458.魅了殺害計画〜シエナside
「もうじき王妃は死ぬ」
学園祭の間は絶対に使わない、人気のない空き教室。
壁にかかる時計を見たシュア様が不敵に笑う。
私達2人はジャビの手引きでここへ来た。
離宮を監視する兵士に気づかれないよう、変わり身となる魔法具も作動させているわ。
「ええ。
クリスタ様が王妃に飲ませた毒を、魅了の力で活性化した頃ですね」
昨日、クリスタ様は王妃と今日の為の打ち合わせをしている。
その際王妃が好んで飲むハーブティーに、ジャビの力で変容したという魅了の力をこめた。
王妃が飲むハーブティーの成分が完全に排出されるまでには、早くても1日。
それまでに王妃の体に魅了の力を浸透させれば、王妃の死が確定したようなもの。
誰も想像できないはずよ。
悪魔の力で変容した魅了が、無毒なハーブの成分をある種の毒に変えるなんて。
この方法なら絶対に証拠は残らないわ。
体に浸透した魅了の力は、事前に摂取したハーブ
更に王妃がそれなりに威力の高い魔法を使う事になれば、体の代謝が高まり、強いショック症状を引き起こすのが早まるでしょうね。
去年第1王女が8歳になった際、お披露目をかねたお茶会を開いた。
そこで起こった毒殺事件。
あれはクリスタ様の実験。
あのまま第1王女が飲んでいても、助かっていたんじゃないかしら?
お茶を何度か被った蟻には強く効いたようだけど、クリスタ様はあくまで王妃暗殺を視野に動いていたようだから。
あの時は成分が変質しすぎて、毒の効果が表立って働いたのよって、クリスタ様は可愛らしい顔で笑っていた。
シュア様は第1王女と仲が良いから、クリスタ様が殺しかけたのは秘密にしてあるのですって。
「楽しみ」
「ふ、ラビアンジェを私が抱くのがか?」
「もう、それは考えないようにしてるのに。
シュア様の意地悪」
再び時計を見やり、今日はどさくさに紛れてあの失礼な3人を血祭りにあげるのだと内心ほくそ笑む。
想像するだけで楽しくなって、言葉が口を突いて出れば、本当に意地悪なんだから。
私のこの体は、ルシアナお母様の物。
首を境に別々の物だし、体年齢的な理由もあって妊娠しにくいのは仕方ない。
それでも大好きなシュア様との子を望んで、ずっと子種を注いでもらったわ。
もし子を授かれば、ラビアンジェをすぐに殺したって良いはずよ。
だって私はロブール家の血を引き、お母様は元侯爵令嬢。
世継ぎの問題さえ解決できれば、私がすぐに子供の母親として、王妃として、シュア様の隣に立っても問題ないじゃない。
「こればかりは授かりものだ。
私もシエナの方が王妃に相応しいと思うが、仕方ない。
輝かしい王位を手にする為だと納得してくれ」
いじけて背を向けた私を、背後から抱きしめたシュア様。
その甘く、温かい言葉にうっとりする。
シュア様はこの体の事を知らない。
私がジャビの力で蘇った事もよ。
クリスタ様とジャビからはシュア様に受け入れられるよう秘密にしろと言われた。
シュア様からはずっと私への愛情を感じるわ。
真実の愛で結ばれているのだから問題ないのに……。
「わかってます。
変わりにシュア様達の婚約者候補は……」
「ああ、わかっている。
私も今後の憂いとなる者は不要だ。
2人で消してしまおう」
気持ちを切り替え、あの3人の令嬢達に無惨な死を与える約束を確認する。
その答えには満足ね。
まだ私が若くて綺麗な体だった時、学園の夏休み前よ。
あの屈辱的な虐めを思い出すと、奥歯をギリリと噛み締めずにはいられない。
ダツィア侯爵令嬢。
蠱毒の箱庭で襲ってきたムカデの毒で、醜い姿に変わったルーニャック先輩の元婚約者。
あの時、私に偉そうな事を言っておきながら、自分は第3王子の婚約者候補にさっさと鞍替えしていた女。
ルーニャック先輩と同じ目に合わせてやる!
フォルメイト侯爵令嬢。
シュア様と第3王子の婚約者候補。
私を差し置いてシュア様ばかりか、王子2人の婚約者候補だなんて、許せない。
その上、私がロブール家の養子になってすぐの頃、ミハイルお兄様とある縁談が持ち上がっていたわ。
当然、お母様にお願いして潰してもらったわ。
お兄様にも、無才無能なラビアンジェに虐められているのに、また義姉が増えるのは嫌だと泣き落とした。
平民からやっと本来の公女という身分に戻れたのに、私の立場を不安定にする要素は排除するに決まってる。
その時の縁談相手がフォルメイト侯爵令嬢だったの。
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