423.祖母への挨拶〜ミハイルside

「いらっしゃい、ミハイル」

「お久しぶりです、お祖母様」


 先に祖父と挨拶を済ませた俺は、祖母の元を訪れた。


 微笑んで俺を迎えた祖母。


 少しやつれてしまったか?

それに髪の色が以前と比べ、より一段と白味が増してしまった。

元々は妹と同じ、桃金の髪色だったのに。


 あの肖像画に描かれていた祖母の父親であり、俺の曽祖父である前チェリア伯の白桃色の髪に近づいているかのようだ。


「無事、ルシアナを埋葬してくれたと管理の者から聞いたわ。

ありがとう」

「私の母親でもあります。

お祖母様がお気になさる必要は、ありません」


 母親が祖母を襲った経緯は、既に聞いている。

しかし母親の犯した罪は、先代ロブール家当主であり、夫でもある祖父は納得していないものの、祖母の強い意向があって闇に葬られた。


 だから俺からその話題に触れる事はできない。


 母親が亡くなった時、既に離縁が成立してロブール家とは縁が切れていた。

そして生家となるロブール家傍系に当たる侯爵家は、離縁後に母親が籍を移す事を拒否。


 その状態で先代ロブール公爵家当主夫人を襲った以上、平民の罪人として処理されてもおかしくはなかったのだ。


「私の方こそ母親をチェリア伯爵の墓地に埋葬させていただき、感謝しております」


 祖母は無縁墓地に埋葬するしかなかった母親を、チェリア伯爵の墓地に埋葬してくれた。

それだけでも十分に有り難い。


 仮に祖母にかけられていた守護と諸々の魔法が反撃し、結果的に母親の死を招いたとしても、その気持ちは変わらない。

祖母にかけられている魔法について知らされていなかったが、むしろ祖母に怪我がなくて良かったと安堵したくらいだ。


 母親が変わり果てた姿となったのは、その後。

そこには悪魔とシエナが、何かしら関わっている気がしてならない。


 シエナはこの夏、自ら望んで魔法呪となりかけた。

俺と王子、そして妹の手により解呪されたが、あのまま魔法呪となっていたら……。


 もしもの事態を考えると、おぞましさが先立つ。


 シエナは呪いの後遺症から老婆のような姿となり、北の強制労働施設に送られた後、死亡した。


 遺体には頭部が無かったと聞く。


 人の姿だった母親と最後に対峙した時、シエナの影のような何かが、母親に絡みついていたのが気になる。


 それに母親が異形の姿となった時、人体の部分は頭部だけだった。


 父上が俺に渡した骨壷に納められた灰は、頭部だけだと報告を受けている。

異形の部分は切り離したとも。

それなら体はどこに行ったのか……。

父上からは、他の部位は見つかっていないとだけ知らされている。


「いいのよ、姪だもの。

それにルシアナが歪んだ原因は、亡くなった私の姉との確執を、解消しないままにした私にも責任があるわ。

……ラビアンジェは、何か言っていたかしら?

もうずっと会えていないわ」


 祖母が妹を気にするのは、母親の死の原因が自分にあると感じているからだ。


 あまり人に執着しない性格の妹は、祖母が王都の邸を離れてからまともに会っていない。


 祖母は何かと気にかけ、当時は現当主夫人として妹と過ごしていた母親へ、定期的に妹の事を知らせて欲しいと手紙を送っていたらしい。

妹の誕生日には贈り物もしていた。


 全て邸の女主人だった母親が、握り潰していたようだが……。


 しかしこれまでの言動で、妹は間違いなく祖母を慕っている。


 妹は母親の胎内にいる頃から記憶があると、到底信じられない話をしていたが、そこを疑う事はできない。


 そうでなければ生まれた直後、母方の祖母から存在を全否定された話を、妹が事細かく知っていた説明がつかない。


 出産に立ち合った先代当主夫人祖母が、その立場をもってそこにいた何人かに、直接箝口令を敷いたから当然だが、俺ですら細かい事情や経緯は知らなかった。


 余談だが、幼かった俺が母親の眠っている隙を窺って、胎内にいる妹に話しかけていた事も覚えていた。


 妹からは、お兄様がとっても可愛かった、などと感想を添えて聞かされた。

ポーカーフェイスを貫いたが、内心、何とも言えない羞恥に身悶えていた。

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