411.歪んだ関係の発端〜国王side

【泣かぬ赤子。

不気味な赤子。

余の愛する者に宿った、呪われた赤子。

生まれ落ちた瞬間、母親を呪った赤子。

何故こんな事に……も、赤子も許せぬ。

同時にこの赤子の全てが憎い。

母親の血筋の色が色濃くなければ、あの男同様に殺していた。

藍の瞳にまで王家の色を宿すこの赤子が憎いのに、愛する者の面影のせいで……殺せぬ。

憎しみだけが募っていく……】


 祖父王の遺していた日記の一節。

レジルスが魔法呪となった折、祖父王が最期を過ごした離宮にその身を移した故に見つけた日記。

書かれていたのはままならぬ状況で生じた怒りと憎しみの矛先を、自分の子ではない王女へと向けていく祖父王の心情。


 文脈と当時の背景から、愛する者と母親は同一人物であり、側室。

赤子はベルジャンヌ王女。


 ならばあの男とは?

明確には書かれておらぬ。


 しかし王女の瞳の金環は、王族特有のもの。

王女は祖父王ではなく、別の者から血を引き継いだ王族の可能性に思い当たる。


 祖父王が王座に就いて王女が誕生した時、王族の男は祖父王しか存在しておらぬ。

しかし祖父王が王座に就いたのは、側室の懐妊がわかった直後。


 その直前ならば、王族の男は2人存在しておる。


 祖父王と先代王妃2人から聞かされてもなお、腑に落ちずにいた先々代国王夫妻祖父母先代国王、そして叔母王女の歪んだ関係の発端に気づいた瞬間であった。


「キャスケットがいなければシャローナ=すらも、王女にとって特別にはなれなかったかもしれない。

或いは王女とキャスケットが出会うのがもう数年遅く、物心というものがついた後だったなら、王女の心は完全に閉じ、キャスケットの与える聖獣としての情愛すらも心に響かなかったかもしれない。

そうしたら最良なんて考えもせずに、ただこの国が壊れていくのを傍観していたはずよ」


 王女は生まれてすぐ廃宮に捨て置かれ、祖父王の厳命により、周囲の完全なる無干渉の中で3年程過ごした。

乳飲み子であったのだから、城で王女の存在を知るごく一部の者達は、当然亡くなり、土に還ったと考えておったはず。


 なれど見つかった時、側におった聖獣キャスケットが育てたとしてこの事は箝口令が敷かれ、事実は隠蔽された。

しかし公女の今の言葉は、言外にキャスケットの関わりと生存は無関係だと告げておらぬか?


 まあ良い。

今は話の腰を折るつもりはない。

理由など、どうでも良い些事


 とにかく王女の生存を確認されてからは、祖父王と側室への嫉妬に駆られた先々代の王妃とその子供__余の血縁上の祖母と父親に甚振いたぶられ、奴隷のような扱いを受けながらその才能を搾取されて育った事こそが変えられぬ事実。


 感情の種を蒔かれぬ子供が、尋常でない悪意だけをぶつけられながら育てばどうなるのか。

その上、王族の始祖たる初代国王に勝るとも劣らぬ魔法の才と知略に富んだ王女子供であったならば……。


 どう考えても全ての結末が最悪なものとなってしまう。


 なのに傍観?

何とも可愛らしい結末最悪を申したものよ。


「どちらにしても王女は死ぬまで周りの人間を特別か、そうでないかの2つにしか選別していなかった。

もちろん婚約者だったソビエッシュ=ロブールも含めて、大多数はそうでない方に選別していたわ」


 ソビエッシュ=ロブールか。

祖父王と当時の四大公爵家当主達により広められた噂に、運命の恋人達があったな。


【元より悪辣極まりなかったベルジャンヌ王女の婚約者であったソビエッシュ=ロブールは、シャローナ=チェリアと出会い、真実の愛を見つけた。

それでも若き次期ロブール家当主は、婚約者たる王女へ義理を果たさんとしていた。


 ところがチェリア嬢の存在に気づいた王女は、嫉妬に駆られて凶行に及ぶ。

王族でありながら魔力も低く、才能もない王女はチェリア嬢を生贄にし、悪魔を呼び出してこの国ごと呪い、滅ぼそうとした。

正に稀代の悪女。


 幸いな事に我が国の偉大な王太子が深手を負いながらも、憑依した悪魔ごと稀代の悪女を倒した】


 王女からすれば、事実無根。

この噂を広めたせいで、王家と四大公爵家は聖獣達と決定的に袂を分かつ。

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