466.密かなプラン〜教皇side

「だとしたら残る手段は?

頭の良い君ならわかるんじゃない」


 シエナとルシアナについて思い至ったのが、顔にいくらか出たのだろう。

ジャビは言葉を続けた。


「残る手段……」


 ジャビは一から作るのを諦めたとは言っていない。

しかし肉体年齢なのか、頭と体が上手く馴染まないからなのか難しいと言う。


 推察するにルシアナの肉体にシエナの頭をキメラを作る要領でくっつけたんだろう。

肉体を支配するのはこれまでの経験から、意志の宿ったシエナの方。


 つまり第2王子は今になって……いや、王太子ばかりか王族としての信用すら失墜したらしい今だからこそ、シエナに手を出したんだろう。

ジャビの話から推測するに、シエナは孕めなかったらしいが。


 となればジャビが選択しそうな別の手段は……。


「ロブール公女に何をするつもりだ」


 確信をもって尋ねる。

ジャビの狙いはラビ様に移り変わっている。

第2王子にラビ様を襲わせるつもりかもしれない。


 表向きのラビ様は無才無能。

ジャビもそう思いこんでいる。

しかしラビ様の血肉は、今のジャビにとって一級品で間違いない。


 ラビ様には公女だからこそ王族の血も混じり、更にチェリア伯爵家の血も外見に色濃く引き継いでいる。

ある意味ベルジャンヌ王女姫様の実母よりも、今のラビ様は血の上では稀有。


 この国の側妃がチェリア伯爵家の血筋について何か思う事はないだろう。

しかし早くからラビ様を息子の婚約者に据えたのは、近しい年齢の者で血統が良いのがラビ様だったから。


 第2王子息子がどれだけ望もうが、ラビ様が無才無能とみなされようが、シエナにラビ様と同じだけロブール公爵家の血が流れていようが、息子の婚約者の差し替えを認めなかった理由もきっとそれだ。


 高位貴族であるルシアナの娘か、平民の血の劣る娘。

この違いだろう。


 ジャビにとっても第2王子クズ王子に流れる王家の血は極上で……もしかしたらチェリア伯爵家にも何かしらの執着があるのか?

ジャビはベルジャンヌ王女姫様の実母の、真の身分を知っていた。


 現状、ベルジャンヌ王女に最も近しい血を持つのは、シャローナの孫でありルシアナの娘であるラビ様だ。


 だとすれば、より強い魔力を宿す依代となる子供を作りたいなら、シエナで試して駄目だったなら消去法でラビ様と……。


 思わずジャビを睨みつける。


「へえ。

やっぱりあの公女に情が移ったみたいね。

邪魔するつもりかしら?」

「もちろん」


 答えると同時に、私はジャビの背後に光槍を出現させてジャビに向かって飛ばす。


「無駄よ」


 しかし予想通りとばかりに、ジャビは余裕のある動作で横へと避けた。


「でしょうね」


 もちろん私も予測済みだ。

間髪入れず行動する。

ジャビは狡猾な分、戦闘が長引けば戦闘慣れしていない私が不利になる。


 そう判断し、下手をすれば自分が光槍に貫かれるようなタイミングで、ジャビのいた方へと駆けて急停止。

貫かれるより先に光槍を掴みながら体を捻り、槍の軌道を変えて横へ避けたばかりのジャビへ向かって更に飛ばす。


 同時にジャビの頭上から下に向かって、滝のように圧をかけて水をドンと降らせた。


「チッ」


 舌打ちしたジャビは、赤黒い障壁を上方と前方に出現させる。

もちろんそれも予測済みだ。


「ハイヨ!」


 護衛の名前を呼びながら、鞭をしならせるようにして頭を振りかぶれば、ミトラが飛ぶ。


「ンブェェェ〜!」


 眉毛の太い、自己主張強めの濃い顔をした羊の護衛が、先の尖った蹄キックをジャビの障壁にお見舞いする。

するとジャビの障壁が蹄に触れた辺りを中心にし、波のような揺らぎが四方へ波及していく。


__バキィンッ。

「相変わらずふざけた羊」


 障壁が砕けるようにして散り、ジャビが苛々とした声音で言い捨てる。


 ジャビよ、私もそう思う。

もちろん戦闘中、わざわざ敵へ同意するなどという愚行を犯すつもりはないが。


 正直、ハイヨの蹄から聖属性の衝撃波が放たれるなんて、今初めて知った。

罰ゲーム並みにふざけた寄生生物だが、いつの間にか聖獣となっていた友が作っただけの事はある。


 衝撃波の弾みで後退したジャビを、ハイヨの攻撃圏内に入れて一気に終わらせてやる!

私にはラビ様と文化祭デートするという、密かなプランがあるのだ!

邪魔するジャビには死、あるのみ!


 ハイヨがジャビの障壁を蹴った反動で、ビヨンとこちらへ戻る。

そのタイミングで、水弾をジャビに放ちながら私は前進する。


 ハイヨの腹と私の頭頂を結ぶ蔦が、しっかりと後ろに伸びたのを見計らい、再び鞭の要領で頭を振ってハイヨをジャビ目がけてぶつけにいく。


「その戦い方でいいわけ?!」

「デート決行の前には、些事!」

「何の事?!」


 ジャビの慌てた様子に一瞬、勝利を確信する。

戦闘スタイルを気にしていたら、せっかくのラビ様とデートできる機会を失いかねない。

内心、焦っていたのも後から考えると良くなかったんだろう。


 ジャビの口元がニヤリと歪んだ。


「俺の誘いに乗ってここへ来た割に、油断したな!」


 ジャビが本来の声音と口調で告げれば、私の足元に赤黒い魔法陣が現れた。


 しまった!

私がここへ誘い出される前に、こうなるよう魔法陣を設置して、隠してあったのか!


「チッ……」


 次に舌打ちするのは私の方だった。

足元に魔力を流し、何の魔法陣かわからないまま無効化を試みる。


「ンブェェェ〜!」

__バキィンッ。


 景色が歪み始めたと感じる間に、再び赤黒い障壁でハイヨの攻撃を防いだ音。


「今から始まる事に、俺の制約に引っかかるお前は邪魔だ!

ふざけた護衛と消えろ!」


 叫ぶジャビの姿が確認できない程に、魔法陣から赤黒い光が放たれ、浮遊感に襲われて思わず目をつぶる。


 次に目を開けた時、頭のハイヨと共にいたのは学園ではなかった。


「転移したのか……」


 思わず呆然と呟いた。




※※後書き※※

いつもご覧いただき、ありがとうございます。

いつもより少し長めとなりましたが、キリの良いところまで。


本日、宣言しておりました書籍版の二巻重版記念SSを投稿しております!

そちらでも報告してますが、お陰様で三巻刊行やその他諸々も準備中です!

応援や書籍を購入して下さった皆様のお陰です(*´∀`*)

ありがとうございます!

本編とは関係ないSSですが、よろしければそちらもご覧下さいm(_ _)m

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る