551.初代国王に違和感

「キャス、さっきの【冥獣は時逆ときさかにより、聖獣の主を異なる者へと至らしめん。

冥神はその後、6つの非なる力で静かなる眠りを異なる者に与えて封じた】ってやつ。

聞いた事ある?」

「ううん。

けど聖獣の主、異なる者、非なる力ならわかるよ」

「そうだね」


 聖獣の主は、今は現王だ。

王が攘夷する際、次代の王へと自動的に引き継がれていくとピヴィエラから聞かされている。


 異なる者は悪魔。

非なる力は聖獣の力。

どちらの力も人間の魔力を基準に、「異」か「非」を選別している。


「6つの非なる力か。

ニルティ家に縛られるヴァミリア。

炎鳥だけあって魔力は火属性に偏ってる。

ベリード家に縛られる聖獣ドラゴレナ。

植物型魔獣のアルラウネの魔力は土と闇属性。

ロブール家、アッシェ家に縛られている聖獣は、今はいないよね」

「私と契約するキャスの魔力は風属性。

ラグォンドルは水属性。

魔力が水属性と聖属性だったピヴィエラは、もういない。

それで言うと、非なる力の中で今ないのは聖属性の聖獣の魔力になるのかな?」


 ラグォンドルはピヴィエラから聖獣の素養を継承した。

けれどラグォンドルの魔力から、聖属性の魔力は感じられない。


 魔獣が元々持ち合わせた魔力属性は、変わらないって事になる。


 聖属性の魔力を有しているのは、むしろピヴィエラの生んだ卵の中にいる魔獣

だから私の魔力は聖属性に絞って、殻の上から与えている。


 ピヴィエラはラグォンドルに合わせた姿をしている事が多かった。

けど本質は、翼の生えたドラゴン。


 卵の中の子は、どんな姿をしているんだろう?

もうじき孵化するから、直にわかる。


 ピヴィエラとの最期の約束通り、やっとラグォンドルと会わせられる。


「僕は会った事ないけど、初代ロベニア国王は6属性の魔力を持つ、6体の聖獣と契約したはずだよ」

「そうだね。

けど聖獣の数は、いつから減ったんだろう?

キャスは知ってる?

キャスの前の聖獣は2代目に当たる聖獣だったね。

何か最古の聖獣について聞いてない?」

「うーん……前の聖獣からは何も……」


 ピヴィエラと交わした最期の会話から、最古の聖獣にはアヴォイドという名の聖獣がいた事はわかった。


『……アヴォイド?』

『何故、忘れていたのかはわからぬ。

随分と長き時を生き、いつしか聖獣との契約が歪んだ事で記憶もまた、歪んだのやもしれぬ。

全てを思い出せたわけでもなく、この記憶が正しいものかも今となってはわからぬ。

なれど少なくとも、妾達3体は悪魔を滅ぼせぬ。

それたまけは確信しておる」


 ピヴィエラから、アヴォイドという名の聖獣がいた事を知らされた時の会話だ。


 ピヴィエラ、ヴァミリア、アヴォイド。

この3体が初代国王と契約した聖獣なんだと思う。


 だとしたら他の3体は、どこに消えた?


 寿命がきて、次の代に引き継いだと語られている聖獣。

けれどアヴォイドも含めた4体の聖獣の名前が、どうして後世に残っていないんだろう?


 それに、さっきのキャスもそうだけど、ピヴィエラも記憶に歪みが生じてたのも気になる。


 それだけじゃない。


 1番不思議なのは、初代国王の名前がロベニア国内から消えている事だ。

普通、国を興した者の名前が消えるなんて考えられない。


 一説では、初代国王の時代は侵略戦争が激化している頃で、残らなかったとされている。


 キャスはともかく、ピヴィエラまで知らないって事はあり得ない。


 ピヴィエラは死ぬ間際、何かを思い出していた。

それまでは自分を聖獣に昇華させた契約者なのに、遠い昔で記憶が朧気だと言っていた。


 もしかすると、初代国王の名は意図的に消された?

アヴォイドや他の2体の聖獣の事も、そうだったりする?


 王家にまつわる事だから、王城内を調べた事もある。


 ただ残念ながら私の身分は、王女扱いだけど王族とは認められてない状態。

国王もスリアーダも、私が動くと必ず警戒する。

もちろん何かと邪魔もしてくる。


 調べ物も王家にまつわる事に関しては、深い情報まで辿り着けない。


 とはいえエビアスは、王太子としての資質なしと判断している。

少なくとも国王は。

だから王太子教育を私に受けさせた。


 得た情報を鑑みても、やはり初代国王の事に違和感を覚える。

名前に加え、どうして死んだかすらわからない。

具体的に成した政策も含め、不自然な程に情報がない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る