578.お茶目と守護反転魔法〜ミハイルside

「ベルジャンヌ王女がロウビル様を……」

「ロウ爺じゃ。

儂、平民じゃからな」


 俺の言葉をロウ爺が遮る。


 ……そうか。

俺の祖母、シャローナの祖父はお茶目な爺さんだったのか。


 祖母も時折、ロウ爺のようにウインクする事がある。

こんなところに血縁を感じるとは。


「ロウ爺をここへ送ったのは、ベルジャンヌ王女だろうか」


 するとラルフが後ろからロウ爺へ声をかけた。


「……それは……すまんな、言えん。

儂はただの平民、ロウ爺。

ところで、ここには儂と血縁関係が見てわかる娘が、めんこい娘がおると聞いておるんじゃが。

どこにおるか知らんかな?」


 ロウ爺は、どこか切実さを感じさせる表情をする。

それにしても、めんこい娘……いや、確かにめんこいと思うが。


 ふとロウ爺と、目と目が交わる。

すると映像が視えた。


『ベル』

『ありがとう、助かったよ。

全員、ちゃんと生きてるね』


 そう言ったのは王女。

背負っているかのように見える竜へ、礼を伝える。


 王女の細い腰に、長い躯体を巻きつけている竜の瞳は、藍色に金が散った色。


 更に肩には手の平サイズのアルラウネ。

レジルスと同じ朱色の瞳だ。


 まさか……聖獣か?


 王女の背後に見える空に、月が出ていて、夜空がほんの僅かに白み始めている。


 ロウ爺の視点で見た王女のようだ。


『ベルジャンヌ様……』


 口を開いたのは息を吐き、ホッと安心した様子のシャローナもいる。


『ベルジャンヌ王女。

私ばかりか、孫娘のシャローナまで狙ったのですか』


 対して、先ほどロウ爺と呼ぶよう告げた老人の声は、厳しい口調を王女に向けた。


 会話の内容的に、ロウ爺とシャローナは何者かに狙われたのか。

しかし王女が狙ったと勘違いしたのは、何故だ?


 王女は全員無事かと言ったが、ロウ爺の視界には今のところ3人の存在しか感じられない。

ロウ爺とシャローナ以外にも、この場にいるのだろうか?


『私じゃないよ。

シャロ……んんっ。

ロナ、久しぶり。

私とロナは知り合い……軽い感じの顔見知り……程度の付き合いがなくもない……感じ?」


 王女、誤魔化すの下手くそか。

途中から、何をどこまで誤魔化すのかわからなくなってないか?


 最後はコテリと首を傾げてしまったぞ。


 そう言えば、王女は嘘を吐かない主義だとリリが言っていた。

誤魔化すにしても、王女からすれば嘘に近いのだろう。


『私が偶然、ここを通りがかったら、何故か君達がいただけ。

偶然……たまたまだから』


 王女よ、偶然を装いたいのはわかった。

かなりの非偶然感しか感じないが。


『そうですね、偶然です。

ベルジャンヌ王女がたまたま通りがかっていただけて、助かりました。

嬉しいです。

それよりあの、腰に魔獣が巻きついてますが、平気ですか?

それにその肩にいるのも魔獣じゃ……』


 全面的かつ全力で、王女の誤魔化しきれない誤魔化しに乗っかるシャローナは、どうやら聖獣を見た事がなかったらしい。


『ベリード公女に頼んで、父親の宰相から借りた。

ああ、散歩のお供……的な?

代わりにキャスの毛を使ったペンダントを公女に渡しておいた。

ああ、聖獣について口に出すのはご法度だからね』

『はい、秘密にしておきます』


 わかってます、と言った口調でシャローナが即答した。


 王女が借りたのは竜であるラグォンドルではなく、アルラウネの方だ。

王女よ、どうとでも取れるように言ったな。


 シャローナは、少なくともキャスが王女と契約した聖獣である事は知っているらしい。

もしかすると聖獣ではなく、魔獣だと思っているのかもしれないが、そこは判断できない。


『ベリード公爵が聖獣を?

何故?』


 訝しげな声を出したのは、ロウ爺だ。


 俺からすれば、聖獣を貸すなど考えられない。

この時代では、四大公爵家当主が聖獣と契約しているのは周知されているが、ロウ爺も俺と同じ感覚なのだろう。


『……お供が欲しいと思った、王女の我儘だよ。

ただ、宰相は君達がこうなると予測していたのかもね。

以前、私が守護反転魔法をロナに試験的に掛けておいたんだ。

試験的に、実験台にしてみただけだから。

ちょうどそこにいたのが、ロナだっただけだからね』

『はい。

たまたま近くにいたので、実験台になりました』

『実験台……』


 喜々としたシャローナを視界に捉えたロウ爺。

ボソリと呟いた口調には、険しさが取れている。


 恐らくロウ爺も、王女の誤魔化しが下手くそな事に気づいたのだろう。


『守護反転魔法……』


 更にそう呟いたロウ爺は、視界を自分達の周りにやる。


 闇夜に溶けこむような黒いローブを着た者達が、3人倒れていた。

全員が全員、血を流している。


 更に視界の端には崖と、崖から落ちたらしい馬車。


 馬車を引く御者が見当たらないが……。


『ドラゴレナは王城でシャローナを見て、私の掛けていた魔法に気づいた。

だから宰相に教えたんだ。

君とロナが帰りも同じ馬車で一緒に帰れたのは、宰相の采配でもあったみたいだよ』

『ベリードから、そこのオジジに伝言よ。

アシュリーの事、すまない。

ですって』


 王女の言葉にフンフンと頷いたアルラウネが、補足するようにロウ爺へと伝えた。


※※後書き※※

いつもご覧いただき、ありがとうございます。


守護反転魔法が気になった方はNo.344、No.345をご覧下さい。

そのあたりはエグいシーンもあるので、そういうのを見たくない方は自衛下さいm(_ _)m

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