439.自身を守る護衛〜ミハイルside

「いえ、平民が多いDクラスです。

公女が表に出るとは、限らないだけですから」


 妹はもしかしたら長らく祖父母に会っていなくて、気まずいだけかもしれない。

そうした奥ゆかしさも……あったら良い、いや、あるはずだ。


 第一、祖父に対してはわからないが、祖母に対してだけは両親やシエナ、そして少し前までの俺への態度とは明らかに違っていた。


 もちろん今は違う……はず。

ちゃんとご飯を振る舞ってくれている。

押しかける事が大半だが、時折妹からだって誘ってくれる。


 妹は興味がない者、もしくは自分へ悪意がある者への態度は、かなりあっさりしているからな。

好意どころか関心すら見せない。

相手にもそう思わせる徹底ぶりだ。


 だから第2王子の『自分に惚れているせいで、婚約者の座にしがみつく性悪婚約者』という自意識過剰で自惚れた考え方がどこから来たのか甚だ疑問だ。


 確かに王家の者は皆、例外なく顔が良い。

母親が側妃であるとはいえ、元婚約者の立場は王子だ。

当時で言えば、国政にはレジルス第1王子よりも王位に近いとされていた。


 シエナに唆されたにしても、せめて第2王子という立場に惚れたと思うべきではないだろうか?


 当時の俺もシエナが異常と呼べる程、義姉への羨望と敵対心を抱いて実行に移しているとは、微塵も考えていなかった。

実妹と違って公女として相応しい努力を見せ、素直に俺の言葉に従って励み、貴族と良好な人脈を築く義妹が、まさかと……。


 シエナの真の性格はともかく、努力だけは確かにしていたんだ。

義姉で従姉でもある妹に対し凶悪な嫉妬心がなければ、平民時代に培ったであろう強かさと努力でもって自身の才能を開花するに留めていたなら、公女として生涯を終えただろう。

今でもそう思っている。


 だからシエナの、義姉が第2王子婚約者に惚れているという戯言と、常識とも言える第2王子の婚約者という立場には妹も執着していると信じていた。


 正直、戯言は半信半疑な部分もあった。

妹の婚約者への態度が、あまりに自分と酷似していたからな。


 だが少なくとも常識は信じていた。

その後に妹と直接話して、戯言も常識も見当違いだと思い知ったが。


 そんな不甲斐ない兄の俺だから、妹の祖父母に対する態度の違いも確信している。


 それでも妹が祖父母に対してどう思っているのかは、先に確認してみよう。

もし会いたくないと言ったなら、俺は次期当主としてではなく、兄として接するつもりだ。


 妹が祖父母に何か誤解しているとしても、まずは理由を付けて会わせない。

誤解を解いて妹の心が決まってからでも遅くはない。


「無理はさせなくて良い。

その時はただ、美味かったとだけ伝えてくれ」


 祖父の不意の言葉に、そちらを見る。

煌めきは消えているが、俺の態度から何かを感じたか?


 それに眉根を寄せているが……これはもしやを気遣っている?

どことなく視線を下にやっているな。


 だとすれば食事前、祖父が妹の不在を不快に感じてしまったと思ったのは、俺の勘違い?


 祖父も父と同様、基本は無表情だから心の機微はわかりづらい。

レジルスも含め、他人に自分の内面を悟らせるのを良しとしない立場の人間ばかりだが、俺の周り、無表情が多いな。


 いや、妹やウォートンのように微笑みの仮面を貼りつけているか、無表情でいるかの違いか。

むしろ、あの2人の方が本心を見せない。


 お陰で目元や声音、視線の向け方で判断するようになった。


「でしたら先にラビアンジェに都合を聞いて、伝えておきます。

明日は生徒会役員として早朝から学園に赴くので、その時間帯ならラビアンジェも2年Dクラスで準備しているでしょう」

「それならルカを遣いにやるわ。

私達は好きに動けないでしょうから」

「わかりました」


 ルカというのは、祖父母が連れてきた使用人でこの場にはいない。

ボサボサの白金髪に無精髭を生やし、長めの前髪で隠れがちだが淡緑の瞳をしている。

護衛兼、執事兼、御者、その他諸々の雑用をしている。


 何でも祖母にかけられた守護魔法が強力過ぎて、襲われた際の飛び火から、いち早く自分を守れる護衛として残ったのがルカだとか。

母が祖母を襲撃した際にも、ルカが御者兼護衛としてその場にいたらしい。


 護衛対象を護衛するのではなく、最終的に護衛自身を守る護衛……意味がわからない。


 祖母にかけられた守護魔法については簡単に教えてくれたが、高度過ぎて解読すらできなかった。

一体誰が……。





※※後書き※※

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これにてミハイル視点は終わりです。

わかりにくいかなと思ったので(^_^;)

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