459.1番許せない女〜シエナside

「薄情な令嬢達が、私の愛するシュア様の婚約者だなんて許せません」

「ああ、その通りだ。

ダツィア侯爵令嬢なら、まだ許せる。

私の臣下だったルーニャックが元婚約者だったのだ。

しかしフォルメイト侯爵令嬢は違う。

婚約者になろうと考えていたのがミハイルだったとはな。

シエナには悪いが、私はミハイルを許すつもりはない。

奴は恐らく学園に入学前には、もうレジルス兄上の側近だった。

候補でもなく、確実にな。

なのに私の側近となる事を了承したかのように振る舞っていた」

「ああ、お兄様……。

でも仕方ありません。

私は心からシュア様を愛していますもの。

お兄様の事は今でも兄としてお慕いしていますが、私が取るのは真実の愛」

「シエナ……」


 涙を浮かべてシュア様に愛を伝えれば、感極まったシュア様が私を抱きしめる。

当然よ。


 たった1度の失敗で、シュア様は謹慎させられた。

それまで良くしてあげていた臣下達は、シュア様に背を向けたんだもの。


 側近だなんて豪語していたヘインまで。


 ずっと変わらないシュア様への愛を貫く私へと想いを返すのは必然ね。

大丈夫。

シュア様は廃嫡されたわけじゃない。

今も王位継承権を持つ、私の愛する王子様よ。


 冬に差しかかった頃。

あらゆる苦難と悲しみを乗り越えた私は、シュア様とやっとの思いで男女の深い仲になったわ。

そんなシュア様が情事の後、枕元で婚約者候補の素性を教えてくれた。


 3人の内、バルリーガ公爵令嬢以外は明確な理由があるってわかった。

王子達も可哀想ね。

2人共、王子達を愛していないもの。


 私がシュア様を愛している事が、どれだけ尊い無償の愛なのかわかったわ。


 同時にお義姉様、いえ、ラビアンジェに生きる希望を凌駕する程に抱いた憎しみが更に増した。


 当然よ!

私が若さと魔力を失ったのは、ラビアンジェのせいだもの!


 そもそもラビアンジェさえいなければ、私は本来の自分のままシュア様の婚約者になれた!

私の魂が老婆の肉体に押しこめられた根本的な原因は、あの女が邪魔したせいよ!


 あの極寒の地に助けにきたジャビがそう言っていたわ!

それにラビアンジェだってそう言ってたじゃない!


 『体を手放すから』って!


 私の若さ溢れる綺麗な体は、私の魂が抜けたのを見計らってラビアンジェが、これまでの腹いせに売り払ったのよ!

きっと今頃、どこかの可愛らしい少女の体に欲情する変態がコレクションしたんだわ!


 随分前だけど巷で流行りの小説家も、そんな話を取り入れていたもの!

入れ替わり令嬢のシンデレラストーリーだったわ!


 老婆の体に入った私は、北の強制労働施設に追いやられた。

かと思えばすぐさま労働力が皆無と見なされて、隣の研究所に移された。

そこでは魔法呪の影響を受けた体だと決めつけられ、研究と称して非人道的な扱いを受けたの。


 特にあの研究所の所長!

国王の2人いる弟の1人で、大公って呼ばれる高貴な身分のくせに!

研究と称して私に与える苦痛は、えげつなさを極めた悪魔の所業だった!

今思い返すだけでもゾッとして、思い出すのを脳がストップさせるんだから!


 あの研究所から逃げられたのは、ジャビが手引きしたから。

あらゆる魔法の制限と監視を受ける中、些細な隙を幾つも突いて外に出たの。

もちろん私が1度、完全な死を迎える事を受け入れたからこその逃亡成功よ。

常人では逃げられずに捕まっていたでしょうね。


 研究所から一歩外に出た私はジャビの力で転移し、雪山の中で体を捨てた。


 自分の親友が悪魔だった事は、正直ショックだった。

けど私の入っていた老婆の体は、ジャビのおかげで悪魔の異なる魔力が満ちていた。

更に私の魂はジャビが極上と称したくらい、ラビアンジェへの憎しみに染まっていたみたいね。


 ジャビのやり方には異論もなくはないけど、結局最後に私を助けてくれるのは、ジャビだった。


 ジャビは老婆の体を捧げるなら、私にもう少しまともな体を提供できると告げた。

それがお母様の体だとは思わなかったけど。


 ジャビによって一時的に指輪へと姿を変えた私は、お母様にこの肉体を与えてもらえたの。

お母様の最期の願いと引き換えにね。


 だから今日、私はお祖母様を殺すわ。

私はお祖母様に恨みなんてないけど、仕方ないの。

お祖母様も可愛い孫のお願いだもの。

きっと今度こそ、自分の体に浸透しているおっかない守護魔法は作動させずに、喜んで命を差し出してくれるはずよ。


「バルリーガ公爵令嬢だけは、貴族としての責務から政略結婚を受け入れたのだろう。

だが3王子全ての婚約者など、第2王子である私を尊重しない者が王妃など、あり得ない」

「その通りです!

それに私が学生だった頃、1番酷い扱いをしたのもバルリーガ公爵令嬢でした!

だから殺す時は1番最後に、私に任せて下さいね!」

「ああ、その通りにしよう」


 1番許せない3人目は、私を誰よりもコケにした女!

バルリーガ公爵令嬢!

全ての王子の婚約者候補だなんていうふざけた女!


 目の前で2人の令嬢の無惨な死を見せつけた後、最後に私が味わったような苦しみを与えて、いたぶりながら殺してやるんだから! 

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