465.スリアーダの魔力封じ〜教皇side

「そろそろ使い物にならなくなってきたその体を捨て、次の依代に移るつもりですか」


 ジャビの体は元々がスリアーダの物。

姫様亡き後、姫様の離宮へと強制的に追いやられたスリアーダは魔力を封じられていた。


 しかしその魔力封じは、広く知られた類の物ではなかったと後に判明する。


 ジャビがスリアーダの魂を喰らった時、スリアーダの魔力封じは無効化された。

本来の魔力封じであるなら、この時点でジャビは元々魔法に長けていたスリアーダの肉体を使い、すぐにでも気の向くままに暗躍できただろう。


 しかしスリアーダに使われた魔力封じの魔法は、肉体そのものに直接封じをかけた魔法ではなかった。


 スリアーダの魂と心臓を結びつけて核とし、封じを解いた時点で肉体へ死を与える強力な魔力封じ。

死しても尚、魔法の行使を許さないという強い意志を感じる魔法。


 魔法がステータスの世界においては、ある種の死者への冒涜とされて消された禁術の1つ。

かなり高度かつ、まるで悪魔への対策を施したかのような魔法だった。


 だからスリアーダの魂が消失したのと同時に心臓は再生不可能なまでに潰れ、強制的にスリアーダの肉体には死が与えられた。


 それでもスリアーダの怨嗟は醜悪で、悪魔にとっては極上とも言える程、墜ちた魂だったらしい。

ジャビはスリアーダの魔力を異なる悪魔の力に変質させて肉体を動かし、これまで暗躍してきた。


 禁術扱いの魔力封じであっても悪魔には意味を為さないと思いながら、私自身は姫様を復活させるには好都合だと当時は考えていたが……。


 数ヶ月した頃からジャビは全身をローブで覆い、口元以外、今も見る事はない。


 更に長い年月、定期的にジャビと会っていれば嫌でも気づく。


 徐々に、しかし確実にジャビの力は弱まっている。


「その通りよ」

「そうですか。

それで?

わざわざ私をこうして呼んだ理由は?」


 とはいえ私には現状、最強にして最恐の護衛を頭に飼っている。

私自身も高位の魔法は使える。


 こうして人の目の届かない場所に呼び出されたところで、今更利用できないし殺される事もまずないのは明白だ。


 ジャビの行動に訝しむ私に、ジャビは肩を軽く竦め、ため息を吐いた。


「本当に欲しい体は、どうしても手に入らない」


 本当に欲しい体とは姫様の、ベルジャンヌ王女の体か?


 王女だった姫様は悪魔ジャビを封じて亡くなっている。

結局スリアーダにジャビが宿ったのなら、ジャビの力の大半を封じたという事になるのだろうが。


 もし姫様の体が灰にならず、スリアーダのようにジャビに魂を喰われて肉体を奪われていたなら、最高の依代となっていた。


 もしくはジャビが遺灰を手に入れていれば、それはそれで最高の依代になったのかもしれない。


 私自身、姫様を復活させようと考えていた身だ。

姫様が灰となった直後、遺灰を持ち去った聖獣ラグォンドルを探した時期もある。


 遺灰であっても悪魔……その力かもしれないが、ソレを宿し、姫様の魔力を帯びた元は姫様の血肉であったのだから。

ジャビにとっては不完全なスリアーダの肉体よりも、余程価値ある代物に違いない。


 結局私は遺灰探しを諦め、教皇となってから知った歴代の教皇のみに引き継がれるキメラの生成禁術の1つに手を出したが。


「だからこの国の王族の血と多大な魔力が宿る体を作れるよう、一から仕向けてみたわ。

でも肉体年齢なのか、それとも頭と体が上手く馴染まないからか、難しいみたい」


 一から作る、か。

そういえば第2王子とロブール家の元養女……名前は……そう、シエナだ。

シエナをけしかけて第2王子との子供を作らせ、生まれた直後に赤子の体を奪う計画もあったな。


 婚約者であるラビ様を貶めるクズな第2王子ではあったが、しかし婚約もしていないシエナの体にそういう意味で手を出す事はなかったらしい。

手を出す前にシエナは北の施設で死に、事なきを得ている。

となるとシエナではない……いや、待てよ?


 頭と体が上手く馴染まないだと?


 亡くなったラビ様の実母であるルシアナの最期の姿を思い出す。


 ルシアナの体はどこに行ったのかと思わないわけではなかった。

そしてルシアナが死ぬ前に死んだシエナの遺体には、頭部がなかったと耳にした。


 まさか……。

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