467.お母様の体〜シエナside
「シュア様、王妃に飲み物を提供しました!」
Aクラスの出店ブースは、例年通り日当たりの良い中庭。
資金がたっぷりあるAクラスは、数ヶ月前からそこにガラスで温室を作り、庭師に手入れさせた花が満開を迎えている。
中は魔法で温度調節もしているはず。
私とシュア様は文化祭期間中は閉鎖される、向かいの校舎の屋上から様子を窺っていた。
もちろん魔法でしっかり姿を隠している。
「やはり王妃の方が父上と母上より先に2年Aクラスに着いたようだ」
「私もパフェが食べたかったです。
毎年夏に有名カフェ店で出す夏限定のラビリンパフェも今年は食べられませんでした」
「そんなもの、私が王になればいつでも店の者を呼びつけて食べさせてやる」
「シュア様、その時は是非ご一緒しましょう!
一昨年はシュア様があのカフェに連れてって下さいました!
他にもヘイン先輩、いえ、裏切り者のヘインがいたのは今考えると残念ですが、お忙しいシュア様が婚約者だったお義姉様ではなく、私を誘って下さった事がとっても嬉しかったんです!
ああ、そうだ!
どうせならお義姉様に、私達が食べさせあいっこしているのを見て欲しいです!
立場上お義姉様が正妃なのは認めてあげますけど、シュア様の真のお妃様は私だって常に弁えてもらわなくちゃ!」
可愛らしく甘えて、シュア様にしなだれかかる。
それまでの辛抱だと頭の中で自分に言い聞かせる。
私の地位を盤石にするなら、王となったシュア様の血をひく子供は必要ですもの。
私と子供達の血をなるべく濃く保ちつつ、状況的に私が生まれた子供を引き取る口実をつけやすくするなら、あの女にシュア様の子供を生ませるのが1番だと頭では理解しているわ。
もちろん私がシュア様の子供を妊娠できれば、それに越した事はないけれど……。
「ふ、そうだったな。
私が1番幸せを信じていた頃の……」
私を抱きとめたシュア様が、ふと言葉を途切れさせた。
顔を上げればシュア様は苦笑していた。
懐かしむような、自嘲めいた笑み。
「あの時はヘインを始め、側近だと信じていた者達に裏切られていた事に気づかなかった。
奴らにはそんな私の姿は、何とも滑稽に映っただろうな」
碧の瞳に憎悪が宿る。
クリスタ様が扱う魅了の力は、シュア様にしっかり効いているみたいね。
シュア様は蠱毒の箱庭の件で心身に傷を負って以降、憔悴して自分を責めるばかりだったとジャビから聞いた。
そんなシュア様を元気づける為ですもの。
クリスタ様が禁術扱いとされている魅了の力を使ってシュア様に魔法を行使したのは仕方ないわ。
シュア様の傷に寄り添おうと優しく声をかけようと思ったその時。
ジャビが出店する校舎を中心にして、学園の大半となる敷地に巨大な魔法陣を1つ施し、また至る所にそれとは別の意図を持った魔法陣を施したのを感じ取る。
「シュア様、予定通りジャビが学園の敷地に、いつでも起動できる魔法陣を仕掛けてくれました」
「私には感知できないくらい微細な結界のようだが、シエナはわかるのか。
魔法の感知能力を磨いたというのは、本当らしいな」
「それも全てシュア様のお役に立ちたかったから頑張ったんですよ」
「シエナ。
私に心から寄り添ってくれるのはそなただけだ」
「シュア様、当然です」
感極まったシュア様にしっかりと抱きしめられながら、ほくそ笑む。
本当はこの体の持ち主であるお母様の力。
魔法を使えなくされた体の魔封じに抵抗し、微細な魔力コントロールを身に着け、魔力感度を上げていたお母様の涙ぐましい努力の成果。
今回はジャビもかなり力を貸してくれているし、絶対に成功するわ。
「王妃があの紅茶を全て飲み干してから、ジャビの魔法陣を起動させる。
ところでラビアンジェは見つかったか?」
「それがまだ……」
普通の索敵魔法しか使えないシュア様では、魔獣か人かの違いくらいしかわからない。
でもお母様の体を使って魔法を行使できる私は、ある程度魔力の判別ができるようになっていた。
甚振って殺す予定のバルリーガ公爵令嬢達3人の居場所はわかっているのに、あの女の居場所は全くわからない。
「お義姉様の魔力量が少なすぎて……」
「無才無能が、手間をかけさせてくれる」
考えられるのは、あの女の少ない魔力量。
王族を含む来賓や貴族達は判別できる。
けど時間にならないと学園内に入る事が許されていない、学園の敷地外にいる平民達の魔力までは個別に判定できないもの。
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