451.前世の夢①
「……っ、うっ……」
真っ暗な中で、布団に潜って声を殺しているのは……前世の私ね。
夢を見ているのだと、意識のどこかで思考が働く。
まだ幼くて、ベルジャンヌだった記憶を、生じる感情を、どうやって処理して良いのかわからなかった前世のあの頃。
「怖い夢を見たのかな?」
不意に前世のお母さんの声が、布団の向こうから聞こえた。
布団越しだけれど、背中に温かい手が触れて、ポンポンと慰めるように叩く。
「……っ、こわい、の?
わかん、ない……いたくないの……でも、むね、ぎゅって……」
もっと後になって自覚したわ。
自分がベルジャンヌだった頃に感じていた、どうしようもない、名前をつけられなかった感情や、実際に体に負った痛みがフラッシュバックしていたんだと。
でも、この頃の私は戸惑って、パニックになって隠れるだけ。
けれどこうして振り返ると、この頃には既に両親からの愛情を受け入れていたのね。
だってベルジャンヌだったら、こんな事すら口にしなかったはずだもの。
「……そっか、よくわかんないのかな?
よし!
お母さんが月和を苦しめる奴なんかやっつけちゃうぞ!
もう怖いのも痛いのも終わり!
お母さんとねんねするのだ!
わっはっはっは!」
布団の中で丸くなるの私の横に、お母さんが寝転がる気配。
同時に、ギュッと小さかった私の体を抱きしめる。
夢で振り返らなくとも、前世のお母さんは明るい母親だったと、今でも思うわ。
「月和ちゃんは可愛い♪
月和ちゃんはお母さんの宝物♪
泣きたいだけ、泣いていい〜♪
起きたら笑って〜、月和ちゃ〜ん♪」
明らかに自作の歌よ。
これがエンドレスに続くの。
夢で振り返らなくとも、前世のお母さんは上手いとは言えない歌声ね。
けれど……。
とっても優しい響きよ。
歌を聞きながらポンポンされていると、いつもすぐに気持ちが落ち着いて、震えもすぐに治まって、うとうととし始める。
「眠ったかあ。
ふふふ、可愛いなあ、うちの子は」
「どうした?
また月和は夢見て、泣いてたのか?」
遠くなる意識の向こうで聞こえるのは、お父さんの声。
お父さんも温かい人だった。
「そうみたい。
でも母の愛は悪夢を砕くのよ~」
「何?!
父の愛はもっとすごいんだぞ」
お父さんはお母さんとしょっちゅうこんな事を言っている……子煩悩パパ?
「もう、張り合わないで」
「明日は休日出勤だろ?
今日は俺が月和と寝ようか?」
「ん~、いい。
まだ眠り浅いだろうし、月和ってちっちゃいのに何か遠慮するもん。
起きたらまた、1人で寝ようとするかも」
そうね、この頃は幼児らしくない遠慮をしては、1人でどうにかやり過ごすベルジャンヌの癖が健在だったわ。
「じゃあお父さんは、反対側で待機しとくか」
「それ、娘と寝たいだけ」
「そりゃ、そうだろう。
可愛い娘だぞ。
おやすみ、月和。
お父さんも愛してるぞ〜」
お父さんは布団をゆっくりはぐって、夢現の私の後頭部に口づける感覚。
ちなみにこの頃の私は、お父さん愛してるとは言った事なかったような?
可愛げのない娘だったかもしれないわ。
「もちろんお母さんもよ」
お母さんは私の目元を指で拭ってから、額に口づけて……ギュッと痛む胸が、ホワホワと温かくなる感じを覚えつつ、意識を手放した。
夢の中なのに意識を手放す私。
ちょっと器用じゃないかしら?
※※後書き※※
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更新が遅くなりました(^_^;)
展開に迷っている間に、私生活がバタバタして時間が経っておりました。
短いですが、まずはキリの良いところで夢①を一旦区切ります。
本日中に夢②(短め)を更新しますので、どうぞお付き合い下さいm(_ _)m
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