416.麺料理
「どうかしら?」
時間は放課後。
学園の食堂の一角でテーブルに座る、3人のチームメイトと食堂のおばさんをしているマリーちゃんを前に、少し緊張感をもって尋ねたのは私。
4人は深い汁物の器に入った麺をフォークに引っ掛けて、
「うまい」
「「美味しいです!」」
短く答えてくれたのは、ラルフ君。
元気良く声を揃えてくれたのは、カルティカちゃんとローレン君。
チームメイト3人は、目を輝かせながら更に麺をすする。
「……ふふふ……ふふ……」
けれどSクラス給仕おばさんとの異名を持つマリーちゃんは、うつむき加減で更にズルズルと一口すすって、笑い始めた。
「マリーちゃん?」
「こりゃ売れるよ、ラビちゃん!
文化祭が終わったらレシピをおくれ!
もちろんタダとは言わない!
使用料って事で、毎月の売上から手数料払うからさ!」
ゴクンと麺を飲みこんだマリーちゃんは、ガタッと立ち上がって興奮気味に叫ぶ。
「あら、私とマリーちゃんの仲ですもの。
それにおじさんとおばさんには昔からお世話になったのだから、使用料なんて……」
ひとまず対面の椅子に腰かけながら、要らないと言いかけて、ふむ、と考え直す。
「でもそうね、使用料として上に乗せているアイスプラントを使う事を条件にしても良いかしら?」
アイスプラントは隊長こと、聖獣ドラゴレナの品種改良によって生まれた植物よ。
私の前世でお馴染み、あのアイスプラントと同じもの。
塩害に苦しむ辺境の土地を土壌改良する為に、私がお願いしたわ。
もちろんそれだけじゃない。
アイスプラントは人の体を健やかにしてくれる、素敵植物なの。
一応、私の保護者を自負するリュンヌォンブル商会の商会長であるユストさんにお願いして、魔法で成分を鑑定してもらったわ。
魔法で人畜無害である事が証明されないと、販売できない決まりがあるの。
前世のような脂質と血糖上昇抑制、ミネラル豊富、アンチエイジング効果とは出ないけれど、『ダイエット効果と美容効果あり』とは証明されたわ。
「このプチッと食感の塩味葉っぱはサラダにも良いし、もちろん仕入れさせてちょうだい!
でもそれとこれは別さ!
これってトムの母親が夏限定で開いてるカフェで出してたパフェのやつだろう!
上にミント代わりに乗せてたやつ!」
「よく知っているわね?」
トムさんは、王都にある果物屋さんの店主をしているの。
先代店主であるトムさんのお母さん__おばさんと呼んでいるのだけれど、おばさんは今、トムさんに代を譲った後、王都の外れで新鮮な果物をふんだんに使ったケーキ屋さんを営んでいるの。
テイクアウト専門なのだけれど、夏季限定でパフェをメインにしたカフェも営むわ。
確かこの夏は、私のチームメイトであるカルティカちゃん他、数名が2年Dクラスからアルバイトに入っていたわね。
そのおばさんがお顔が広くて面倒見の良い人だったから、小さかった私がアルバイト先を探していると知って、口を利いてくれた。
紹介してくれたのが、マリーちゃんのご両親が営む居酒屋さん。
そのご縁で、マリーちゃんとも仲良くなったの。
ちなみに当時も今も、王都の下町では平民ラビとして通っているわ。
もちろんマリーちゃんも含めて、私が四大公爵家の公女だと知った人には、内緒にしてもらっているのよ。
「毎年食べに行ってるからね!
デザートの甘みを際立たせてた葉っぱが、気になってたんだよ!
あっちは小さくカットしてたけど、このラーメンにも合う!」
「そうでしょう!」
弾丸褒め言葉を発射するマリーちゃんと、機嫌良く頷く私達2人をよそに、他の3人は夢中で麺をズルズルしている。
そうそう、麺の正体なのだけれど……。
「音波狼は素材としては使い道がなくて廃棄される事が多いからか、食材としてはほぼタダ!
なのに翼はヒレ酒、骨は煮出して豚骨風スープに最適な素敵食材!
これからラーメン文化が浸透して値上がりしても、知れているはずよ!
マリーちゃんのお家が夜に営む居酒屋のメニューにピッタリね!」
そう、その正体は少し前にユストさん達から頂戴した、音波狼を使った豚骨風ラーメン!
お顔の豚鼻にピンときて、試しに骨を使って出汁を取ったら、狙ったかのような豚骨スープ味!
これはもう、豚骨ラーメンを作るしかないわよね!
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