421.兄妹の顔立ちと妹の言葉〜ミハイルside
「どこでその瞳の話を聞いた?」
冷めた笑みを浮かべたまま、祖父が切れ長の瞳を細めると、金緑の瞳が幾らか煌めく。
祖父は瞳の力を使い、これからする俺の答えの真偽を確かめようとしているのか?
それにしても祖父と相対するといつも感じる。
俺の面立ちと髪色は、祖父から父、父から俺へと色濃く継いだと。
しかし俺の菫色の瞳は、今は亡き母親の同じ色。
そしてここに来るきっかけともなった肖像画から、母方の曽祖母の色だった。
対して妹は髪も瞳も顔立ちも、祖母の若かりし頃にそっくりだと思っていたし、周りもそう認知している。
とはいえこの祖父の冷めた笑み。
これは妹が距離を置く人間に対して浮かべる、貴族らしい笑みを彷彿とさせる。
どうやら俺達兄妹は祖父母両方から、しっかりと血を受け継いだらしい。
「ラビアンジェから聞きました」
そう思いつつ、祖父に返事をする。
自分が同じような力に目覚めたからこそ、隠しても無駄だと感じて素直に話す。
ただ、どこまでを伝えるべきか。
正直悩むな。
「……お前の妹から?」
訝しむ祖父の言い方に、ふと違和感を感じた。
ラビアンジェと名を呼ぶでもなく……
この夏、魔法呪の依り代となった
妹はこう言っていた。
俺達兄妹の母親にとって、シエナをロブール家の養子に迎える事は、今も俺に冷めた笑みを向ける祖父への意趣返しだと。
そして……。
『だってお祖父様はあなたを引き取る事に反対していたじゃない?
もしかしたらお母様は伯父様の駆け落ち前、何かしらの行動をあなたの実母にしていたかもしれないし、お祖父様ならそれに気づいても黙認、もしくは唆した可能性すらある。
ロブールらしい人だものね。
だからこそ突然の駆け落ちに繋がった。
なんて、もちろんこれは推測の域を出ない話よ。
けれど有り得なくはない可能性。
そしてお母様があなたを手にかけると確信して見逃していた。
結局私がいた事で起こらなかったから、これも想像でしかないわね』
下手をすれば祖父がシエナの母親に、何かしらの危害を与えたと言外に告げていた。
祖父が伯父夫婦が駆け落ちするきっかけを作り、なおかつ伯父夫婦の死後、身寄りのなくなったシエナを見捨てようと動いていたとも受け取れた。
ロブールらしい、か。
『ロブール家には相手の望む言葉を与えて自分の思い通りに他者を動かす事を無意識にやってのける者が多く産まれるの。
立ち回り方が上手いとでも言うのかしら。
だからこそこの家は危うげもなく中立を保ち続け、今ではその立場を強固なものにしているわ。
もっともお父様のようにしがらみを嫌う者も多くいたから、その為にそう行動してきた末の結果論とも言えなくはないけれど。
時流や敵味方の見極めと立ち回りで相手を魅了するからこその中立ね』
確かあの時、妹はそうも言っていたな。
ロブール家の人間は、基本的に人や物事に執着しない人間が多く生まれる。
これについて俺も知っていた。
しかし1度何かに執着すると、決して手放そうとせず、生涯とんでもない執着を見せるようになるらしい。
後にレジルス第1王子から聞かされた。
父親の魔法馬鹿もロブールらしいと言えるそうだが、執着に関しては正直、王家の血じゃなかろうか。
元々四大公爵家の血を辿れば、初代国王と最も親しい兄弟姉妹だったりする。
魔力は血に宿ると言われていて、過去には王家と四大公爵家との間で婚姻もあった。
ロブール家に王族が降嫁した事もあり、当然だが王家の血が流れている。
妹への長年の初恋を拗らせに拗らせ、妹にとんでもなく執着しているレジルスは、妹の兄である俺にも、ドス黒い嫉妬を隠す事なくぶつけてくる。
今のところ妹の拉致監禁には至っていないが、いつかレジルスがそんな暴挙に出そうで、俺は常に警戒している。
いくら妹が逃走猛者であっても、魔力が少なく生活魔法以外は不得意だ。
魔力が多く、魔法の才能と頭脳明晰なレジルスが妹を拐おうとすれば、妹にはなす術がない。
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