468.計画発動〜クリスタside
「何だ……急に圧迫感が……」
「魔法の発動が完全に抑えられた?」
突如現れた薄赤い光。
ほの暗さも含んだ光が窓の外から差しこんだ途端、陛下と私を護衛する騎士達がざわつく。
私と陛下のすぐ前にいた案内役のロブール公子は、さすがというべきかしら。
四公の次期当主らしく落ち着いて周囲を警戒している。
公子の隣にいたフォルメイト侯爵令嬢もまた、困惑した表情ではありながら、不測の事態に対応しようとしたのね。
守るべき立場の側妃である私の横へ、静かに移動した。
魔法師達は学園の校舎内にはいない。
だって校舎の周りには魔法を阻害する結界の効果で、生活魔法くらいしか使えないもの。
窓の外に目をやれば、まるで学園を覆うようにして薄赤い光が囲んでいる。
ジョシュア達がジャビの魔法を発動させたのね。
口元に笑みを浮かべそうになるのを律して、困惑した表情を作る。
ほぼ全ての者達があの光が現れた途端、魔法の殆ど発動しないよう抑えられた独特の圧迫感を感じているはず。
私達王族への防犯上の理由から、魔法師団長によって生活魔法くらいしか使える余地のなかった魔法なのに。
ただしジャビの力を体に取りこんだ私、ジョシュア、シエナは別。
この光を浴びている間は魔法師団長の魔法の効力を無効化させ、むしろ好きなだけ魔法を発動できる。
魔力がどんどんと湧いてくる感覚に高揚するわ。
「陛下、クリスタ側妃。
何者かがロブール師団長の施した魔法をすり抜け、結界を張ったようです。
外の魔法師達が魔法を解除するまで……」
「すぐに王妃達と合流する。
フォルメイト侯爵令嬢は余達と共に行動せよ。
ロブール公子には騎士数名をつける。
今は校舎内にいるのは学生を除けば、高位貴族と貴賓達ばかり故、次期四大公爵家当主として速やかに学園の外へと誘導せよ。
ただし何が起こるのかは余にもわからぬ。
自らの命を第一に行動せよ」
アッシェ騎士団長の言葉を陛下が遮って指示を出す。
愛おしい夫の的確な判断に、腹立たしくも心がときめく。
陛下の判断は正しい。
この赤い結界はジャビによって巧妙に隠されている。
外で待機する魔法師達は絶対に気づかないわ。
「はい」
公子が陛下の言葉に頷けば、フォルメイト侯爵令嬢は明らかに顔色を変える。
何か異を唱えたそうだけれど、それでも口を噤んだのが見て取れた。
貴賓や高位貴族達を速やかに動かすなら、爵位のわからない騎士よりも既に当主教育を終え、学園卒業目前の公子が誘導する方が理に適っている事は理解しているのね。
「アッシェ騎士団長。
あの結界の色、それにこの状況下での発動……異なる力に違いあるまい。
だとするなら外の魔法師達がこの事態に気づかぬ場合も、想定しておかねばならぬ。
異なる者は巧妙に己の存在を隠す故な」
「は」
不意に陛下がアッシェ騎士団長へと耳打ちすれば、短く恭順を示す。
陛下のすぐ隣にいた私の耳にだけ、微かに届いた。
ジャビが長年に渡って密かに計画してきた、自らの完全なる復活。
もちろんジャビは本来用心深い性格だし、用意周到。
きっと私が知らない計画も含めて、複数を同時進行していたはず。
なのに最近のジャビからは、焦りを感じていたわ。
きっと殆どが、優秀なロブール魔法師団長を配下に持つ陛下によって潰されたか、少なくとも計画は露呈していたんじゃないかしら。
常に情報収集や考察をしていたはず。
だから露呈した時点で直ぐ様、悪魔への対策を講じていたんじゃないかしら。
けれど私達だってジャビの結界が出現すれば、陛下がジャビの存在にいち早く勘づくのも、わかりきっていた事よ。
「陛下、なりません!
今すぐここを離れましょう!
アッシェ騎士団長は臣下として、まずは陛下の御身を優先すべきでしょう!」
だからソフィニカを迎えになんて行かせない!
もうじき次の魔法陣が発動する。
あの憎らしいソフィニカが、自ら死を選び取る絶好の機会ですもの!
「私も今は側妃殿下が正しいかと」
その時、私達の後方から
騎士達がさっと横に寄り、道を開けた。
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