。
どうせ助からないから」
そう告げたヒュシスは、アヴォイドとの繋がりを切ったのか?
ヴェヌシスの方へ引き寄せられるヒュシスの体から、アヴォイドが抜け出た。
アヴォイドの瞳の色が、藍に金が散った色へと変わる。
「離れないわ、ヴェヌシス」
「ああ、ヒュシス。
そうだ。
抵抗など無駄だ」
抵抗せずにヴェヌシスの胸に抱かれたヒュシス。
そんなヒュシスにヴェヌシスが気を良くした。
「力を得た俺には叶わ……何をする」
饒舌に語りかけたヴェヌシスが、眉を顰めた。
僅かに離れた2人の体の隙間から、ヒュシスが魔石を手にしているのが見えた。
あの魔石は、ヒュシスがヴェヌシスとの別れ際に渡した魔石だ。
「共に眠りましょう」
「無駄な足掻きを!」
ヴェヌシスがヒュシスを突き放そうとするも、ヒュシスが片手に魔石を握りしめたまま、抱きついて防ぐ。
「私の得意な魔法は、封緘。
アヴォイドの異能、魂に干渉する力を私にも移してある。
私とヴェヌシスの魂を、魔石に繋げた私の世界に封じるわ」
「くっ、離せ!
お前まで死ぬつもりか!」
「魔石に籠めた私の魔力が続くまで。
私の魂が消えるその時まで。
私達がこの世に生まれ出るまで、母の胎内にいた時みたいに、共に眠りましょう。
私の双子の弟……ヴェヌシス……」
ヒュシスの眦から、一筋の涙が伝う。
同時に、俺の瞳にはヒュシスとヴェヌシスの
ヴェヌシスの肉体は、赤黒い魔法陣に囚われた時、失っていたのかもしれない。
燃え尽きた灰のように手足から崩れて消えていく。
「させ、ん……消滅など……ヒュシス……消滅するなど、許すものか」
顔の目鼻が先に消える中、牙の出た口元が紡ぐ拒絶は、双子の姉と自分。
どちらが消滅するのを拒絶する言葉なのか。
黒い灰が床に落ちる事なく宙へ舞う。
「ヴェヌシス!
させん!」
灰が一斉に幼い王子へと向かった。
アヴォイドが光を発して王子を庇うも、灰の一部が王子の口から体内へ侵入する。
「魂だけの……聖獣、など……宿主がいなければ……無力、な……」
ヴェヌシスが言い終わらない内に、バサッと完全に灰化して、消えた。
__ドサ……カラン。
残ったヒュシスの肉体が、力なく倒れた。
魔石が手から転がる。
「伯母上!」
ヒュシスに駆け寄る王子。
今のところ異常はないようだが……いや、違う。
ヒュシスを抱き起こした王子の瞳に、黒い何かが蠢いている。
「伯母上、目を開けて……そんな。
死んでる」
絶望した顔の王子。
瞳の黒が少し大きくなった?
「聞け、ヴェヌシスの子。
幼いそなたの体に、悪魔となったヴェヌシスの一部が宿ってしまった」
「わかっています。
私もすぐ、伯母上の後を追いましょう」
涙を流す王子は幼いながらに、王族としての覚悟を持っているようだ。
そんな王子に近づいたアヴォイドは、ゆっくりと頭を振る。
※※後書き※※
いつもご覧いただき、ありがとうございます。
ラビがジャビを封緘したシーンはNo.507にあります。
ついでにエビアスとジョシュアの選んだ祝福の花も出てきます。
よろしければご覧下さいm(_ _)m
前回の後書きで宣伝は最後とか書いていたんですが、【くっせーですわ】な新作が本日、恋愛部門(週間)で98位になりました!
※ええ、臭い臭い泣き叫ぶだけしか今のところ出てないのに、実は恋愛部門なんです……。
こちらの作品から飛んで見ていただいた方も多いので、一言お礼を!
フォローやレビュー、応援いただいた方、ありがとうございます(≧∇≦)
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