472.お尻の……〜王妃side
__ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ。
「ヴモッ」
「ヒガッ」
その時、どこからともなく飛んできた短剣がベヒモスに2本、シーカーモンキーに1本突き刺さる。
どちらの魔獣も硬い毛皮だったと記憶していたけれど、随分と切れ味が良いらしい。
「外れだったな」
「短剣は刺すか、切る為のものですから」
不意に2頭の魔獣の更に後ろから、良く知る
公子は短剣の用途を説明しているけれど、至極当然ね?
それに何が外れだったのかしら?
人知れず首を傾げる私の霞む視界には、3人の人影が映る。
「レジルス様、ミハイル様、アッシェ騎士団長ですわ。
きっと助かります。
ですからどうか、あと少しだけお気をしっかりなさって下さいませ」
バルリーガ公爵令嬢が私を励まし、ダツィア侯爵令嬢をサポートするように私へ流す魔力を増やす。
ダツィア侯爵令嬢も同じく私へ流す魔力を増やしたのを感じ取る。
2人共助けが来るのを信じ、私に流す魔力量を調整しながら時間を稼いでいたと察した。
__……ボンッ。
「ヒギッ!?」
「「「「「!?」」」」」
すると突然の爆発音と、シーカーモンキーの短い悲鳴が聞こえ、障壁内の幾人かが息をのむ気配が直後にする。
先ほどより魔力の乱れが落ち着いた事で、視界が鮮明になってきてみれば……うつ伏せに倒れたシーカーモンキーの姿が。
胸の辺りから大量の出血が起こっている?
「当たりだったな」
一見無表情ながら、公女が絡んだ時のように平素より和らいだ目元をして頷く息子。
「……ソウデスネ」
どことなく引いたような表情と声音の公子。
「……」
更に何か言いたそうに、そんな2人のやり取りを黙って見守る騎士団長の姿。
私達が今まで感じていた、生死をかけるような緊張した空気とは、かなり離れた空気感が3人から漂っていないかしら?
__ンブゥォォォォ!
そう思ったのも束の間、ベヒモスが肩と臀部に刺さった短剣を振り落とそうとするかのように体をくねらせ始める。
元は荒れて理性を失くしたかのように、焦点の定まらない赤い瞳だった。
けれどシーカーモンキーに刺さった短剣の行く末を目にした為か、恐怖しているのがわかる。
恐慌状態に陥ったベヒモスは、近くにいた幾頭かの魔獣に体当たりし、踏みつけながらガシャンと障壁にも体をぶつけ始める。
「団長!
ソフィニカ王妃の避難をお早く!」
「わかっている」
不意に私達の背後から、痺れを切らしたような騎士の声。
そちらに軽く目をやれば、影と騎士とで多くの魔獣を屠り、しかしどこからともなく現れていた魔獣達が障壁から距離を取っていた。
もしかすると何らかの方法で力関係や種族関係なく、仲間として紐づいていたベヒモスの状況から、警戒したのかもしれない。
「助かりたくば、今すぐ王妃の側へ!
皆、互いに接触せよ!」
騎士団長が支配する者としての声音で命じれば、障壁の中の学生達が瞬時に命令を理解し、その通りに行動する。
学生達がいち早く行動できるのは、階級制度に生きる貴族故か、学園で魔獣や緊急事態への耐性をつけられるよう訓練を受けてきた故か、その両方か。
団長が剣を引き抜く。
剣に魔力を通せば、刀身が赤青い焔を纏う。
本能的に危険を察知したベヒモスが、騎士団長を踏み殺そうと突進。
しかし騎士団長は獣魔獣討伐に慣れている。
しかも今のベヒモスは深々と短剣が刺さって動きを鈍らせていて、騎士団長の敵ではなかった。
__ブギイィィィ!
ブモオォォォ!
とはいえやはり危険度A認定を受けているだけあり、毛で焔を遮った上に肉も硬い。
短剣の刺さる肩口の傷をなぞるように一振りしただけでは、動きを止め……。
__……ボンッ。
「ブャギッ!?」
「「「「ええ!?」」」」
「は!?」
どうしてか再び短剣が爆発する。
今度はそれを直接視界に入れた。
けれど私達だけでなく騎士団長本人も驚いたのは、予想外の衝撃に鳴いたベヒモスの肩口に刺さる剣が爆発したからじゃない。
「何故、お尻の……あ、お尻だなんて……」
ダツィア侯爵令嬢の言う通りね。
思わずお尻と口にしてしまう気持ちは、良くわかるわ。
恥ずかしがらなくていいのよ。
ベヒモスは悲鳴を上げながら、下半身をガラスの破片が散らばる地面に擦りつけてのたうつ。
戦闘能力が無くなったのを確認した騎士団長は、片手に剣を携えたまま、ベルトに通してあるポーチから細長い棒を取り出して私達の下へ走った。
※※後書き※※
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今月中にもう1話分を投稿できればと思っておりますが、なかなか還元できずに申し訳ありませんm(_ _)m
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