461.へい、らっしゃい〜教皇side
「これはこれは。
奇遇ですね、ロブール公爵夫妻」
貴賓として招かれた私は、先発となって学園の出店に顔を出す事になっていた。
王族が校内へ向かってすぐ後に続く形らしい。
学園祭への参加を見合わせ続けていたから知らなかったが。
最小限の護衛しか付けないとはいえ、王族の安全確保の為、学生の保護者や一般参加者とは時間や開放時間は分けてあるようだ。
私も上位神官達は置いてきた。
案内役の
しかし向かった先では開店準備中の木札が扉の前に吊るされており、店先でいけすかない老夫婦を見つけてしまった。
まさか王族と孫の出店へ訪れているとはな。
仕方なく声をかける。
世間では運命の恋人達などと呼ばれていようが、私からすれば姫様を喪った憎らしい要因の1つでしかない。
それが故意でなくとも。
「教皇!
お久しぶりね!」
「お久しぶりです、教皇」
「ええ。
ジェシティナ様もエメアロル様もお元気でしたか」
「「はい(!)」」
私の顔を確認してすぐ、溌剌とした声で笑いかける王女と、どことなく緊張から解放された様子で微笑む王子。
夫妻それぞれとペアで腕を組んだ王族だが、非公式の場では名前で呼ぶようにしている。
確か数年前だ。
ある日2人して、ある小説を抱えて名前で呼ぶようにとしつこく、断ってもそれはもうしつこく懇願された事があったからだ。
幼い子供の執着心は本当にしつこかった。
表向きは優しく穏やかな教皇であり、裏では姫様の復活と復権に心血を注いでいた頃。
何かしら使えるかもしれないのと、根負けして了承した。
それより今にして思い返せば、2人が抱えていた小説は姫様のものではなかったか?
あの時見せた2人の顔が、今世のラビ様が時折見せる変た、いや、頬をいくらか上気した顔に似ていたような……。
小説は今のイラストレーターが表紙を担当する前の物だった。
一体どんな内容の小説だったのか……。
もちろん決して尋ねるつもりはない。
聞くだけでも私にヤバい何かが返されそうだ。
「教皇も豚骨風ラーメンとやらを?」
それとなく、こちらを探る目つきになったソビエッシュ。
そしてシャローナは視線を、やや下に向けて会釈した。
私が姫様付きの侍女だった事を知る、数少ない2人だからこその反応だろう。
ソビエッシュは私がこの国に反感を持ち、何か事を起こすと察している。
もちろんラビ様と会った今の私は、何もしないが。
シャローナは私が姫様をどれ程慕っているか知っていた。
もちろん私の性別も。
だからこそ後ろめたさを感じ、再会して以来、視線をまともに合わせた事はない。
夫妻揃って私がベルジャンヌ王女の侍女、リリである事を黙殺している。
教皇となる前、神官として再会した時から、もうずっと。
「ええ。
ご存知ですか?
ロブール公女がいらっしゃる2年Dクラスの出店に、かなりの前評判がついているんですよ」
「ほう。
まさかそれが気になって、これまで学園祭に参加してこなかった教皇が、参加したと?」
言外に、何を企んでいると言いたげだな。
しかし元々私はこの男が気に入らない。
その上、私の姫様であるラビ様と血の繋がった祖父でありながら、
ラビ様の正体を知った今、私は更に更に、気に入らない。
「ええ。
これまでのDクラスとは本質的に異なるような気さえします。
違いはロブール公女かもしれませんね。
無才無能と囁かれるご令孫ですが、実に興味深い。
機会があれば、ぜひ親交を深めたいものです」
「教皇!
ラビアンジェは……」
微笑みを顔に貼りつけた私に、何か良からぬ危機を感じたのかもしれない。
シャローナが初めて、私の目を見ながら割って入る。
昔と今。
私の愛しい2人が宿す、私の愛する藍色の瞳。
しかしシャローナへの悪感情が未だに燻る私には、この女の藍色は苛立ちしか与えない。
思わず顔を顰めなかっただけ、上出来だ。
「ラビアンジェは私達の過去と関係な……」
「お待たせしました!
へい、らっしゃい!」
シャローナは関係ないから、孫に何もするなと言いたかったのだろう。
しかし言い終える前に元気良く
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