442.黒い物体〜ルカside
「でもま、カナがそうなんのも仕方ない」
「シャー」
カナに味方をすれば、ピケが俺を威嚇する。
「ピケ、そう不服そうにすんなって。
カナも一々ビクッとすんなよ。
ピケが俺を襲うなんて、絶対しないからさ」
「わ、わかってます。
でも蛇は怖い……」
「シュピィ……」
おっと、カナの発言にピケが落ちこんだが、まあパッと見は黒い爬虫類。
女子受けは悪いよなあ。
とりあえず頭を撫でて慰めながら話しかける。
「俺はピケの外見もいかしてて好きだぞ。
ただな、ピケはいかした女に熟してった成長期の時間だったんだろうが、俺ら人間の時間はかなり流れて、世代交代も幾らかしてってんだぞ?
王女が没して何十年も、ピケや王女の意志? てやつを尊重して成り行きを黙して見てるだけに徹してたから、どんどん存在感が薄れてってるんだ。
寿命きた爺婆もいるし、カナみたいに俺より年下世代になる程こんなもんだって。
このまま何もなかったら、そうやって王女については時間をかけて忘れられてく。
ピケはわかんないけど、爺婆に聞いてた限り、王女もそれを良しとしてんじゃないか?
でもロベニア王家と四公がロブール公女みたいな存在をまた作ったり、風紀だけじゃなくてこの国の王立学園の教育水準すらも下げちまったら、俺らの国だけじゃなく他の国も、今度こそ何かしら介入するようになるさ」
「シュピ……」
ピケもそこんところはわかってるんだろうな。
もう威嚇はしてこない。
「落ちこむなって。
まあ今のところはまだ、特に俺達の親世代までは王女を悪く言ったら、頭をどつきにくるくらいには存在感あんだからさ。
渦中にいた爺婆世代だけじゃなくて、下火になった親世代がそうなるくらいには、そんだけ流行病や迫害に侵略が酷かったんだろ?
それに国ごと助けられた恩だけじゃなく、俺達一家に関しちゃ王女との実際の関係も濃いじゃないか。
ピケもずっと身近にいたし、何十年経っても王女大好きアピールが凄い。
それって王女がよっぽどピケを、俺達の家族を卵時代に大事にしてくれてたって事だ。
少なくともそんな王女の事を、ロベニア国につられて悪く思ったりなんかしないよ」
「シュピ〜」
「ハッハッハ、機嫌直ったな」
悪魔っつうのを妹が訝しむ気持ちは、俺にだってわかる。
大体、悪魔って名前は認知されてるけど、ぶっちゃけ俺の国の奴らに見た事あるかって片っ端から聞いたって、全員がないって答えたくらい眉唾物だ。
ただ俺はこの国の学園を卒業して、カナの入学準備の付き添いで何年かぶりに来てから数年。
つい最近になって、この国で初めて悪魔らしき存在を目撃したんじゃないかと思ってる。
部族長である父さんにも報告だけはしておいた。
ちょっとした縁故関係と半分くらいはお節介から護衛兼使用人……いや、違うな。
もはや便利屋的な感じでここ何年か世話になってる……いや、むしろ俺が世話を焼く羽目になっているシャローナ=ロブール。
そんな夫人を昨年の初冬も護衛していたんだが、いつもの林を通って町へ出かける時に襲われた。
襲ったのは大量の魔鳥に珍しい緑の大蜥蜴、見た事ない色の巨大スライムを引き連れた女
調べた限り、夫人の姪で元嫁でもあった元ロブール当主夫人。
今は結局全ての貴族籍からは抜けているから、平民扱いだが、あの女の憎悪と殺意は見当違いも甚だしい理由からきたもんだった。
それでもあの女については別に構わない。
今でも四公夫人としての地位についてりゃ、そんな事もある。
けどそれより俺が気になったのは、あの時に女の背後に貼りついてた得体のしれない黒い物体だ。
一見すると少女の影っぽい物体は、とにかく気持ちが悪かった。
怨嗟の塊みたいな影。
懐にいたピケがとんでもないシャーシャーモードに入ってて、実は戦闘以外が忙しかったんだよな。
結局女は事故死扱いだから、元夫が処理したんじゃないのか?
それより女の体はどうした?
チェリア家預かりになったから、旦那のロブール前当主じゃなく、夫人が直接処理してんだよ。
幾つかの書類を届け出る時にチラッと見たけど、遺灰は頭蓋骨だけって書いてあった。
頭以外の骨はどうなったんだ?
「あ、あの……そろそろ。
明日は早いので」
「何だよ、つれないなあ。
でもま、文化祭は稼ぎ時だから仕方ないか。
まあそんな訳だから、ビクビクすんなよ」
妹にも予告したし、明日は仕事の合間に客として妹のクラスの売り上げに貢献しに行くか。
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