408.公女の中の闇〜国王side

「ごめんよ、ラビ。

昇華はもっと後にすべき……」

「それは違うわ」


 片方の膝に移動した、リアと呼ばれていたグリフォンの言葉を遮った公女。


 しかし余は昇華という言葉の方に反応してしまう。


 普通のグリフォンとは全く異なり、まるで聖獣ヴァミリアのような鮮やかな体躯、魔獣とは明らかに異なる瞳の色彩、そして


 やはり朱色のグリフォンは聖獣であり、魔力が乏しいはずの公女が手を貸したらしい。

そう確信する。


「私が早くルシアナを楽にしたかったの。

息子であるお兄様の魔力で、少なからず自我も残っている内に。

早く悪魔の力を滅しておかないと、死んだ後に魂を食われて消滅させられてしまうもの。

それはちょっと可哀想じゃない?」


 聖獣の言葉を遮って話している公女の、少しめくれた袖口から覗く華奢な手首。

ローブに宿る煌めきが掠めるのが、チラリと目に入った。


 今、微かに白銀の文字……まさか聖印?

それがローブに宿る煌めきにより、一瞬でかき消された?

もちろん確証までは得られぬ。


 しかし余が伝え聞いた王女の最期と、どうしても結びつけそうになる。


 公女は王女の面影を宿し、間違いなく聖獣と契約しておる。

生前の王女のように。


 何より余は王女の最期を、そして最期に契約した聖獣達に約束した言葉を知っておる。

故に、もしやと考えてしまう。


 ベルジャンヌ=イェビナ=ロベニアは、ラビアンジェ=ロブールとして生まれ変わったのではないかと。


「ラビアンジェ、骨」


 唐突にライェビストが公女に声をかけた。


 ライェビストよ、言い方……。


 思わず心中でつっこんでしまったぞ。


「ええ、お父様。

お願いした通り、お兄様に渡して下さいな」


 座りこむ娘を気遣う事もなく、元妻を普通に骨と言っている旧友の弟の神経が計り知れない。

それとなく公女が呼吸を整えた後だったから、ほんの僅かばかり気を使ったのか?

僅かが過ぎるであろう。


 娘も娘だ。

何事もない顔で普通に頭蓋骨を渡し……いや、渡さずに何も無い空間から、小さな壺を出した?

とんでも破廉恥な小説は、亜空間に収納されておるのは、余も知っておる。

故に驚きは小さいが……その壺は一体?


「まさか骨壺……か?」


 眉を顰めて暫ししてから娘に問うライェビスト。

骨壺?

言われて見れば?

しかし絵柄が呪具のような……。


「可愛らしくお母様の似顔絵を書いてみましたわ」

「……」


 似顔絵、だと?!


 公女は無言となった父親を気にするでもなく、蛇の集団が1個しかない団子に、こんがらがって群がっているかのような、呪い殺す気満々な絵がついた壺の蓋を開ける。


 どう考えても虐待親への恨みをこめたような絵ではないか。

なのに公女の表情からは、完全なる善意だけしか感じぬとは、これ如何に?!


 ……公女の中の闇が垣間見えた瞬間だ。


 しかしあの母親では、致し方あるまい。

余の次男との婚約期間中に潜ませてあった、影からの報告は受けておる。

自分を癇癪で殺そうとした母親への、最後の壺への意地悪など可愛らしいものであると認識を改める。


 公女は頭蓋骨を壺の上に置き、片手を頭頂に押し当てながら、魔法で下から粉にしていき、全てを収めてから父親に手渡した。


 本当に骨壺であったな。

ライェビストはよくわかったなと、妙なところで感心してしまう。

奴も父親であったと思うべきか?

一応、後で壺をすげ替えるように伝えておこう。


 骨壺を受け取ったライェビストが、不意に余の方へと、かなりわざとらしく視線を投げてきた。

公女もそれを追ってこちらを向く。


「アレは連れ帰るか?

どうやら後をつけてきたようだ」


 余の方を指差して、よくもぬけぬけと。


 魔法師塔にある主人不在の、団長専用執務室に余を呼び出し、簡易の転移魔法陣に入れと、明らかに何かを書き損じた紙裏に言伝ことづてを残しておったのは、他ならぬそなたであろう。

国王を突然に呼び出したばかりか、書き損じの紙裏で指図するなど、何とも不敬で雑な男よ。


「あらあら、お父様ったら。

わざとでは?」

「気づいたか」


 大して気にしておらぬライェビストの様子から、どうやら娘に見破られる事はおりこみ済みであるらしい。



※※後書き※※

いつもご覧いただきありがとうございます。

フォロー、レビュー、コメントにいつも励まされております。

サポーターの方には、深く感謝をm(_ _)m


4章エピローグ的なミハイル視点部分で、ラビアンジェが骨壺を見て何を思っていたか、予想して読み返していただけると、ちょっとクスッとしていただけるかもしれない(*´艸`*)

もちろんラビアンジェ画伯は善意100%です。


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(見たよ〜という方は飛ばして下さい。

これにてひとまず宣伝終わりです)

よろしければテレビCM等盛りだくさんとなったカドカワBOOKS樣HPにある【稀代の悪女】書籍紹介ページをご覧下さい!

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お陰様で本作【稀代の悪女】2巻も無事発売!

支えていただいた皆様のお陰です!

本当にありがとうございます(*´艸`*)

今回もウェブ版に無いシーンや、視点違いを多数散りばめ、ウェブ版の8割くらい加筆修正しております。

3巻の確約は現状できませんが、よろしければ2巻を、1巻をまだご覧いただけていない方も、これを機に是非ともよろしくお願い致しますm(_ _)m

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