433.美女と氷像と悪魔と

「公女、音波狼の骨は……ふわぁ」


 声をかけてきたのは、ローレン君。

欠伸をしたかと思うと、体をグラリと傾げてふらつく。


 頭にディアを載せている私は、お玉を片手にローレン君の体を少女漫画に登場する、キャッキャウフフな王子のように、華麗にキャッチ。

もちろん身体強化は忘れていないから、グラついたりしない。


「ローレン君?

あらあら、眠っているわね?」


 まるでつむで指を刺した途端眠りについた、眠れる森の美女みたい。

もちろんローレン君が美女役よ。


「「「「尊い……ふわぁ……」」」」

「まあまあ?」


 他にもいた同級生達が、こちらを見ながらモゴモゴ呟き、かと思へば全員が欠伸したわ。

からのローレン君のように、体をグラグラと揺らす。


 明日の学園祭に向け、今夜は食堂で寝ずの仕こみ班だった私達。

ほら、豚骨を煮出すには8時間以上グツグツ煮こむ必要があるじゃない?

火にかかっている幾つかの寸胴鍋に入っている骨は、豚骨じゃなくて音波狼の骨だけれど。


 この食堂にいた同級生達は、ローレン君を除くといつものチームメンバーとは違う顔ぶれ。

今回は班が分かれているのだけれど、これは何事かしら?


 と言っても、実は原因を気配で察しているの。


「ディア、お願い」

「任せて!」

__パキィン……ゴトゴトゴト、ゴロゴロゴロゴロ。


「あらあら?」


 同級生達がディアの魔法で一瞬にして氷漬けになってしまったわ?


 確かにこれなら怪我もしないし、土足で歩き回っていた足元の床で体を汚す事もない。


 ……凍傷にならないと良いのだけれど。


「完璧!」

「ええ、バッチリね」


 頭の上でふんぞり返って得意気なうちの天使。

なんて可愛いんでしょう。

お婆ちゃんは、もちろん同意一択よ。


 生体反応はちゃんと感じるし、怪我しないのが正義だもの。

うちの天使が正しいに決まっている。


「ラビ」

「ラグおじちゃん!」


 私達の頭上に現れた、抱き枕サイズのラグちゃん。

嬉しそうな声と共にピョンと跳んだディアが、その白銀の鬣に掴まってよじ登っていく。


「ディアもいたか」


 痛がる素振りもなく、いつもの事だと悠然と構えつつ、私の腰に長い胴を巻きつけてくるラグちゃん。

父性が駄々漏れね。

とっても優しいお顔で、ディアが首元まで登りきるのを見守っている。


「どうしたの?

豚骨スープは火にかけたばかりだから、まだラーメンはできないわよ?」

「ラーメンは食いたいが、違う」


 あらあら、てっきりラーメンの催促かと思ってしまったのだけれど、違ったのね。


「ふわぁ……ディアも眠い」

「良い子は眠る時間だ」


 夜半豚骨煮こみ班昏倒犯。

早口言葉を考えてみたのだけれど、いかが?


 それはともかく犯人であるラグちゃんは、天使も昏倒させてしまったのね。

天使がフワフワの鬣をお布団のようにして、包まって眠り始めた。


 やだ、それはそれで羨ましいわ。

私も包まって、埋もれながらスンスンと……。


「ラビ、いかがわしい顔で鬣を狙うな」

「そ、そうね?」


 どうして毎回バレるのかしら?

そんなに私のお顔って、いかがわしいの?


 私の腰に胴を巻きつかせたままだけれど、それとなく離れるラグちゃん。

聖獣達のスンスンへの警戒心が半端ない。


 でもそうね。

聖獣とはいっても、天使はまだ幼いもの。

お手伝いだと張り切る姿が可愛くても、夜更かしさせるのはいけなかったわ。


 もちろん同級生達の目には、天使の姿は見えていなかったのよ。


「それで、どうしたの?」


 ラグちゃんを腰に巻きつかせたまま、まずはローレン君を何の食材も並んでいないテーブルの上に、転移させて寝かせる。


 幾つかのテーブルには、同級生達が下ごしらえしていた、アイスプラントをはじめとするラーメンに盛りつける材料が並んでいるの。


 話が長くなりそうなら、氷像に囲まれるラーメン男体盛りなるアート作品を作るのもいいわね。


 もちろん氷像は同級生達、盛りつける男体はローレン君で表現するわ。


 なんて考えつつお玉を置いて、各お鍋の火加減を調整しながら犯行目的を尋ねる。


「ラビ、中身はともかくお前は年頃の女の子だ。

それは止めておけ」

「そ、そうね?」


 またしてもバレた?!

解せないわ?!

中身はともかくって、その通りだけれど、何かにつっこみたくなる自分がいるのだけれど?!


「例の悪魔の、真の目的に気づいた」


 騒がしい内心が、ラグちゃんの言葉で静かになった。


※※後書き※※

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展開に迷っていたせいで、少し間が空きました(^_^;)

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