556.弱い者虐め〜ミハイルside

「王家と四公にとってロブール家は資産もあり、自分達の味方にならないけど、他の貴族誰の味方になるわけでもなく中立を保つ。

逆を言えば、王家と四公を他の貴族と橋渡ししてくれる役割を担っている。

もう何代にもわたって聖獣を保持していないから、王家や他の三公にとって脅威にもならない」


 王女の言葉に引っかかる。


 ロブール家は、いつから聖獣と契約していないんだ?

王女が亡くなった時、聖獣は王家と四公を見放したと聞いていた。


 だからロブール家当主は現状、聖獣と契約していると思っていた。

聖獣ピヴィエラのように聖獣が亡くなる時、次代に継承し、その時四公当主が契約するものだと考えていたが……。


 しかし王女は2体の聖獣と契約している。

聖獣ラグォンドルが王女以外と契約するとは思えない。


 特に奥方を喪う原因となったアッシェ家当主。

あの当主とラグォンドルが改めて契約を結ぶなど、考えられない。


 という事は、少なくともロブール家とアッシェ家は王女の死と関係なく、聖獣と契約していなかった事になる。


 一体どこまで真実と違う話が、俺達の時代に引き継がれているんだ。


「魔力も高く保っている血筋で、自分達の血と掛け合わせられるくらい血を濃く残している。

だから手元に置きたい。

けど災いの芽になるなら潰しにかかる。

もしソビエッシュが固執した相手が私でなかったら。

それも相手が伯爵位以下なら、ロブール家の血を色濃く保つ為に相手の方を消すだろうね。

その相手と子ができていれば、災いの芽になる子供ごと」


 ふとシエナの母親平民と駆け落ちした、伯父の存在が頭を過った。


 四公の次期当主から平民となった伯父。

それも見つからないように隠れ暮らしていたと聞く。

その日の食料にありつくのも、大変だったはずだ。


 全ては将来、自分と共に死ぬ妻と、自分と妻を殺すシエナの為に堪えていた。


『あなたの実母は何よりも自分の命を守るという観点において明らかで覆しようのない圧倒的な力不足だったの。

もちろんまだ存在さえしていなかったあなた子供も含めてね。

最初から平民の出となるあなたの実母が四公の家の夫人として存在するなら命は確実に無くなっていたから。

つまり誰かしらによってあなたを身籠る前に、あなたの実母は消されていた。

少なくとも当時の勢力関係を考えても、そう動きそうな貴族の家は他の四公を始めとしていくつかあったでしょう?』


 魔法呪事件が起きた学園の男子寮屋上で、妹がシエナに告げた言葉が俺の心に重くのしかかる。


「だから君にはこの部屋から出ず、出る時は必ず顔を隠しておいて欲しいんだ。

君がロベニア国に来た、本当の意図。

知らないし、興味もない。

観察した限り悪意もなさそうだし、魔力も高いからちょうど良い。

ただヒュシス教の教皇は目ざとくて、小賢しい。

教皇が国王と王妃に働きかけ、あの2人がつまらない命令を私に下さないよう自衛して。

やるべき事が山積みなのに、感情任せな命令をされたら、それを逸らせるのにまた時間を取られる」


 そうか。

王女はそれを言いたかったのか。


 つまり俺の存在が知られると、ロブール家の嫡子でないと判断され、殺されるかもしれない。

とは言え俺への抹殺命令は、もし下っても無視すると。


 弱い者虐めか。

確かに王女からすれば、大半の者が弱者に認定される。


 逆を言えば、国王と王妃も弱者認定しているのか?

だからピヴィエラの言いつけを守り、やり返さずにいると?


 いや、それは……しかし俺の知る限り、王女は怒りもせず、自分を傷つけ、蔑まれても相手にしていない。


 逃亡猛者にして、悪感情を常に受け流す俺の妹。


 そんな公女としてはあるまじき妹と王女は、やり方が違えど暴挙や暴論を受けずに流している。


 もしここに妹がいたら、王女に逃走猛者の極意を教えてやれたのに。


 ありえない事をつい考えてしまう。

それくらい今の王女は、堪えに堪え、激しく生命力を消耗しているように見える。


「それから、もう1つ。

君はここでこの人、リュイェンって言うんだけど、リュイェンが死なないよう回復魔法をかけ続けて欲しい」

「回復?

治癒ではなく?」


 実験台にしたなら、治癒魔法の方が効果的では?


「もうじきリュイェンには魔法抗体ができる。

治癒魔法をかければ、抗体ができなくなってしまう」

「魔法抗体?

流行病ではなかったのですか?」


 魔法抗体とは、魔法が絡んだ毒への抗体だ。


 俺の時代では先代国王となるエビアスが、教会と共に流行病の治療薬を作ったとされているが……。

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