537.母方の祖母〜ミハイルside
「「!!」」
__シュタッ、シュタッ。
突然の浮遊感。
からの、落下。
さすがに2度目だ。
相変わらず色々と展開が早かったが、今回は着地を決める。
地面に突く両手は人間。
足も人間。
俺の他にも、地面に着地する音がして、そちらを見れば、一対の目と、目が合った。
向こうの瞳の色は、暗緑色。
髪は灰色。
ラルフだ。
「「…………ゴホン」」
互いに1つ咳払いして、四つ足状態を早々に解除する。
俺は猫、ラルフは恐らく兎を想定して着地してしまった。
「レ、レジルスが見当たらないな」
「あ、ああ……」
互いにそれ以上、喋る事はせずに辺りを見回す。
場所は……。
「学園?」
「そうらしい」
訝しげに眉を顰めるラルフに同意するものの、俺もまた、眉を顰める。
記憶している学園の校舎が、向こうの方に幾つかそびえ立つ。
しかし校舎の1つに、見た事のない棟があった。
過去に改装や減築した資料は無かったと思うが……。
「ロブール公子!
こちらにいらっしゃいましたのね!」
不意に降りかかった少女の声。
鼻にかかったような猫なで声を聞いたのは、久々だ。
全身にゾワッと鳥肌が立つ。
俺が学園に入学したての頃だ。
俺の爵位に魅力を感じただろう女生徒が、ことごとくこんな声で俺を呼び止めていた出来事を思い出した。
冷たくあしらっている間に、氷の貴公子と呼ばれるようになっていったのだ。
声がした方を振り返れば、黒髪に……ん?
こんな女生徒いたか?
見た事がない、気の強そうな猫目の少女は、俺と同じ菫色の瞳だ。
顔立ちが……ちょっと待て。
今は亡き俺の母、ルシアナに……。
「あら?
ロブール公子じゃ……ない?」
少女も人違いに気づいたのか、ジロジロと訝しげな顔で……ん?
何で頬を染めた?
「わかったわ!
親しい血筋の方ね!
お顔立ちがよく似てらっしゃるわ!」
突然、ラルフを押し退けてグイグイきた?!
「どちらのお家の方かしら?!
王立学園へ立ち入れるのだから、貴族のご子息よね?!
私はロブール公子と同じく、生徒会役員をしておりますのよ!
副生徒会長をされてらっしゃるロブール公子とは、親しくさせていただいておりますわ!」
「そ、そうか……」
ロブール公子とは、恐らく俺を指してはいないはず。
祖父に違いない。
副生徒会長という事は、祖父が19才になる年だろうか。
祖父が学園の最終学年になる年、エビアス王太子が会長、祖父が副生徒会長を務めたというのを聞いた事がある。
「ミルローザ=チェリア」
「まあ!
もしやロブール公子から私の名前をお聞きに?!
左様です!
ミルローザ=チェリアですわ!
呼び捨てになさったという事は、お家柄も侯爵家以上の方ですわね!
ですがあなた様のような方がいらっしゃるとは、聞いた事がありませんわ。
だとするなら……そう、外国からいらしたのね!
私と同じ色の瞳に、ロブール公子とよく似た顔立ち!
今日ここでお会いしたのも、縁があっての事に違いありませんわ!」
しまった!
ついうっかり母方の祖母の名を呟いたが、呼び捨てにすべきじゃなかった!
祖母、ミルローザは自分より爵位が上らしき相手に、自分から名を名乗るような愚行は犯していない。
しかし感情の発露が実にわかりやすく、気色ばんだ顔を近づけて迫ってくるのは、令嬢としてどうなんだ?!
しかもコレ、俺の祖母だし……。
内心ドン引きして2歩、3歩と後ろに後退する。
しかし若かりし頃の祖母が2歩、3歩とにじり寄る。
思わずラルフを見やるも、ラルフ自身は下位貴族の習慣からか、気遣わしげな視線を向けるのみ……。
「ロブール公子にお会いになりに?
来週には学園祭ですから、お忙しくされておりますわ!
生徒会室へは私がご案内致します!
ロブール公子を探してまいりますので、お待ちになってらして!」
「いや、私は……」
まずい、ミルローザのペースにのまれている!
しかし今会うべきは祖父ではなく、ベルジャンヌ王女の方だ!
『見逃さないようにな。
奥さんも、あの聖獣の想いも正しく理解して、見つけ出してくれよ』
あの老人が俺達を再びどこかへ飛ばす前、そう言っていた。
『でないとお前らも死ぬから』
とも。
その前は凛とした声が、こう告げた。
『助けたくば、見つけよ』
未だに誰の声か、わからない。
男なのか女なのかもわからない声。
両者の話をまとめ、前回の出来事を鑑みれば、俺達が死なない為に取るべき行動は、ベルジャンヌ王女が関わっている。
老人の奥方と、聖獣の想いは未だ不明だが……。
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