554.まず情操教育から?〜ミハイルside
「う……っく……はぁ、はぁ……」
王女に言われるがまま入った部屋。
ベッドで苦しむの黒髪の男は……ん?
どこかで見た顔立ちだな?
「……彼は?」
「隣国三大部族の1つであるフィルン族。
そこの族長の息子だよ。
ほら、この目」
グイッと瞼を押し開ければ、金色の瞳が見えた。
それにしても意識なく苦しんでいる者に対して、遠慮がない。
うちの妹とは違う意味で、教養を養うべき……。
「ちょっと実験台にしたら、こんな感じになった」
「ちょっと……何をどうしたら……」
王女はまず、情操教育からか?
全く悪びれもしていない。
「それより君、ロブール家の嫡流だよね。
私の婚約者、ソビエッシュ=ロブールと同じ瞳の力を持ってる」
「それは……」
いつ気づいた?!
どう言い訳すべきだ?!
「ああ、別にいつの代のロブール公爵が、どこで種蒔きしてようと、どうでも良いよ」
「種蒔き……」
見当違いだが、普通はそう考えるよな。
時を遡ってきたと思い当たる方が難しい。
「うん。
その力は嫡子でも滅多に顕現しないと思っていたけど、嫡流でも稀に顕現するんだね」
王女は何故それを知って……そうか。
祖父が瞳の力を暴走させた時、王女が助けていた光景を思い出す。
王女は天才魔法師だ。
恐らく魔法馬鹿の父上をも凌駕した魔法の才を持つ。
更に聖獣ピヴィエラから生まれてすぐに知恵を授けられた。
今では聖獣2体と契約もしている。
正直そんな
挙げ句、俺の母方の祖母のような身分の低い貴族も含め、国中の貴族に軽んじられているというのに。
やはり何か理由がある。
まずは理由を見つけ、王女の命をどうやって救うか考えなければ。
「ロブール家に生まれる人間は、変わった気質になりやすい」
人知れず決意を新たにしていれば……それ、いつぞや聞いた事があるな?
魔法馬鹿な俺の父親も、その類の人間だと思った記憶がある。
「その気質を持つ人間であるほど、優秀な場合がほとんどだ。
だからこそ王家と他の三大の公爵家は、ロブール家の嫡子が外、特に他国に流れていかないよう監視してる」
「え?」
監視という言葉に眉根が寄る。
「国王や王妃は本来、私が地位ある者に嫁ぐのを良しとはしていない。
なのに四大公爵家の1つであるロブール家の次期当主、ソビエッシュと私を婚約させた。
それはソビエッシュが私に興味を示したからだ。
この国に縛りつける為に、仕方なく結ばせてる」
「仕方なく……」
「うん。
あの国王と王妃が、どうして認めたのか気になって調べた。
ロブール家の人間が誰かや何かに固執するほど、その人間は優秀な場合が多い。
君とソビエッシュが得た瞳の力。
稀にではあるけど、ロブール家に現れる瞳の力を流出させたり、ましてや周囲に気づかせる事を避ける意図もあるのかもしれない。
瞳の力を使えば、他人の過去を知る事もできるでしょ。
何を考え、どう策謀しているのかもわかる。
利用価値は十分あるよね」
「王女は何故、国王と王妃が王女とロブール家次期当主の婚約を好ましくないとお考えなのですか?
王族ならば、四公家との婚約は喜ぶべきでは?」
ロブール家の気質については、とっくに知っている。
瞳の力を得た者が、かつて秘密裏に殺されていた事も。
祖父から聞かされていたが、王女の言葉から改めて納得できた。
だから1番気になった事を尋ねる。
本当は国王と王妃が王女を虐げる理由を問い質したい。
もちろん俺と王女は、出会ったばかり。
少なくとも王女はそう認識している。
そんな質問はできない。
「嫌われているからね。
原因はわかっている。
ただ、どうして私を嫌う心情になるのかまでは、正直わからない」
原因はわかっても、他人の心因までは理解できない。
どうでも良い事のように淡々と伝える王女は、そう言いたいのか?
やはり王女に必要なのは、情操教育では?
「話を戻すけど、裏を返せばロブール家の人間が何かのきっかけで敵になると、とても厄介になる。
だから血が外に流れて管理できないのも良しとできず、血が薄まって優秀な人材が生まれないのも良しとしない。
だからソビエッシュがロブール家から出奔しようものなら、全力で消そうとするはずだよ。
その時は私に消せと命じるかもしれないね」
「なっ……王女はその命に従うのですか?!」
事もなげに話す王女に絶句する。
王女は、祖父の事をどう思っているんだろうか。
俺が王女と人の姿で再会する前に視た光景。
更に王女が亡くなった直後に視た祖父の様子。
少なくとも祖父が王女に固執するのは、恋情からだ。
王女は違う気がする。
少なくとも、婚約者である祖父に対する恋情は見受けられない。
「そうはならないし、そうならないようにしてる」
「王女は……今まで人を殺めた事が?」
まさか人殺しを命じられた事もあるのか?
あの国王と王妃なら、そう命じる事もあり得ると思い至った。
※※後書き※※
いつもご覧いただき、ありがとうございます。
ここから数話は、No.238〜No.241のおさらいと伏線回収予定です。
次話にグロ表現はありませんが、2章でラビアンジェが家格君(エンリケ)と金髪組(ペチュリム&マイティカーナ)を決して名前で覚えず、3人の死傷に淡々としていた要因が垣間見える話となります。
ベルジャンヌ(ラビアンジェ)に失望される方もいるかもしれないので、先にお知らせです。
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