422.ロブールらしい妹と祖父〜ミハイルside
『お祖父様が……どうして……』
『…………さあ? お祖父様のお気持ちはお祖父様にしかわからないから』
あの時、祖父が自分を認めていなかったと知ったシエナの独白のような問いに、妹は何かを言いかけたが、結局明言は避けた。
まるで仕方のない人だとでも言うように、苦笑しながら。
祖父にとってこの家の血を守る事は、どういう意味があるのか。
高貴と呼ばれる四大公爵家の1つであるロブール家は、この国の中でも血筋としては由緒正しい。
しかしシエナの母親に何かしたり、シエナを認めなかった理由が単に血筋や家柄を守る為だけとは、どうしても思えない。
俺には見当もつかないが、今思い返してもやはり妹はその理由に思い至っていたように思う。
聖獣ヴァミリア側の不純な動機とはいえ、1度は聖獣と契約していた妹だ。
聖獣から聞かされている話があっても、不思議ではない。
それに妹は貴族としての教養や常識に全く興味を持っておらず、重要視すらしていない。
なのに関心事には、凶悪極まりない破壊力と勢いで執着し、より効率的に楽しむ為なら間違いなく一級品と呼べる魔法具を作り出し、そちら方面の知識なら喜んで吸収し、実行力も発揮する。
……あれ、俺の妹って本当は天才気質なんじゃないか?
まあそれはともかく、ある意味ロブールらしい気質……いや、それをロブールらしいとして看過するのも良くはないが……。
まあそれはともかく、だ。
そんなロブールらしい妹が、同じくロブールらしいと告げたのが祖父だ。
祖父の他人に見せない何かしらの想いにも、妹だから気づいているように感じる。
「ミハイル?」
呼びかけられ、ハッとする。
祖父は押し黙ったままの俺に、痺れを切らしたらしい。
「申し訳ありません、少し考え事を。
ええ、妹から。
しかしどうして妹が知っていたのかまでは、詳しく聞いておりません。
父上が妹に、何か話していたのかもしれませんね」
そう言いながら、妹がノリに乗って破廉恥小説を書き上げている時の顔を慌てて思い出す。
淑女どころか女子としてどうかと、見ているこちらが危惧してしまうような、あのヤバイ顔だ。
もちろん他者の感情や考えを、何かの魔力残渣や映像として視ているかもしれない、祖父の瞳への対策だ。
「妹の助言の是非は私にもわかりません。
ただどちらにせよ、この瞳への対処に困っているのも事実です」
「………………そう、だな?
あの子は……その、大丈夫……なのか?」
祖父は戸惑って、というよりはドン引きして冷めた笑みを引き攣らせたな。
その大丈夫は、妹の趣味嗜好についてなのか、妹自身の頭のネジの締まり具合なのかは、あえて聞かずにおく。
とにかく祖父の瞳から妹を隠し仰せる事には無事、成功したと確信する。
やはり祖父は俺に瞳の力を使っていたんだろう。
今は祖父の瞳の煌めきは収まり、ただの金緑色の瞳になっている。
力は解除したようだ。
「ええ、妹なりに充実させているようで、何よりです。
瞳について対応いただくのがお祖父様では難しいようなら、父上に聞くしかありません」
「……何故最初からライェビストを頼らない?」
平静を装ってもっともらしく言い切ってみれば、幾らか間を置いて、思っていた通りの疑問が返ってくる。
「父上は魔法馬鹿、ゴホン!
魔法に関してはタガが外れやすいので」
「……まあ、そうだな」
言外に、魔法の実験台にされそうだから嫌だと告げてみる。
祖父もそこは納得してくれたようだ。
「それに魔法師団団長として忙しく、邸には月に1度戻る程度の希薄な関係である父上より、領地経営を学ばせていただいたお祖父様の方が、接してきた時間が長いので。
孫としては、お祖父様の方に頼りたくなるのも仕方ないのでは?」
「……そうか。
今日は来たばかりで疲れているだろう。
明日から冬休みが終わるまでに、暴走を抑えて日常生活に支障がない程度の制御方法は教えよう」
「ありがとうございます。
お祖母様にご挨拶してもよろしいでしょうか」
「ああ、シャローナも喜ぶ」
祖父の許可も下り、祖母の元へと向かった。
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