541.嘘と真実〜ミハイルside
「今、流民達の間で広まっていた病が、平民達にも広まりつつあります」
シャローナの言葉に、やはりと思う。
学園祭間近だというのに、学園内が静かだったのは、流行病のせいだろう。
俺達の時代では、
しかしそれなら、何故エビアスは学園にいるんだ?
たまたまか?
「王女は教会に交渉して、病で苦しむ流民達を教会に受け入れ……」
「教会に交渉したのは、王妃と私だ。
ベルジャンヌは日頃から王族としての役割を果たしていない。
それ故に、陛下は教会で奉仕するよう命じた。
誰から何を聞いたか知らないが、虚偽の噂に惑わされるな」
シャローナの言葉に被せるように話したエビアス。
リリがエビアスを睨んで1歩踏み出した。
しかしシャローナがすぐに片腕で制する。
「そう……でしたか」
言い淀みつつ、何とでも取れる言葉を口にする。
「王太子殿下。
私はこちらにいる王女付きの侍女を見かけて、王女の私物を運ぶお手伝いをしていていただけです」
シャローナはニコリと硬い表情ながらも微笑みかけた後、背後を振り返る。
「ベリード公女。
そこに王太子殿下とアッシェ公子がいらっしゃり、妹殿下を気にかけるあまり、大きな声で絡んで、んんっ、大きな声になってしまったようです。
ベリード公女はそんなお2人の威圧的、んんっ、大きな声に驚いて、私達の間に割って入られたのかと」
かなり本音がダダ漏れそうになっているな。
取り繕うには下手くそだ。
しかし、どういう経緯で今の状況になったのかは概ね理解できた。
ラルフもなるほどなといった様子で、ため息をついた。
きっとエビアスとハディクに呆れているのだろう。
俺は呆れより不快さと情けなさでどうにかなりそうだ。
俺が瞳の力で視た事、猫となって直接見た事、更にシャローナの言葉から、俺達の時代で伝わっている流行病終息の、真の功労者はもちろん、稀代の悪女までもが捏造された嘘だったと確信してしまった。
俺を含む王族と四大公爵家の人間は、幼少期の頃から稀代の悪女であるベルジャンヌのようになるなと言われ、ベルジャンヌ王女を反面教師として育ってきた。
そんな扱いを受けて良い人物ではなかったのに……。
「何故、お前が手伝う必要が?」
「それは……」
「そういう性格だから、でしょう」
エビアスの言葉に、シャローナが口を開くも、ベリード公女が遮った。
エビアスよ、シャローナが手伝わずとも、お前こそが王太子として王女と共にやるべき事があるんじゃないのか。
「この者はこの春に入学して以来、困っている者には貴族も平民も分け隔てなく手を差し伸べようとしているのを幾度も見かけました。
私も殿下方の、うっかり大きくなってしまった声に驚いて、判断を誤ったようです。
申し訳ありません」
俺の中で様々な感情がせめぎ合う間に、ベリード公女は頭を下げる。
間違いなくシャローナに話を合わせているな。
「ふんっ、次からはもっと淑女らしい振る舞いをしろ」
「はい」
「お前の名は?
殊勝な心がけは感心するが、私は教会にいるはずのベルジャンヌが何故、侍女を学園にやったのか知ろうとしただけだ。
ベルジャンヌの侍女を手伝う必要も、紛らわしい言動も、今後は慎め」
「申し訳ありませんでした。
シャローナ=チェリアと申します」
シャローナも素直に頭を下げる。
この場をさっさと切り抜けようとしているらしい。
「はっ、没落しかけの伯爵令嬢じゃないか」
するとエビアスに言われて大人しくしていたハディクが、鼻で笑いながら、馬鹿にする。
「左様です。
それから、こう言ってはどうかと思うのですが……」
それでもシャローナは同意しかせず、何かを口ごもった。
何だ?
わざとらしさを感じるな?
「言ってみろ」
「私は城下の飲食店でアルバイトを……」
「ほう?」
そうだ、この頃の祖母は生活に困窮しているほど、実家が没落していたな。
姉にあたるミルローザはバイトをしそうにないが、シャローナは生家を助けようと動いていたに違いない。
しかし何故、それを今伝えるのだろう?
エビアスもわからないらしく、相槌を打って先を促せば、シャローナは満面の笑みで……。
「ですので、流民や平民と触れ合う機会も多く、病が移った可能性もあるかと」
爆弾発言を投下した。
※※後書き※※
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