460.毎年恒例〜クリスタside

「陛下、今年は先に私と回る約束です」


 貴賓室から出てすぐの廊下で愛おしくもあり、最近は憎くもある陛下を見つけた私。

おしどり夫婦を学生達に見せつけるべく、夫である陛下の腕に自分の腕を絡めて微笑む。


「わかっている、側妃よ。

それでは王妃。

2年生の出店は王子と王女が巡る故、そなたは例年通り1年生を、余と側妃は3年生を、Aクラスから順に楽しむとしよう」

「かしこまりました。

恐らく例年通りなら、1年生の物販を巡る私が先に終えるかと。

2年Aクラスのパフェ店でお待ちしております」


 来賓の中でも、国王夫妻が1番初めに各出店を手分けして巡るのが毎年の恒例。


 学園祭に珍しく参加した教皇は私達王族のすぐ後、他の貴賓や学生達の保護者も含めた外部の来客達は1時間程後となる。

王立学園では、成績優秀なAクラスを優先して巡るのも恒例ね。


 陛下は妻を2人娶っているから、私とソフィニカは毎年交互に陛下の相手を務め、共に巡るのが暗黙のルールとなっているわ。


 2年Aクラスの飲食店には、ソフィニカが間違いなく先に着くもの。

毎年メニューは変わっても、必ず口にするのは広く飲まれている紅茶。

私の魅了の効力は必ず発揮される。


「バルリーガ嬢、ダツィア嬢は予定通り王妃殿下の案内を頼む。

フォルメイト嬢は私と共に陛下と側妃殿下の案内を頼む」


 ジョシュアを差し置いて学園祭を主で取り仕切る副生徒会長のミハイル=ロブールが、頃合いを見て3人の令嬢達に声をかける。


 思い通りに動いてくれない無才無能なラビアンジェの兄、ミハイル。

ミハイルの方はラビアンジェと違って、ちゃっかりしているのが腹立たしいわ。

ジョシュアのいなくなった隙をついて、生徒会を我が物のように使っているんだから。


「「「かしこまりました」」」


 しおらしく微笑み、ミハイルに了と答える3人の令嬢達。

腹立たしさがこみあげる。


 ソフィニカが私から奪った権限で、母親である私に一言の相談もなく2人の息子達の婚約者候補に納まったのよ。

気に入るはずもない。

第一、誰1人としてチェリア伯爵家どころか、四大公爵家の直系ですらないじゃないの。


 今すぐ公子共々、この令嬢達を消してやりたい衝動に駆られる。

それを思い留まらせるのは、シエナとジョシュアがこの4人を標的にしているから。


 あと暫くの余生を楽しませるくらいはしても良い。


「アッシェ騎士団長。

ロブール魔法師団長は予定通り城へ戻るのかしら?

今年は公子も最後だし、去年と違って公女も表に出るのでしょう?

ね、ロブール公子?」


 陛下の後ろに控える騎士団長を振り返って尋ねつつ、チラリと公子も流し見る。


 先に確認はしていても、魔法師団長がいては計画に支障が出るから、もっともらしい理由をつけて確認する。


 それに去年、私が1人で1年生の出店を周った時、公女は見かけなかったの。

まだジョシュアの婚約者だった頃よ?

普通は婚約者の母親をもてなそうと努力するでしょう?

ジョシュアとも良い交流になると思って連れて行ったのに、いないだなんて。

あり得ないと内心憤慨したわ。


 ジョシュアもその後、側近達を連れて何度か出向いたようだけれど、会えず終いだったらしいの。


 今回こそ、居場所をハッキリさせておきたいじゃない?

だって今日はラビアンジェをジョシュアに与える必要がある。

誰が何を言ってもジョシュアの物になるように、既成事実で縛りつけないと。


「魔法師団長は予定通りに」

「父の事は息子として、全く問題ありません。

妹もクラスで担う役割通りかと」

「そう」


 すました顔の騎士団長と公子の言葉に気を良くする。


 2年生は1番忙しいとされる飲食店ですもの。

流石のラビアンジェも、今年は参加するみたいで安心したわ。


 その後、それぞれに分かれて王族としての役割をこなしていると、小一時間程でアナウンスが流れた。


「本日はお忙しい中、ご来場いただきありがとうございます。

これより学園内では例年通り、一定以上の魔法を制限します。

各人の魔力量によっては生活魔法しかつかえなくなりますが、王族、魔法師団、騎士団に所属される方々は普段通り魔法を扱えます。

王族の方々がいる間のみの制限となりますので、ご理解下さい」


 アナウンスが終わると、すぐに学園内で制限魔法が展開された。


 もうじき魔法師団長は学園から王城へ戻るわ。

合図の時間まであと少しよ。

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