552.今は時期を見ている

「悪魔は異なる者……スリアーダは教皇が悪魔の正体を知っていると考えていた。

教皇も否定していたけど、口調からは多分知ってると考えて間違いない」

「それにスリアーダが聞いた悪魔の正体話を、馬鹿エビアスの魔力がどうとかってすり替えてた。

あの意地が悪い顔は、どう見たって知ってるけど言ってやらないっていう顔だったね」


 昔から何かと関わる教皇は、とんでもなく底意地が悪い。

キャスの言葉に頷くしかない。


 金を渡せば黙る分、国王やスリアーダより御しやすい人間ではあるけど。


「それに先代国王が悪魔に取り憑かれたという話」

「そう言えば死ぬ間際、アシュリーを見てヒュシスって言ったんだってね」

「キャスは知らなかったの?」

「僕は先代国王との契約が切れた瞬間、一目散に逃げたから。

あんな歪んだ聖獣契約を結ばされるなんて、二度と御免だったんだ」

「どれも初耳な話ばかりだった。

流行病については薄々気づいてたけど、教皇はエビアスと先代国王の魔力に含みを持たせてた。

どちらにしても、ヒュシス教の教皇のみに口伝で伝わる情報も含めて、教皇が満足するだけの金なんてない。

精神に作用する闇魔法を使うにも、教皇は自分の守りに特化した魔法を念入りに習得してる。

時間もないから聞き出すのは無理か」

「そもそもあの守銭奴が、全ての情報を正しく伝えるなんて有り得ないよ」

「となると、国王や真の王太子しか辿り着けない情報に期待するしかないかな」

「うーん……でもベルがその情報に近づくのは……」

「わかってる。

国王が私に王太子教育を受けさせたのは、私を王太女にする為じゃない。

エビアスの影として、私の一生を利用しつくして終わらせる為だ。

私が王家の真骨頂的な情報を入手する術は、きっとないよ」

「それにベルは国王に、ベルの真名で王家の情報を探るのは禁じているでしょ。

今回みたいに偶然知り得た情報以外、ベルが探そうとしても認識できないから、見つけられない可能性が高いよ」

「そうだね」


 私は実の母親であるアシュリーを国王から引き離した。

対価として国王に、自分の真名で縛られる事を選んだ。


 真名は王家に祝福を与える聖獣が与える、祝福名を含む名前の事。


 ピヴィエラの話を聞くまで、その聖獣の名前は知らなかった。

もしかしたら国王も知らないんじゃないかな。


 今はピヴィエラの告げたアヴォイドが、祝福名を与える聖獣だと直感してる。


 でも最古の聖獣は死んだか、現在も姿を見せて四公に縛られているとされている。


 アヴォイドは他の聖獣とは違う、特殊な役割を持った聖獣なのかな?


 私も含めて王家の嫡子は、母体に宿った際に祝福名を与えられる。

その後、生まれた嫡子に親が名前を付けると真名となる。

私の真名なら、ベルジャンヌ=イェビナ=ロベニアだ。


 祝福名は生まれた時から既に知っている。

言葉を話せるまで成長した頃、両親あたりが質問するんじゃないかな。


 私みたいなケースは特殊だろうし。


 ただし国王が王家の嫡子を真名で縛る場合、祝福名の他に、ある物を嫡子が自主的に捧げなければ縛れない。


 それが嫡子自らで定めた花。

その花に嫡子に宿る祝福の力を混ぜ、祝福花として具現化し、国王に捧げる必要がある。


 普通は王族が王族印を決める際、嫡子は知らずに国王へ捧げている。


 けど私は国王が私の存在を消したと思っていた3年間で、ピヴィエラからはベルジャンヌという名前に祝福を受けた。

更にキャスケットとは正式な形で契約をしている。


 だから国王と対面する前から、白のリコリスに祝福の力を混ぜて具現化もできていた。


 国王がリコリス=赤色という固定観念を持っていたのも手伝い、国王の目を欺けたのは僥倖と呼ぶべきだったのかもしれない。


 国王は私の定めた花は、のリコリスだと思っている。

実際はだ。


 他の四大公爵家は歪んだ聖獣契約をした上で、国王に忠誠を誓う。


 だから不自然なのに、自然に見える形で国王は聖獣の主になってしまっている。


 ピヴィエラ自身は、意図していなかったと思う。


 ピヴィエラによって英才教育を施された私は、聖獣達を王家と四大公爵家から解放する唯一の可能性に気づいた。


 キャスにも、誰にも教えていない。

下剋上式に聖獣を解放する力技だ。

チャンスは1度しかない。


 今は時期を見ている。

私には少なからず守る者がいるから、彼らを危険から遠ざけてからでないと、実行できない。


 母親のアシュリー。

偶然の縁で繋がったリリ。

本当は従姉妹のシャローナロナ

そして私が知る、全ての聖獣達。


 婚約者のソビエッシュエッシュは公子だし、瞳の力も十分コントロールできるようになった。

もうすぐ学園も卒業するし、もう良いかな?


 ただ、全ての聖獣の解放となると……やっぱりロベニア国建国から遡って、全ての疑問を解く必要がある。


 ポチと一緒にいた猫。

あのキラキラと月に煌めく菫色の瞳を見た時から、特に強く思い始めた。


 アヴォイド……私の生に初めて祝福を与えてくれた君も、自由にしたいんだ。







※※後書き※※

いつもご覧いただき、ありがとうございます。

これにてベルジャンヌ視点は終わりです。

元々ラビアンジェが知っていた情報に加え、ミハイル達が関わって得られた過去の情報。

そこに着目下さると、今まで撒き散らした伏線を読者様で回収しやすくなるかなと(*´艸`*)

次話からはまた別視点となります。


サポーター限定記事にて無駄にパッションを刺激されて作った短編小説も、明日でラストとなります。

よろしければご覧下さい。


そして最近完結した新作が、恋愛部門で週間32位!

本当にありがとうございます!

まだの方もよろしければ、ご覧下さいm(_ _)m

短編なのでお時間はかからないかと!


【タイトル】

殺意強めの悪虐嬢は、今日も綱渡りで正道を歩む ※ただし本人にその気はない

【URL】 https://kakuyomu.jp/works/16818093087443681717

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