413.過ちの根源〜国王side
「ならば王女は何故に、その才を隠さず発揮した?
今のそなたのように爪を隠しておれば、もっと生きやすかったのではないか?」
それでもやはり引っかかりは残るもの。
「皆にとって最善を模索しようと思えたくらいには、特別な存在がいたからよ。
愛を感じていても、いなくても、特別という存在が在ったから純粋に彼らを想い、本当の自由を与える為だけに動いていた。
その結果が、皆にとって最善を模索する事に繋がっていただけ。
人生を長く経験した大人なら、王女の行動が悪手だったとわかるわ。
それでも誰も人の心を教えてくれない状況で、王女なりに考えた結果だったの。
だから他にもっと最善があったと後から気づいても、選択に後悔はしていないはず」
「名声も功績も全て奪われ、生前も死後も貶められ続けたとしてもか?」
「確かに王女はたくさんの偉業を残した。
大きなものなら蠱毒の箱庭に結界を張り、災害級の魔獣を沈静化させ、流行病を抑えて関係悪化の一途を辿る近隣諸国との調和を取りもった」
「他にも多々あろう。
平民の育成の基礎を築き、我が国の国力を上げる大きな一助となった。
他に花火や複製ペンも開発しておったな。
全て先々代王妃と、先代国王の手柄となっておる。
外交の発展は流行病を予防し、特効薬を開発して隣国共々に流通して沈静化させた事も含め、当時の国王と教皇の偉業となっておる。
真に悔しくはなかったのか?」
「その功績や偉業が誰によってもたらされたのか、その真実がどう歪んで伝わったかなんて、些事では?
大事なのはそれがどれくらいの期間で成されるか、もしくは成されないかよ」
「王族としての献身故か?」
「献身?」
聞き返すと同時に、公女はプッと吹き出してしまった。
「今までの話の、何を聞いていたの?
ただの無頓着じゃない。
普通なら、そんなに気になるものかしら?」
暫しおかしそうに笑ってから、余にそう尋ねる。
「普通は、そうであろうな。
少なからず人には自己顕示欲が備わっておるものだ」
「そう。
人として当然在るだろう感情の起伏がなかったのだから、大多数の価値観は王女に備わっていなかっただけね。
立場が無いどころか、自分の手柄にすれば時の王妃だけでなく、国王すらも邪魔をしてくるのだもの。
常に庇われる立場だった、王妃の実子が行ったとする方が早く成立するなら、そちらの方が好都合。
実利を優先する合理主義だと思っていたのだけれど、そう思っていた時点で壊れているのでしょうね。
それに関して悔しいなんて感情は皆無だったわ。
何より疑問に感じる暇もなく、ついうっかりポクッと逝っちゃったんだもの」
「……ついうっかり、か?」
自らの死を随分と軽く扱う言葉に、思わず聞き返してしまった。
すると公女が防音の魔法を繰り出す。
決して誰にも、恐らく聖獣達の眷族を介して漏れぬようにする為であろう。
「それくらい王女にとって、自分の命は軽かった。
そして自分にとって特別な者達は、その命が誰かに害されないよう、守っていたでしょう?」
「母親は?」
王女に愛を与えた者、与えなんだ者。
特に与えなんだ者のうち、王女にとっての特別であったとするなら、それは実母であろう。
記録によれば側室は王女を生んだ後、産後の肥立ちが悪く長らく寝台に臥せった後、亡くなった。
しかしいつ頃亡くなったのか、正確に記録されておらぬ。
祖父王の側室という存在こそが、王家の犯した過ちの根源であったというのに。
「王女は実母である側室を最後まで守る事はしていない。
それが答えよ。
側室は王女が生まれてすぐ、眠りに落ちたの。
けれど1度だけ、王女は側室を起こした事があるわ。
そして王女の存在を正しく理解した途端、側室は恐怖し、泣きながら人生を悔やみ、嘆き続けた。
その時、王女は自分に流れる王家の血がどこから来たのか知ったの」
公女は当時を思い出したのやもしれぬ。
薄っすらと微笑む顔には、どこか憂いを感じた。
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