584.古代魔法『時◯』〜ミハイルside

「我ら聖獣は、ヴェヌシスだから契約したのだ!

強制的に結ばされるなど、お前の血族であっても認められぬ!

何よりお前の血族と結ばされた契約は、隷属と何らかわらない!」


 アヴォイドが切実な声で訴える。


「まあ良い。

今更、お前達の力など無くとも、私が全ての属性を備えているからどうとでもなる」


 しかしヴェヌシスの心に響かない。

アヴォイドへの興味が初めからなかったかのような、無機質な声音で言い捨てたかと思うと、ヴェヌシスが己の内に魔力を巡らせ始めた。


「やめよ、ヴェヌシス!」

「何をするつもりなの!」


 本能的な危機感を感じたのかもしれない。

アヴォイドとヒュシスが血相を変えて叫ぶ。


「待っていてくれ、ヒュシス。

私のヒュシス……」


 自分を見つめて必死な形相で訴えるヒュシスに、ヴェヌシスは熱に浮かされたような顔でうっとりと呟く。


 するとヴェヌシスの魔力が体外へほとばしり、何かの魔法陣が上空に発現する。


「『◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯』」


 何と言っているんだ?

古代語だというのは分かる。

しかし俺が習得している古代語は、単語を読み書きできるレベル。

一部カタコトのように単語を発音できるかどうか、程度だ。


「やめてくれ!

頼む、ヴェヌシス!」


 哀願するアヴォイドは、ヴェヌシスを想っての発言だと声音でわかった。


「何てこと……」


 ヒュシスは、顔面を蒼白にして呟く。


 アヴォイドもヒュシスも、ヴェヌシスが放つ古代語を理解していると察した。


「『時◯』」


 時?

時間に関する古代魔法か?


 一瞬、脳裏を駆けた疑問。


 しかしヴェヌシスが最後にそう呟いた途端、魔法陣が白銀の閃光を放ち、疑問が霧散した。


 固唾を飲んで、次の展開を見守る。


 と、思ったものの…………輝きが消えた?

不発か?


 いや、上空に在る魔法陣は、未だ消えていない。


「はあっ、はあっ……くっ、何だ?

魔法が発動しなかった?」


 大半の魔力を消費したのか、ヴェヌシスがふらつき、両膝を着く。


「どういう事だ……魔法陣が赤黒く……」


 上空に現れた魔法陣が、ジワジワと赤黒く染まっていくのを見たヴェヌシスは、訝しむ。


 その時、俺の目には魔法陣から黒い靄がパッと散ったように視えた。


「「ヴェヌシス!」」


 直後、アヴォイドとヒュシスが警告を発する。


 魔法陣から真っ黒な鎖が何本も、ヴェヌシスに向かって勢いよく放たれたからだ。

鎖の先には尖った杭がついている。


 魔力が尽きていたヴェヌシスに、為すすべはない。


 アヴォイドもヒュシスも、ヴェヌシスの周りに防御結界を張った。


「があぁぁぁ!」


 しかし結界は意味を為さず、鎖は結界を壊す事なく通過した。

勢いもそのままに、ヴェヌシスの体に突き刺さる。


 叫び声を上げたヴェヌシスは、魔法陣から伸びた鎖に引き上げられる。


「アヴォイド!」

「わかっている!」


 アヴォイドがヒュシスの体に再び入りこむ。


 ヒュシスが魔法陣へ向かって両手を突き出し、金色の光を放つ。

聖獣の力が混ざっているのだろう。


 金の中に、銀色の魔力粒子が視える。


 しかし魔法陣から、今度は肉眼でも確認できる黒い靄が光を飲みこむ。


「そんな?!」


 ヒュシスの絶望した声を慮る事もなく、ヴェヌシスは魔法陣の中へと取りこまれた。


「解除……古代魔法で、強制解除魔法を……」


 いつしかハラハラと涙を溢しながら、どこか呆然と呟き始めたヒュシス。


 そんなヒュシスの体から、光る影アヴォイドが顔を覗かせる。


「駄目だ。

信用に足る探索者がいなければ、巻きこむ探索者諸共、魂を消失させしてしまう」


 強制解除?

信用に足る探索者?

探索者諸共、魂ごと消失?


 俺の勘が、この言葉を覚えておけと告げてくる。

魔力が高い者にありがちな、直感というあやふやな勘だ。


「それでも……このままじゃ、堕ちたヴェヌシスが異なる者に……」


 堕ちた者に、異なる者?!

まさか……まさか……俺は人が悪魔へと変わる瞬間を……見ている?


「…………もう、手遅れなのだ」


 暫しの沈黙の後、アヴォイドが告げる。


__バキィィィン。


 高音と低音が入り混じった不快な音。

何かが壊れる音が周囲に響く。


「ヒッ」


 幼く小さな悲鳴が、玉座の向こうから微かに聞こえた。

ヴェヌシスに生かされた王子だろう。


「「「悪魔」」」


 意識の中にいた俺。

映像の中のアヴォイドとヒュシス。

俺達の声が揃った。





※※後書き※※

いつもご覧いただき、ありがとうございます。


ヴェヌシスが使った魔法は、No.506でラビアンジェが使った魔法です。

成功した場合、No.507のようになるはずでした。

用途違いですが、ラビアンジェが展開した強制解除魔法はNo.508で、現在進行系で探索者が何かを探索中です。

よろしければ、そちらとの違いをご覧下さい。


そして今回で最後にする新作の宣伝です!

本作のシリアス続きで疲れた作者が、ノリノリで書いたコメディ寄りの作品です。

恋愛カテ要素どこやねんと思いつつ、書いてて心が潤う……。

もう見たよ、という方は読み飛ばして下さい!

以下、昨日と全く同じ宣伝です↓

【くっせえですわぁぁぁ!

〜転生女伯爵の脱臭領地改革〜】

https://kakuyomu.jp/works/16818093089751214336


カクヨムコンに参加しようと、以前にサポーター限定記事で投稿した作品を加筆しまくっております。


令嬢がオッサンに転生したら、深刻な体臭に悶絶して泣き叫ぶお話です。

コメディですが、ちゃんと領地経営的なスローライフ的なお話も織り混ぜていく……はず。

恋愛要素は少しずつ濃くなる……はず。

一般的に残酷とされそうなシーンは2話目だけだと思います。

※主人公的には、ある意味での残酷シーンが終始つきまとう気はしますが……。


コンテスト作品の為、よろしければフォロー、レビュー、応援を下さると大変嬉しいです。


書籍化した本作と共に、今後ともよろしくお願いします( ゚∀゚)o

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