558.スパルタか?!〜ミハイルside
「リュイェンに魔法抗体ができれば、流民達を隣国に返せる。
リュイェンはずっと流民達を守ってきたみたいで、流民達も信頼してる。
今ならリュイェン自身が流民、いや、隣国の部族をまとめるリーダーになれる」
「なるほど。
しかし隣国は今、紛争が多発しているのでは?」
「毒の特効薬として隣国でしか育たない花を使う。
紛争の原因は部族間衝突だけど、その根本的な原因は食料難だよ。
ここ数年、作物の育ちが悪化した上、魔獣の数が増えた。
人が襲われる事も多発して、住みやすい住処を求めて異なる部族が衝突したんだ」
「食料難はともかく、魔獣ですか?
しかし魔獣なら魔法で……」
「隣国の国民達は元々魔法には疎い。
魔法具でどうにかしようにも、その知識が乏しいんだ。
流民達がここにいる間に、魔獣避けの使い方については教えてある。
まあ、その内の大半が倒れてしまったのだけど。
でも特効薬ができて回復させれば、ある意味好都合かな」
「何故、好都合だと?」
「だって魔力が増えるでしょ」
「は?」
「うん?」
衝撃の発言を、さも当然のように言い放つ王女に唖然とする。
王女は無表情。
しかし俺は察した。
王女は俺が理解できていないのが何故か、理解できていない。
「魔力は10才以降に後天的に増えませんよね?」
「どうして?」
「え?」
「うん?」
今度は互いに首を傾げ合い、見つめ合う。
「「……」」
何だろう、この間は……。
「ゴホン。
王女は、どうすれば魔力が増えると?」
「死にかけるくらいの魔力枯渇に陥る事。
それもあって、流民達に魔力補填はあまりしてない。
もちろん本当に死ぬと思ったら補填してあげてるよ」
「……」
しれっと何やってんだ、この王女?!
絶句してしまっただろう!
スパルタか?!
頼まれてもないのに、何を地獄のコーチングしているんだ?!
レジルスもしれっとやらかす体質だったな!
王族ってこんなんばっかか!
「危険、では?」
「見極めは難しいけど、何度も魔力を枯渇してきたから大体わかる。
私も死んだ事はないし、問題ない」
「ソウデスカ」
冷静になれ、俺。
そもそも魔力枯渇は危険だ。
しかし王女が新説にたどり着いた理由は、自分が魔力枯渇に陥ってきたからだと言うなら、わからなくもない。
なるほど、自分の体験からか。
それなら問題ない……わけないだろう!
自国の民じゃないんだぞ!
これがバレたら外交問題だ!
確かに俺が猫だった時。
王女は魔力枯渇に陥っていた。
少し前の会話から、王女が頻繁に魔力を枯渇させていたのは窺える。
過酷な環境で生きた王女には、情緒ではなく道徳観を養ってもらう必要がありそうだ。
いや、常識からか?
それにしても……。
妹は魔力の低さから、魔力枯渇を頻繁にしてきた。
なのに何故、魔力が増えていないんだ?
死にかけるほどではなかったからか?
枯渇への耐性があるとかで、ピンピンしていたな。
それとも元々の魔力が無いに等しく、増えてやっと生活魔法レベルだったのか?
「だから流民としてロベニア国にいる人達が戻れば、紛争は自然に落ち着く。
神殿にいる流民達は三大部族が入り混じっているし、食料難も魔獣も解決できる。
特効薬はある事に特化した、隣国にしか咲かない花を使うから。
その花をちゃんと管理して、薬を管理すれば他国と貿易すれば経済は回る」
「しかし隣国にしか咲かない花なら……」
「ポチを使う。
予想通りなら、花は王城にある。
ポチは犬の特性上、城の抜け道や隠し部屋を見つけるのが上手いんだ」
それ、
「何故、王城にあると?」
「毒を精製した人が、城にいる。
露呈して困るのは精製した人だから、邪魔はできないよ」
「誰が毒を生成したか、わかっているのですか?」
「うん、さっき大体わかった」
さっき?
王女と離れていたのは、せいぜい数時間。
一体、何があった?
「花も特定できた。
君に教えるつもりはないけどね」
王女が前もって釘を刺してから続ける。
「貧民街の治水工事も合わせて行うけど、こっちも邪魔されないように魔法でゴリ押しして、最短で終わらせる。
それを自分の成果にしつつ、露呈を防げたと思えば納得もするよ。
国王と王妃が私への当たりをキツくするだろうから、収束させた後は城から出られなくされそうだけど。
ちょうど平民達の学校の話も持ち出されていたんだ。
あの辺りの問題を紐づけて一気に片づけると言えば、いつも通り餌に食いつくよ」
それ、俺の時代では先々代王妃と先代国王の功績になってるぞ。
だとすれば毒の精製は、スリアーダかエビアスが絡んでいるのか?
「ここは私が許可した者以外、入る事はできない。
安全だよ」
「王女は何故、隣国に手を貸すのです?」
「……今は秘密。
そのうちわかるよ。
そろそろポチにお使いを頼むから、リュイェンをよろしくね」
そう言って、王女は再び俺に近づく。
な、何だ?!
また顔をくっつけて……。
__カサ。
身構えると、王女はかがんで俺の後ろに落ちていた……手紙か?
手紙を拾う。
手紙の封蝋が目に入る。
「白い……リコリス」
見覚えがある封蝋だった。
【チェリア伯
貴公の娘は存命。
月満ちる日、教会に集う流民の中に紛れる。
娘も迎えも、流行病から必ず守る。
保護して欲しい。】
そう書かれていた、差出人のない手紙。
家族の絵と共に、チェリア邸で隠されていた。
あの手紙の差出人は、やはり王女。
点と点だった事実が繋がり始める。
「秘密にしておいて。
他言したら、私はきっと
こちらを見ずに告げた王女は、明らかな殺意を俺にぶつけて警告する。
「……あ……」
体が震える。
誰も意図的に殺さなかった王女の殺意は……俺を恐怖させた。
王女は目だけで俺を見て、殺意を霧散させてから静かに部屋を出て行った。
※※後書き※※
いつもご覧いただき、ありがとうございます。
少し長くなりましたが、次は別視点となります。
ミハイルが手紙を見つけた経緯はNo.400に書いてます。
よろしければご覧下さいm(_ _)m
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