492.打ち震える〜ヘインズside
「「「「「命に感謝を!!」」」」」
「「「「美味しくいただきません!!」」」」
破廉恥小説家の放送事故が流れてきてすぐだ。
どこからともなく怒号のような、互いを励まし合うかのような熱のこもったかけ声が響き……。
__ドガーン! バキィン!
__ドガーン! バキィン!
__ドガーン! バキィン!
突然の奇襲か?!
あちこちから建物が攻撃されたような破壊音と振動、直後に何かを一瞬で凍りつかせた音がそこら中から起こる。
「今度は何事ですの?!」
「おい、人が向こうの校舎の穴から出てきてるぞ!」
その声に窓の向こうを見る。
対面していた校舎に穴が空いてるな?
1階にいる奴らはそのまま、2階より上にいる奴らは縄や梯子、幾つかのカーテンを連結して1人、また1人と穴から人が出てきてんのが見えた。
穴の周辺からは白い蒸気?
いや、補強するみてえに壁面が氷漬けにしてあるから、冷気か。
穴が空いた途端、瞬間的に周囲を氷漬けにするのか?
お陰で建物が倒壊すんのはなさそうだ。
「……っふ……リーダー……」
不意に俺達が通ってきた方向から、すすり泣く少女の声が聞こえた。
そっちを見れば、眼鏡かけた黒髪女子が、グズグズ泣きながらこっらへ向かって歩いて来る。
壁に注意してっから、まだ俺達には気づいてねえな。
確か破廉恥小説家のチームメイトじゃなかったか?
いつもは黒髪をおさげにしてて。
そういや夏にパフェ店でアルバイトしてて、アイスプラントについて話してたような?
リーダーって、ラルフとか言うチーム腹ペコのリーダーの事か?
黒髪女子の服が所々破れて、血の跡がある。
俺達みたいに怪我してたのをリコリスの花粉で治癒されたんだろう。
けど、リーダー?
窓の外を見れば、何人かは動かず横たわったままだ。
治癒魔法は死者には効かない。
もしかしたら、リーダーは……。
俺達に気づいた黒髪女子は、顔を赤くして袖で涙を拭う。
俺の横にいたウジーラ嬢が声をかけようとしたんだろう。
一歩踏み出したところで、黒髪女子は下げていた鞄から、丸い包みを取り出した?
女生徒は両手で収まる程度の大きさの包みを剥がす。
中から出てきたのは……艶々した土団子?
女生徒は壁から少し離れ……。
「め、『女神様、私が池に落としたのは凍土団子です』!」
おいおい、どこぞの破廉恥小説家がアトリエで何かの童話を朗読していた時の変化球か?
あの時は金の斧か鉄の斧のどっち?
からの、鉄の斧です、だったけどな?
と心の中でつっこむのと同時に、女生徒が壁に団子をなげつけた。
__ドガーン! バキィン!
途端、壁が爆散。
さっきの音が何なのか……多分、この場の全員が理解したんじゃねえか?
「は、恥ずかしい……」
しかし黒髪女子は見られながらのセリフの方が、爆散より気になったらしい。
「はっ」
そこで改めて女生徒は俺達の存在に我に返って……。
「いやいやいやいや、久しぶりだね、カルティカ。
私達はちゃんと自分の足で逃げるから!」
「あ、では……」
どうやらウジーラ嬢とも顔見知りだったみてえだ。
多分、一緒に蠱毒の箱庭に転移した事件の時か?
つうか爆散で近くに落ちてた棒を、明らかに何か殴るのを意図した構えだったよな!
黒髪女子こと、カルティカはペコリと会釈をして、穴から外へ出ようと近づいた。
その時。
__ヴァルァ!
穴から大熊が現れ、鋭い爪がカルティカを襲おうと振り下ろされ……。
「女王様とお呼び!」
おいおい、穴の真上辺りから聞き覚えのある声がしたぞ?
穴から鞭が飛び出して、大熊の首に巻きついたな。
と思ったら、穴から外に引っ張り出された?
「ここに溜まってたのね。
ロブール公子は魔法を使えない状況なのに、婚約者候補達の居場所を探せとか命令するし、教えたら教えたで、今度はアンタ達探して援護しながら学園から出ろって命令するし、影使……んんっ、人使い荒いのよ。
しかも魔獣は邪魔してくるし、探し出すのに時間かかっちゃったわ」
多分、上の窓から鞭をロープ代わりにして飛びこんできたんだろうな。
師匠だ。
スタッと着地した時のスリットからは、引き締まった足が……。
「女神様……」
「女王様……」
「鞭使いのお姉様……」
「神々しき、おみ足」
「縛って……」
「踏んで……」
どれもツッコミたくなるコメントだが、最後に喋った2人は誰だ?!
縛って踏むどころか、縛り首にされて踏み潰されるぞ!
「今は身体強化できないでしょうから、男子達はそこらへんの教室からカーテン持ってきて」
「「「「「ハイ!」」」」」
「裂いてロープにしてちょうだい。
さあ、キビキビ動いてサクッと脱出するわよ!」
「「「「「ハイ!」」」」」
特に野郎共が色めき立ってんな。
亜麻色の髪した神官を筆頭に、他の神官達も混ざってるってどういう事だよ。
教会は国教じゃなくなって正解だったかもしんねえ……。
程なくして、俺達は全員穴から即席ロープを伝って学園の外に出た。
魔獣が出てくると白い花弁が発動する前に、師匠が鞭を振るう。
その度、何人かの男達が打ち震えて頬を蒸気させるという怪現象。
女達は怪現象を前に、ある者は男達に冷めた目を、ある者は師匠に羨望の眼差しを向けていた。
もちろん俺は、イラストを描く為。
そう、今後のイラストレーター活動の為という純粋な気持ちで、師匠が鞭を振るう様にいつも心を震わせている。
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