562.悪魔のルール〜レジルスside
「だがその後、以前と明らかに変わった先代国王を見て、お前は先代国王へ取り引きを持ちかけた」
しゃがれた声でひとしきり笑ったジャビ。
今度は声に愉悦を含ませて続けた。
「そうなるよう仕向けたのは、ジャビでしょう」
「くっくっくっ。
俺はお前に囁いただけだ。
俺が取り憑く時に抵抗した、先代国王もそうだ。
お前達の欲を叶えると囁き、対価として俺の欲する何かを差し出させる」
「悪魔め」
愉しそうなジャビとは違い、スリアーダは腹立たしげに言い捨てる。
俺は今聞いている2人の話、そしてこれまでジャビが関わっただろう事柄を照らし合わせ、整理し、1つの結論を導き出した。
ジャビが人間の世界で何か事を起こし、干渉するにはルールがあるのかもしれない。
それはつまり、ジャビが目をつけた人間の望みを叶えた上で、対価として
「俺はチェリア家の血が混じり、かつ莫大な魔力を保持できる器が欲しかった。
先代国王は周辺国からの侵略を退けられるくらい、己が絶対的強者となれるだけの魔力と、更に失われたとされる古代魔法の知識を欲しがった」
「ならば私に頼る必要はなかったでしょう。
ジャビが先代国王を操るでも、先代国王を唆すでもしてアシュリーを得れば良かったはず」
「言っただろう。
基本は等価交換だ。
俺は先代国王の記憶を少しばかり改ざんして、お前が先代国王に侵した愚行を無かった事にする。
代わりにお前はアシュリー=チェリアに嘘を吹きこみ、神殿の祈祷室で先代国王と2人きりにさせる。
実に些細な等価交換だ。
先代国王は息子から婚約者を奪う事には、抵抗を見せた」
恐らくスリアーダはもちろんジャビも、まさか犬となった俺が壁1枚隔てた場所で聞いているとは思っていないのだろう。
随分と饒舌だな。
「ならば何故、ベルジャンヌの体を奪わなかったの?」
「ふん。
忌まわしい聖獣が祝福を与えて守っていたからだ」
ジャビの声音に、初めて不快さが出た。
俺達王族に与えられる祝福に、そんな力があったとは。
「ならば何故、先代国王に取り憑く事ができた?」
スリアーダも祝福については知らなかったらしい。
当然の疑問を口にする。
「祝福を受けた王族とて、自らの意志で俺を望めば俺を拒む祝福の力は弱まる。
ベルジャンヌは生まれた直後、今の国王が誰にも知られないよう、転移魔法を使って打ち捨てた。
もうわかっているだろうが、俺はお前の近くでしか存在できない。
アシュリーが産気づいた時、お前はアシュリーの側にいたが、お産が長引いてアシュリーから離れていただろう。
その隙に今の国王はアシュリーを別の場所にうつして、お前から引き離した。
更に俺がベルジャンヌを見つけた時には、既に俺が干渉できない結界に守られていた。
ベルジャンヌが結界から出た後は、聖獣キャスケットと正式な契約を、正しい形で結んでいたからな。
俺は下手に近づく事すらできん」
「ならば先代国王が死なぬようにすれば良かったじゃない」
「アシュリーがベルジャンヌを身籠ったとわかった時点で、俺と先代国王の契約は切れていた。
その上、まさか息子が父親をその場で殺すとも、先代国王が死を受け入れるとも思わなかったから、油断したのさ。
歯痒かったぞ?
俺自身にもっと力があれば、祝福の力などねじ伏せられるのにと、何度思った事か。
だが先代国王が死んだ場には、憎悪と嫉妬に塗れたお前がいた。
今の国王よりも、国王に抱きしめられるアシュリーを見て負の感情に支配されたお前といる方が心地良く、俺が存在できるだけの力を与えられた。
お前が初代国王の血が混じる、四大公爵家の嫡流だったのも良かった。
お前自身も、俺を欲しただろう?
心身ともに傷つき、疲弊するよう仕向けたお前の恋敵、アシュリー。
侯爵令嬢としての立場を葬る事も、お前が今の立場に就く事も、全て叶えてやった」
「私が望んだのは、アシュリーの死よ。
ジャビが言うから、ベルジャンヌが生まれるまで待ってあげたと言うのに」
「無理を言われても、どうしようもない。
生まれた直後のベルジャンヌが、無意識にか母体を仮死状態にし、肉体を守った。
そうこうしている内に、今の国王がアシュリーを何処かへ隠してしまったのも、アシュリーの生存に一役買った。
ベルジャンヌが死ねばアシュリーの魔法が解け、国王も何かしら動きを見せたろう。
だが結果は、お前の知る通りだ。
国王と交渉したベルジャンヌが、今度は母親を守っている。
だから代わりに今、こうしてエビアスの魔力を増やしてやっている」
ずっとわからなかった王女にまつわる過去が、こんな場所で明らかになるとは……。
俺は一言一句、聞き漏らすまいと犬耳をすませた。
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