409.噂は所詮、噂〜国王side

「まあまあ、バレバレでしてよ。

でも以前、学園でリアちゃんの引き継ぎをする際、ギリギリのところで魔力をおすそ分けしていただきましたもの。

そのお礼をこめて魔法バ、ゴホン。

魔法大好きなお父様に聖獣の昇華をご覧いただいた時までは、お父様だけの観覧でしたし、文句はありませんわ」


 公女は今、間違いなくライェビストを魔法馬鹿と言いそうになったであろう。

余もそこには大いに同意する。


「昇華するところを王族、それも国王陛下がご覧になっていたなら、聖獣達も怒ってしまったでしょうが」


 公女の申す通りであろうな。

余が物陰から出てきた時点で、2体の聖獣は忽然と姿を消してしまった。


 聖獣キャスケットは、ハッキリ余を睨みつけてから消えておる。

未だにベルジャンヌ王女の事では、恨まれておるようだ。


「それにしても、何を取引なさったのかしら?」


 国王たる余に何かしら挨拶をしてくるかと思いきや、公女は地べたに座りこんだまま、特に余を気にする様子は見られない。

余の存在は、初めから気づいておったようだ。


 余も魔法を使ってまで気配を消してはおらなんだが、やはり公女は何かしらの爪を隠しておるな。

更には気づいていながら聖獣達を呼び、その力を見せた。


 その行動には、何の意図を孕んでおるのか……。


 思案する余を気にするでもなく、公女はライェビストを見上げながら続ける。


「お母様や養女だったシエナの起こした数々の問題を不問にしていただく事?

それとも離婚の早期手続き?

いえ、それも含めてお父様が魔法に没頭できるよう便宜を図っていただく事」

「……まあ、そんなところだ」


 貴族令嬢らしい微笑みを浮かべ、大して変わらない父親の顔色を読みながら探りを入れていく樣は、知略に富んだ顔。


 無才無能公女との噂は所詮、噂。

いや、むしろ噂を使って真の姿を隠しておったと考えるべきか。

次男がやらかしたとはいえ、学園ではかなりの偏見に見舞われたはずであろうに、それを逆手に取っていたならば知略家に加え、何とも図太い性格よ。


 を祖父に、を父親に持っておるだけの事はある。


「引き換えにするのは、聖獣に関わる情報提供。

まあ四大公爵家の当主なら、当然ではありますわね」


 にこりと冷めた微笑みを向ける娘に、父親であるライェビストは……特に反応しておらんな。

ライェビストの無表情の中に、もう帰りたいといった表情を見つける。

恐らく聖獣の昇華も含めて、目当てらしき聖獣の力を見終えたから、帰って己の魔法の探求をしたいと思いを馳せておる。

魔法馬鹿は随時、魔法馬鹿を起動中だな。

父性の死滅具合は相変わらずよ。


 その様子に折れたのは公女。

表情を崩して苦笑する。


 駄々をこねる子供に折れる母親?

孫に折れる祖母にも見えるのだが、何故だ?

視力が落ちたか?


「どうぞ、お帰りになって。

聖獣の本来の力もご覧になったのですもの。

魔法バ、ゴホン。

魔法大好きなお父様は、うずうずしてらっしゃるのでしょう?」

「そういう事だ」


 ライェビストはふんふんと頷くが、娘に魔法馬鹿と言われかけたと気づいておるか?


「いつぞやの宰相閣下のような、目先の欲から先走ろうとされる方がいらっしゃらない時になら、国王陛下とも1度くらい、まともにお話ししておきますわ。

お父様を除けば、この場に稀代の悪女の幾らかの真相を知っていそうな方は国王陛下だけですもの」


 確かに余は王女に関する真相を誰よりも知る。

無論、ライェビストよりも。


 幾らかの真相と口にしたのならば、ライェビストが父親であっても公女は全てを話してはおらぬはず。

加えて公女が、余よりも真相を知っておるとも告げておるようだ。


 聖獣と契約できた公女が、契約した王女を最期まで追いかけたという聖獣キャスケットの意向を無視するはずがない。

聖獣キャスケットは王家だけでなく、公女の生まれたロブール家も未だ許してはおらぬであろう。


 故に宰相のように、あわよくば聖獣との仲を取りもって欲しいとは、微塵も考えておらぬ。


 なれどもし初めて公女と謁見したあの時、その場に宰相以外の臣下がおればどうであったか。

国王という立場から、本心とは裏腹な要求を公女にしたかもしれぬ。

少なくともそう告げようとした宰相を、止めようとはせなんだであろうな。

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