563.王女の可愛いポチ〜レジルスside

「結局、私が直接スノーフレークを精製し、エビアスに飲ませているのに?

幾らか借りが足りないのでは?」


 スリアーダが不機嫌そうに口を開く。


「スノーフレークの球根に溜まった魔力。

俺の異なる力が無ければ、精製して魔力だけを抜き取る事はできないぞ?

エビアスが祝福花にスノーフレークを選ぶよう、お前を通して助言してやったのも俺だ。

初めは悪魔と呼ばれる俺を警戒し、エビアスに関わらせていなかった。

だが息子の魔力の低さに保険を掛け、エビアスにスノーフレークを祝福花に選ばせたのはお前だ。

随分と都合良く、俺をこき使ってきたじゃないか」

「ベルジャンヌさえ死んでいれば……せめてキャスケットと契約などしていなければ。

エビアスは陛下の唯一の子としていられたわ。

そうすればエビアスの魔力がどれだけ低くとも、悪魔に頼る必要はなかったのに」

「お前は十分に努力したさ。

実の父親であるアッシェ公爵を使い、今は亡き聖獣ピヴィエラを、常にエビアスの側に待機させていた。

あたかもエビアスが魔法に長けているよう、装う為に。

エビアスの魔力も、魔力の回復速度も、せいぜい中位貴族レベルだったからな。

運が悪かったんだよ、スリアーダ」


 まるで甘言を吹きこむように、ジャビは声を少し落とす。


「ベルジャンヌが聖獣と契約したばかりか、膨大な魔力量に古代魔法の知識まで併せ持っていた。

挙げ句、エビアスが魔力を増やすリミットと言われる10才を、とっくに超えた頃に聖獣ピヴィエラが死んでしまったんだ」

「せめてピヴィエラの子さえ手に入っていれば……」

「だが聖獣ピヴィエラが子を生むと気づいて、教えたのも俺だっただろう?

聖獣ピヴィエラから子を奪いやすくする為に、産後を狙って危険度の高い魔獣を暴れさせ、襲わせる方法を教えたのも俺だ」


 ジャビの言葉にハッとする。

聖獣ピヴィエラが死んだあの日。

魔獣集団暴走が起きていた。


 まさか引き金となったのは、ジャビが何らかの方法で狂わせた魔獣だったのか?


 俺が過去に飛ばされる前。

薄赤い結界に覆われた学園で、魔獣達が暴れていたのも……。


「だが結局、エビアスは機会を逸した。

俺が囁き、いずれ国王となるエビアスに成り代わり、ロベニア国の支配者となる野望に取り憑かれた、お前の父親であるアッシェ公爵もいたのにだ。

実体のない俺ができる最大限の助力を、お前にしているだろう?」

「わかっているわ。

だからと言って、私がお前を信じるだなどと思わないで」

「悪魔に警戒心を抱くのは、当然だ。

俺はお前が抱える負の感情を気に入っている。

だからお前に力を貸し、お前は利用する。

何も勘違いなどしていないさ。

エビアスが祝福花に定めたスノーフレーク。

その球根に溜まった魔力は、エビアスに定着する。

もちろん魔法を使えば魔力を消費するが、スノーフレークから精製した魔力は、俺の言った通り消費しにくい。

何も間違っていなかっただろう?」

「そうね。

元々のエビアスなら、発動途中で魔力を枯渇させてしまう上位魔法も、使えるようになったわ。

ジャビの言う通り、副作用もない」


 本来、自分以外の魔力を体に補充しても、長く定着はしない。

魔力の適性が合わなければ、補充した魔力が己の魔力を触発して魔力暴走を起こす事もある。


 どうやらスノーフレークを精製して取り出した魔力とやらは、スリアーダも認めるくらいには、エビアスにとって都合の良い代物らしい。


「同時に毒もできるのだから、正負の帳じりも合っているだろう?

実体のない俺が、お前に知識を与える。

俺の力が干渉するのを受け入れながら、実体を持つお前自身の手で、スノーフレークを精製し、エビアスに副作用がないよう毒の成分を分離する。

全てお前が確認している。

俺を信じずとも、自分が直接目で確認した事は信じられるはず」

「ええ。

聞いていた通り、毒は人間の体から魔力を垂れ流させるだけでなく、魔獣の気性を荒くさせた。

聖獣ピヴィエラにけしかけた魔獣で試したから、嘘がないのもわかっている」


 何だと?!

あのスタンピードの実行犯は、ジャビと共謀したスリアーダか!


 あの時起きたスタンピードを沈静化させ、後に蠱毒の箱庭と呼ばれる森を共同管理する事で、森に隣接する他国との国交を正常化させたのは、王女だ。


 スリアーダは王女の功績を奪い、魔力枯渇の症状に苦しむ王女を冷たい地下牢に入れている。


「……ヴゥ……」


 あの日の怒りが再燃し、犬らしい唸り声が口から漏れてしまった。


 王女の可愛いポチ

それが今の俺。

落ち着け、ポチ

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