493.従来の気質

※※前書き※※

今回、今までよりも残酷な表現(シーン)が出てきます。

恐らくこの回(特に中盤以降)を飛ばして次の回から見ても、何があったか繋がってくると思うので、重い展開が苦手な方は、次の回からご覧下さいm(_ _)m

また、あまり書くとネタバレになりますが、本作にはハッピーエンドのタグをつけております、とだけ。

基本的にホラーやサスペンスが好きすぎて、グロ表現やダークな展開に全く抵抗ない為、加減して書いたつもりでも、人によって加減できてしてねえよ、とつっこまれそうなので、念の為……Σ(・∀・;)ゴメンネ

次の回は明日投稿する予定なので、続きが気になるけど重いのは見たくないって人を何日も待たせる事はないです。

「うふふ、二度寝して本番前に家からダッシュした運動会が懐かしいわ。

あの人と2人で、皆のお弁当持ってダッシュしたのよね」

「どこにいるかと思ったら、放送室に隠れていたなんて」

「あらあら。

お久しぶりね、シエナ」


 少し前に転移してここにいたの、気配で気づいていたわ。

私が放送を終えるのを待っていたなんて、律儀ね。


 シエナからはきっと、悪魔のような臭いがしていると思うわ。

けれど私には鼻栓がある。

消臭効果にラベンダーの香りを漂わせているから、わからないのよね。


 ぶれた声音の中に少女らしい、聞き覚えのある声を含ませたシエナ。


 ……え、どんな声帯をしているの?


 パッと見は、老婆になる前のシエナ。

けれどお顔に悪魔の力の残滓がへばりついているから、魔法でカモフラージュしているだけ。


 だから本来のお顔は、老婆のままじゃないかしら。

手の甲は……老婆とも違うけれど、実年齢と比べて少し年を取った中年女性のもの。


「魔力が少なすぎてわからなかったわ、お義姉様。

その目は何?

金色の虹彩なんて今までになかったのに。

でもお義姉様には似合わない色で、何だか不愉快ね。

お兄様が隠していたのかしら?

には、そういう事よね。

今からお義姉様が待ち望んだように、シュア様と結ばれてもらうわ」


 タイミングやら待ち望んだやら、勘違いを連発させているわ。

魔力はいつも通り抑えているけれど、今の私はいつでも魔法を発動できるようにしている。

疑問を持って鑑定すれば、カモフラージュくらい気づくはずなのに。

元義姉、現従姉として心配になっちゃう。


 それに高位貴族なら誰でも知っているような、瞳の金環を知らないんじゃないかしら?

ただ金色が似合わないって言っているだけに聞こえるわ。


 第一、結ばれるって、今さらすぎない?

第2王子とは既に婚約解消しているのに、どういう意味かしら?


「ふん、お兄様に何をされていたのかも気づいてなかったって顔ね。

相変わらずの無才無能具合には安心するわ。

迎えに来てあげたの」


 シエナは言うが早いか、私の手を掴んで転移して景色が変わる。


「くっくっくっ、あーっはっはっはっ!

面白い!

こんなに容易く火を自在に操れるとはなあ!」

「ぐぅぅっ」

「バルリーガ嬢!

ジョシュア王子、お止め……(ドガン!)ああ!」


 転移してみれば、突然の地獄絵図。


「調子に乗った愚か者ね」

「あ〜ら、お義姉様。

怖いなら怖いって正直に言えば良いのに、強がるのは可愛くないわ」


 思わずいつもの微笑みを崩して眉を顰めてしまったわ。

でも呟きまでは聞こえていなかったのね。

シエナったら、相変わらず勘違いがひた走っていて、ある意味さすがよねと納得してしまいそう。


 シエナは言うだけ言って、掴んでいた私の手を離し、第2王子愚か者の元へと歩いていく。


 ジャビは部屋の隅で静観するのを……いえ、違ったわ。

口元が愉悦に歪んでいるから、悪趣味な現場を鑑賞していたのね。

側妃の遺体はジャビの足下に転がっている。


 ため息を1つ吐いて、軽く辺りを見回す。

ここは学園の多目的ホール。


 この場で生きていると言えるのは、私を除いて実質3人。


 さっきの爆発のような音からして、壁にもたれて力なく座りこんた令嬢は爆風で壁に叩きつけられたみたい。

胸元を黒く焦がして、口からはダラダラと血を流している。

意識はなく、もうじき絶命するわ。


 この令嬢はダツィア嬢ね。

服の下から首、顔の半分と青紫色に腫れ上がっていて、清楚だったお顔が見る影もなくなっている。

魔獣の毒にやられたのね。


「……ぅ……ダツィ……」


 第2王子愚か者に首元を摑まれた令嬢は、バルリーガ嬢。

こちらは首元から頬にかけ、魔法の炎で炙られた痕がある。

終始興奮して笑っている、あの愚か者の仕業ね。


 いくら気高さを求められる貴族であっても、年頃の女の子よ?

痛くて怖かったに決まっている。


 なのにバルリーガ嬢からは自分ではなく、ダツィア嬢を助けたいという想いが伝わるわ。


 机や椅子の散乱する部屋の中央には、折り重なるようにして突っ伏し、絶命してしまった2つの遺体。

ダツィア嬢と……お兄様。


 遺体の所々に火傷や切創痕。

けれど2人の致命傷は、胸元に空いた穴。


 恐らくお兄様が身を挺してフォルメイト嬢の盾になったところを、2人一緒に太い何かが貫いた。


「甚振ったのは、あなた達2人。

けれど殺したのはシエナね」


 お兄様もフォルメイト嬢の魔力も、薄赤い結界が消える前に途絶えている。

魔法が使えず、これといった抵抗などできなかったでしょうね。


 シエナはもちろんだけれど、愚か者からも異なる力を感じるから、魔法は普通に使えていたのでしょうね。

お兄様も令嬢達も、魔法や武器をまともに持っていなかったのなら、せめて甚振らずにひと思いに殺す事だってできた。


 愚か者からは側妃が持っていた魅了の力も感じる。

だから気分が極端に高揚して見えるのは、このせいかもしれない。


 けれど人を甚振り、嘲笑う性根は、従来の気質……。

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