441.多民族国家〜ルカside

「だって明日は学園祭だろ?

世話になってる人の護衛兼付き人で、俺も行くんだ。

いきなり会うのもいいかと思ったけど、ビビリな妹が驚くと可哀想かなって思ってさ。

表向き、カナはしがない平民の子だろ?

それに2年生は食い物系を出店するっつうし、ビックリして皿ひっくり返しても、カナが困んだろ?」

「……それは、まあ……ラーメンは熱いので危ないですけど。

というか隣国の三大部族長の息子が、何で護衛してこの国に馴染んでるんですか?!

もう終わってましたよね?!」

「まあ俺は部族長候補からは、限りなく遠いとこにいたい放蕩息子だからな。

後はピケがそうしろっつったのと、成り行き?

聞きたい?」


 ニヤッと笑う。

どうせなら可愛い妹も巻きこんで、あの夫人のとこで訓練してやるか。


「……えっと、聞きたくありません。

巻きこまれたくないです」


 どうやら妹には危機察知能力が備わっていたらしい。


「何だよ、つれないな。

何なら1番戦闘に向かないって言われてる末妹が、族長の座を奪ってもいんだぞ?」

「絶対、嫌です。

私はこのまま平穏無事に族長一家のノルマを果たして、卒業後はラーメン店を暖簾分けしてもらって、自国の食文化を発展させる商売人として生きていくんです」


 ラーメンて何だ?

暖簾分け?


 そう思いつつも、3年前の別れ際は頼りない、不安そうな顔をしてたあの妹がなあと、成長に目を瞠る。

ちなみに学園入学の1年前から、俺達一族はこの国に住む事になってる。


「気の弱いカナが、ちゃんと夢を持つのは良い事だ。

性格はいけ好かねえ奴が多いけど、この国の教育は相変わらずみたいだな。

慣例とはいえ俺ら三大部族長の子供がロベニア国王と四大公爵家当主、学園長以外には知られないようにしてでも、平民としてこの学園に留学する甲斐もあるってもんだ。

けど俺らの本当のノルマは、この国の学園を無事卒業する事じゃねえからな?

一応言っとくぞ?」

「わかってますよ。

何十年も前に犠牲になったベルジャンヌ王女のような存在を、ロベニア王家と四大公爵家がまた出さないように見張る事でしょう?

一応、ロブール公女の事は、部族長に告げ口しましたよ。

もっとも公女は楽しそうだし、周りの悪評には興味なさげですが」


 そういや妹はロブール公女と同じクラスで同じチームだって、里帰りした時に母さんが言ってたな。


「まあ、それも一理ある。

けどもう1つあんだろ?」

「悪魔ですか?

本当にいるんです……」

「シャーッ!」

「ぎゃー!

ごめんなさいぃっ!」


 カナが不用意な言葉を言い終わらない内に、ピケが姿を現して威嚇する。

もちろん本気じゃない。


「こらこら、ピケの前でそれは禁句だろう。

なんせピケはそのせいで両親とはぐれたんだぞ?

な、ピケ?」

「シュピ〜」


 ピケはまだ卵の中にいた時に、ベルジャンヌ王女が親の代わりに魔力を注いで孵化直前まで育てていた蛇の魔獣だ。


 王女が直々に魔力を注いだからか、ピケが特別な魔獣だからかわからないが、ピケは意思疎通もできるし魔獣を超越したような力を扱える。


 その昔、この国で流行病絡みで散々な目に遭った俺達の祖先を王女が助け、祖先達が自国へ帰るまで手厚く面倒見てくれた。


 その縁で王女がピケを俺達の祖先に託し、ロベニア国の隣に位置する俺達の国に渡った後、ピケは俺達の実祖母から実母、そして俺へと守る対象を移しながら過ごしてる。


 でもピケが俺達の国に定着したのは、ロベニア国と違って王族や君主制じゃないのが性に合ったんじゃないか?

多民族国家で、主に3つの大部族が代表して外交に当たるが、内政は他に幾つかの部族の代表と協力して治めてるから、あんまり厳格な身分制はない。


 ちなみにピケはカナの事も近くにいる時なら守ってるが、王女を悪く言ったり、今みたいに悪魔の存在を疑う発言をすると、蛇らしく威嚇しちまうんだよな。


 ロベニア国では稀代の悪女と語られるベルジャンヌ王女。

けど俺達の国はもちろん、ロベニア国と蠱毒の箱庭って呼ばれてる森を挟んだ国も含めて、当時の外交で関わった諸国の王族や代々の外交一族の間では、稀代の悪女などとは決して認知されていない。

ただ黙して語らずを貫いている。

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