414.古代魔法〜国王side

「だからこそ泣き叫ぶ母親を見るのは幼心に……そうね、今ならそれが忍びなかったと言葉にできる。

だから再び眠りにつかせ、消したのよ」


 かの日記から、祖父王は決して王女の母親側室を正妻であるスリアーダから直接守りはしておらぬ。


 なれど祖父王は心より側室を愛しておった。

側室となる前に不当な手段で奪われた上、正当な手段で取り返す事も、もう1度本来の形で手にする事もできなくなったからこそ、執着しすぎたのだ。


 結果、手放す事もできなくなったと日記には記されておる。


 唯一手放す可能性があるとすれば、側室の愛した家族によって生家に引き取られる事であったのかもしれぬ。


 だが元は侯爵家だったチェリア家生家は、何故か没落の一途を辿る。

当時王太子だった祖父王の婚約者であった、シャローナ=チェリアの叔母が行方不明となった頃を境にして。


 これといった事情があったわけでもないというのに。


 そこに2代に渡るが介入したのかは、今となっては余にもわからぬ。


 確かなのは、ベルジャンヌ=イェビナ=ロベニアはの過ちにより生まれ、王族と四公の罪を背負い、この国の全てを守って果てた事。

そしてこの国の真のであり、稀代の悪女。


 今では余しか知らぬ真の王稀代の悪女が望まぬ限り、決して表に出せぬ事実。


「だからあなたが王女を想う必要はないわ。

王女の戸籍上の父親が、何を遺したのかは知らない。

けれど先代の王妃達__あなたの2人の母親よりも真実を知っていそうだもの。

大方あなたの祖父が、何かを遺していたのでしょう?」

「ああ……」


 そうだと答えかけ、公女の首元に見えかけた白銀の聖印が目に留まる。

日が落ちかけておるが、顔色の悪さにも気づいた。


「この聖印は?」

「王女が裏技でこの国の主となった証と罰よ。

あなたが自力で知り、推察した事以上の話を私からするのはダメみたいね。

私達が今いる、こちら側の世界にはいない聖獣ちゃんとの、我慢比べ中なの。

負けたら王女のように灰になるわ」

 

 こちら側にはおらぬ聖獣……間違いなく王族に祝福名を与える聖獣だ。


「解呪を……」


 すぐに魔法で解呪しようとしたものの、公女の体に魔力を通した途端、弾かれる


「無駄……」

『ジルガリム=ソベル=ロベニアが切に願う。

この者に全ての属性祝を与え……封じん』


 公女の言葉を無視し、瞬時に古語で古代魔法を展開する。

公女の魂に絡む非なる魔力を感知し、解呪を途中で止める。

公女の纏うローブを参考に、抑えこむ方へ魔法を展開した。


 首元、そして良く見れば手元にもあった聖印が、波が引くようにして消えていく。

成功したらしい。


 魔力だけでなく生命力を消耗する感覚に、立ち眩みを起こして座りこんだ。


 余に祝福名を与えた聖獣が公女に何かしているのならば、余の祝福名に絡めて干渉すればよい。

絶えて久しい古代魔法は、かの聖獣が顕現せし頃の魔法。

そして余の宿す魔力の属性は全ての属性。


 その上、王女のように偏りなく均等。

故に干渉し、進行を抑えこめると考えたが、当たりのようだ。


「馬鹿ね。

祝福名を口にするなと、あの聖獣ちゃんが魂に警告を与えていたでしょう」

「っつ。

そう、だな。

頭痛がするくらい激しく……はぁ、警告が伝わりおる。

2度は……できそうにない」


 まるで魔力を枯渇した時のような目眩、頭痛、吐き気に襲われる。

ならぬと警鐘を鳴らす本能からの焦燥感にも、眉を顰めるのみに止める。


「当たり前よ。

国王なのに随分と無謀なのね。

私のようになりたくなければ、今後は控えなさいな」


 公女の口調から、咎められておる事が伝わる。

どうやら本当に危険であったらしいが、どことなく子供を叱る祖母のような、手加減した叱り方だ。


「話したい事はあらかた話せたし、あなたも話せたわね。

どのみちこれ以上話すのはお互いにとってすべきではないわ。

これから先は個人的な話も、会うのももう止めましょう」

「待て……」


 立ち上がって余に近づいた公女は、余の肩をトンと押す。


 すると余の静止も虚しく景色が変わった。

場所は廃墟と化した、ベルジャンヌ王女の離宮であった。

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