473.2人の令嬢達〜王妃side
「出られた?」
「よ、良かった……」
「助かりましたのね」
共に転移した者達が安堵と歓喜する中、
「騎士団長、レジルス。
バルリーガ公爵令嬢とダツィア侯爵令嬢が……」
「わかっております。
しかし今は……」
騎士団長は私の身の安全の為、私が再び戻る事を良しとはしない。
レジルスは今、ダツィア侯爵令嬢の代わりに私の乱れ続ける魔力を、自分の魔力を私に流して抑えてくれている。
騎士団長の持っていた魔法具で転移したのは2人の令嬢達を除けば、障壁内にいた学生全て。
令嬢達は、寸前で攫われてしまった。
あの場に残った王家の影とロブール公子が、何とかしてくれるのを祈るしかない。
無力どころか、王妃でありながら負担となっているこの身が、何とも歯痒い。
まだ学園の中庭にいた時、騎士団長と最短で接触すべく、私は障壁を消した。
するとロブール公子がレジルスに囁き、騎士団長の持つ魔法具により転移陣が展開したのと同時に、顔を顰めたレジルスが一瞬、消えた。
直後、ローブから桃茶色の髪を覗かせた何者かが、私を支えてくれていた令嬢2人の腕を掴んで消えた。
まるで令嬢達と交代するかのように、レジルスが私に触れたところで全員が転移してしまった。
令嬢達を掴んだ腕は、どことなく年齢を重ねた女のもの。
なのに一瞬、垣間見えた顔は緑眼の少女。
あの顔……どこかで……。
記憶を掘り起こしつつ、周囲の状況も確認せねばと見回す。
するとちょうど視線の先にあった、薄赤い結界の一部が膨張したかのように膨れた。
__ボフン!
と思えば、中から弾けるようにして破れる。
「くっそ!
結界も夫人が突っこんだら普通にぶっ壊せるとか、いい加減不思議現象すぎんでしょ!
ちょっ、サキサキ進むの止めてもらえますか?!」
「でもルカ、私が進まないと皆出られないのよ?」
「そうっすけど!
夫人の場合、巻きこみ事故の二次被害が酷いんすってば!
つうか結界がすぐ閉じようとするんで、夫人は結界の内と外の狭間でこっちにいる人間が全員外に出るまで、そこで突っ立ってて下さい!」
見覚えしかないロブール夫人が、結界の中からまず一歩こちらへと踏み出した。
するとすぐ真後ろから、誰かがぞんざいな敬語で引き止める。
「本当だわ。
なら先に殿下達が、ここから出ていただけるかしら?」
そう言いながら、夫人が両手を左右それぞれに大きく水平に広げる。
すると夫人の腕の下から、私の実娘と義理となる息子がヒョコッと出てくる。
「お母様?!」
「ソフィニカ王妃!
兄上も!
良かった!」
ジェシティナとエメアロルは私とレジルスの姿を目にした途端、こちらに駆けてくる。
「2人共、無事……かしら?」
「「はい!
ロブール夫人の守護魔法のお陰です!」」
2人をを見て、思わず首を傾げたのには訳がある。
続々と夫人の腕の下から出てくる、主に学生達もそうね。
夫人を除く全員が血みどろ。
中でも夫人とやり取りしていたと思しき、護衛の姿は酷い。
頭から血液を被り、ベトリとした肉片らしきものもついている。
不機嫌そうな顔つきを、隠してもいない。
それくらい体から漂う血の臭いが、酷いのかもしれない。
出てきてすぐに妻である夫人の腕を取り、結界の狭間から完全にこちらへと夫婦で移動したロブール公爵ですら、服には幾らかの黒ずんだ血が飛び散っていた。
公爵は護衛と違い、涼しい顔だけれど。
申し訳なげな表情の夫人を見る限り、ベルジャンヌ王女による過保護で過剰な守護魔法が発動したに違いない。
加害する人や事象には確実にとどめを刺し、周りには甚大な被害を撒き散らすと有名だった。
ロブール公爵がふと眉を顰めて私を見る。
その金緑の瞳は、太陽に照らされたせいか煌めいているように感じた。
__ドクリ。
「……っ、……かはっ」
「お母様?!」
我が子達の無事を確認して、気が弛んだからというわけでもないはずだけれど、心臓が再び大きく脈打つ。
同時に呼吸が止まりそうになった。
レジルスが魔力を流しているのに何故。
体に流れる魔力を更に増やしてくれるのに、苦しさは増して呼吸が……もう……。
「ソフィニカ!」
その時、陛下の声がどこからともなく聞こえて反射的にそちらへ顔を向ける。
陛下が慌てた様子を見せるなど、初めての事ね。
そんな風に遠のく意識のどこかで思う。
けれど陛下の背後に在った、憎悪に滾るほの暗い碧眼を見た途端、私の意識はふっと消えた。
※※後書き※※
いつもご覧いただき、ありがとうございます。
レビュー、フォロー、応援、コメントに励まされております。
ふと、とある設定を書き忘れていた事に……書くタイミングないかもしれないので、この場にて補足を(^_^;)
四大公爵家の当主だった人のみ、代を譲っても公爵と呼ばれます。
他は……閣下とか卿とか先代当主とかになるかな?と。
複数の爵位持ちなら、他の爵位で呼ばれたりもするかと思うのですが、まだそこらへんは詰めてなかったり……。
ひとまずそこだけ、留意下さいm(_ _)m
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます