432.何の布教活動を……〜教皇side
「猊下、確かに私自身の切なる願いも……ないとは言い切れません。
それについては……懺悔致します……」
姫様やら聖獣やらトワやらに思いを馳せる私は、ナックスの言葉でふと彼の顔を見る。
その憂い顔止めろ。
芝居がかっている。
下手くそか。
「しかし!
百合の花を切望しているのは、私を含む教会関係者ばかりではありません!」
どうした、ナックス?!
突然、熱い何を滾らせているんだ?!
というか教会内には、他にも百合好きがいると?!
「信者、いえ、姫信者からも多くの声が寄せられております!」
何だ、姫信者って?!
信者と何が違う?!
「それに聞き手となる者達だけでなく、作家のトワ様からも朗読会用の百合にまつわる、お手紙風の台本をいただきましたので、是非。
戦地へ赴くとある姫騎士から、姫人を気遣う心温まる……人としての有り様を綴った、もの、で……ううっ……涙なくしては……うっうっ」
姫騎士とか姫人って何だ?!
騎士や恋人か夫人では駄目なのか?!
騎士とパートナー的な話じゃないのか?!
思い出して泣くな、鬱陶しい!
ナックスは涙で濡らす前にと、恭しく両手でギュッと握りしめた紙と台本を差し出す。
手にした台本の上の紙は姫様__もちろん私の姫様の方だが、姫様が書いた切り絵の指示書だった。
台本もパラパラ捲れば、間違いなく姫様が書いたらしき内容だ。
これ、少し前に教会内で神官達が話していた、作家トワの新作とかいう、学生上がりの騎士と魔法師科の学生の百合小説から抜粋していないか?
もしや教会内で薔薇派と百合派の密やかなる抗争とか……起きてないよな?
もしや百合好きを別称で姫とか呼んでないよな?
「…………わかりました」
教会が得体の知れない沼のような何かにはまり、ズブズブと沈んでいくような錯覚に陥りながらも、気力を振り絞って返事をする。
元より
「ありがとうございます!
ああ、忘れておりました!」
満面の笑みを浮かべて礼を言うナックス。
お前の為じゃないんだぞと釘を刺しておきたい衝動に駆られたものの、ナックスが突然踵を返してドアを開けに行ったせいでタイミングを失う。
外に誰かを待機させていたのか?
何かを受け取って、再び戻ってきた。
「こちらは今回、百合の朗読会を準備する予定の教会関係者達から、切り絵に是非使って欲しいと渡された紙束です!
信者20部と準備する者達20部の、計40部となります!
準備する者達は猊下の素晴らしい朗読会と、布教活動にとてつもなく滾って、いえ、感銘を受けた者達ばかり!
既に上納金も納めております!」
小規模な朗読会の準備だぞ?!
人手に20人も使うな!
というよりも、いつから上納金を納めるシステムになったんだ?!
「なので是非とも、指示書に書かれた金色はこちらの色味の金でお願いしたいのです!」
言われて指示書を改めて確認する。
ミルクティー色と金色……あの小説の騎士はミルクティー色の髪色だったが、魔法師科の学生の金髪は……姫様の性格からして、この金色をイメージはしていないはず。
ナックスよ、確信犯か?!
上位神官という地位にありながら、姑息な真似を!
どうせなら白色と桃金色が良い!
もしくは黒色と藍色だ!
しかし今の姫様は、理由がなければ私と会ってはくれず……。
私の髪も瞳もミルクティー色には……全く当てはまらない……クソッ。
「……良い、でしょう」
仕方ない。
あまりにもかけ離れた色味だと、姫様と会う機会が減るかもしれない。
しかし次は私と姫様の髪と瞳の色を組み合わせた、薔薇も百合も含めた種々の花々の切り絵を献上しよう。
姫様から作家トワとしての感性に刺激を与えられれば……フフフフフフ。
「げ、猊下?」
はっ、しまった。
戸惑いがちなナックスの声に、意識が妄想の沼に沈んでいたのを自覚する。
しかし時折見せる姫様みたいな変態、じゃない、ちょっといかがわしい感じの顔になっていたなんて事は……ない、はず。
「何でもありません。
それでは準備しておきましょう」
「はい!
よろしくお願いします!」
そう言ってナックスが出て行った。
後日開いた朗読会は好評で、薔薇の時と違う面子が集まり、薔薇と同額の寄付金が集まった。
上納金も紙代だけは納めるようにと言ったのに、かなり多く納めたと聞く。
皆口を揃えて推し活だと言っていたが、未だに意味はわかっていない。
それにしても、うちの教会は何の布教活動を始動しているんだろう?
※※後書き※※
いつもご覧いただきありがとうございます。
これにて教皇sideは終わりです。
最近の腐教、いえ、布教活動について書きたくなってしまった(*´∀`*)
関係ないお話ですが、切り絵を調べていたら切り絵の御朱印なる存在を発見(*´艸`*)
興味がある方は是非。
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