557.的な?らしい?〜ミハイルside

「今回の流行病騒ぎは、2つの要因から起きてる」


 俺の戸惑い。

そしてまた王女は功績を奪われていたのではないか、という確信に近い疑念を持った事など知るはずもない王女は続ける。


「1つは本当に病。

最終的に高熱を出したパターンがそう。

この病は昔から定期的に流行るから、貴族も平民も関係なく罹患する」

「もう1つは?」

「毒。

それも精製に魔法や魔力で干渉した魔法毒。

昏睡して低体温になるパターンだね」

「しかしそれなら、既存の薬が効く者もいるのでは?

今からでも薬を取り寄せれば、少なくとも患者の数を減らせるはず」


 俺かこの部屋からでないなら、また王女を助ける人手が減る。


 それなら、少しでも患者を減らすべきだ。

そう考えて提案する。


「流民達の大半は、既に毒を体内に溜めてしまってる。

毒は体内の魔力をジワジワと消費させる」

「魔力を消費……まさか昏睡の原因は……」


 症状に思い当たると、王女が軽く頷いた。


「そう、魔力枯渇だよ。

魔力を枯渇すれば、吐き気や嘔吐の症状も出る。

疲労も蓄積して、抵抗力も低下する。

だから死ぬ事が稀な既存の病も、重症化しやすくなる。

病と毒。

それぞれ似た症状を発症させてしまうから、厳密に区別するのは難しい。

けど魔法抗体ができれば、病に効く薬と合わせて流民達へ薬を回せる」

「薬を……回せる……」


 怒りが湧いて、歯噛みする。


 ここに来て初めて知ったのは、教会は流民達に迫害されない野ざらしの土地を提供しただけで、病を治す気はなかった事だ。


 平民は信者だからと、神殿内のどこかで保護しているらしい。

もちろん薬も提供され、回復した者もいるとリリから聞いた。


 流民達は薬すら支給されておらず、王女が自ら処方する薬と魔法で命を繋いでいる状態だった。


「そうだね。

新たにできた薬は、どんな副作用が起こるかわからない。

だから流民達を実験台にするという名目でなら、優先的に使える」

「それなら何故、ロベニア国内の平民達にも広がっているのです?

高熱はもちろん、低体温となって昏睡する者もいると聞いています。

平民達は神官がどうにかするのでしょうが……」

「多分、共通の飲食物から毒を接種したんだ。

始まりは、隣国内だったんじゃないかな。

それがロベニア国内のある地域を中心に、摂取してしまうようになった。

流民達の移動に伴って起きたように見えたから、流民達が広めた流行病として誤認された」

「共通した物からの摂取……」


 王女の推論なら、流民達の方がより重篤な症状が出ているのも頷ける。

毒の摂取量と摂取期間の違いだろう。


 流民達は貧民街の片隅で固まって生活していた。

食べ物も乏しく、痩せ細った者が多い。

季節的に、流民達は野草すら手に入りにくい状況だったはず。


 だとすれば……飲み水か?


 貧民街の者は川の水を飲んで飢えをしなのいでいたと、豚骨風スープを飲みながら涙ながらに語っていた。


 今は神殿の敷地内にある井戸水を使っているが……。


「平民の中でも特に症状が重いのは、貧民街近くに住む人達。

まだ貴族に発症した人がいないのは、きっと……」


 そこで言葉を濁す王女は、既に正解にたどり着いている。


「症状が似ていたから選別が難しくて、リリに頼んで学園の図書館から医学書を借りてきてもらったんだ」

「それでリリが学園にいたんですね」

「うん。

それに少し前、偶然耳にした話があって確信した」

「予想はしていたと?」

「うん。

だから君達がリリとここへ来る前に、毒に目星をつけて弱毒化した疑似毒を作り、リュイェンに摂取してもらってたんだ。

でも言っておくけど、リュイェンは自分から実験台になたんだよ。

流民達に知らせるなとリュイェンに言われたから、ここで密かに匿ってる。

元々リュイェンは流民達の族長になるべくして育てられたけど、今は流民達の心の拠り所……的な?」

「……的な?」

「リュイェンに何かあれば、迫害に耐えていた流民達は統制が利かなくなって、一斉に暴徒と化す……らしい?」

「らしい?」

「うん。

リュイェンがそう言ってた。

だからここで人知れず実験台になってる。

私にはわからない心情だけど、歴史書に書かれていた過去の暴動は、そういう事が理由になったやつもあると記されてた。

ソビエッシュとリリもそうだって言ってたから、多分そうなんでしょ?」

「……ソウデスネ」


 どうやらソビエッシュ祖父は、王女へアドバイスできるくらいの仲ではあるらしい。


 やはり王女には、情操教育が必要だと強く思った。

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