376.投げつける〜ミランダリンダside
「それじゃあ、そろそろこの壁を消しましょうか」
にこりと微笑む公女の発言に、ぎょっとする。
「え、で、でもそんな事をしたら……」
「心配いりませんわ。
これには壊れた時用の、別機能が付与されておりましたのよ」
そう言って公女は手にしていたスティックを、私に見せながらフリフリと振る。
「え?!
ど、どんな?!
それよりどうしてそんな事、公女にわかるんですか?!」
もちろん私は公女の言葉に驚くけど、急に湧いた助かるかもしれないという希望に縋るように、けれど落胆したくなくて、そう聞き返した。
だって噂では公女は魔力の低い無才無能だったし、ある種の才能は鬼才レベルだけれど、魔力が低いのは間違いないもの。
もちろんさっきのアドバイスといい、魔法のセンスほあるのだろうとも感じてるよのよ。
けどやっぱりそれと魔法具は、別……よね?
「だって私、魔法具科の2年生ですもの」
朗らかに、当然のように答える公女の言葉で、ハタとなる。
「あ……そう、でした。
疑うような事を言ってごめんなさい」
実際、魔法具師はなり手が少ないってゆうのは有名なの。
大半の貴族は富裕層の平民や、魔法師になれないくらい魔力が低い下級貴族がなるものだからだって思ってる。
それはある意味正解だけど、魔法具科で学べば誰でも魔法具師になれるわけじゃないみたい。
そう、魔力の多い少ないに関わらず、魔力操作に長けていて、かつ手先の器用な人でないと高度な魔法具は作れないらしいの。
「いいの。
魔法具師について誤解される方も多いのに、ちゃんと知ってらしたみたいね。
嬉しいわ」
「ふぁい?!
あ、あの……はい、少し調べた事があって」
嬉しそうに自然に微笑む公女に、ドキッとしてしまったわ!
公女の素の微笑みは、同性でも胸をときめかせる破壊力があって、思わず変な返事をしちゃった!
恥ずかしい!
もちろん調べたいきさつは、口が裂けても言えない。
だって知ったのはたまたまなの。
ヘイン様の平民落ちを耳にした後、その元凶だと思っていた公女の噂を集めていた時だもの。
『さあさあ、早くこの壁を消してはいかがです?
その魔法陣に保管してあった魔獣は、公女はもちろん、隠れていた方でも敵わない程度には、強いですよ?』
相変わらず唐突に響いてくる教皇の声。
穴に蓋をした凍土には異常が見られないし、ついさっきドクンと心臓が高鳴ってしまった後だからか、恐怖は感じるけれど最初の頃と比べれば、和らいでしまっている。
「それではお言葉に甘えて、消してみましょうね。
消してすぐに教皇が何かする可能性は低いはずだけれど、念の為に気配は消しておいて。
それにほら、私達にはコレがあるもの。
安心してちょうだい」
「『はい』」
何となくお祖母様を彷彿とさせる、慈愛に満ちた藍色の瞳は相変わらず私の頭頂部に向けられているような気がする。
けれど魔法具科に所属している公女の言葉は心強く、頼もしいわ。
返事をすれば、まだ私の出した壁で閉塞されているから、反響したのね。
声が二重になって耳に入ってきた。
幼く聞こえる自分の声にも、もう反応しないわ。
頭頂部から背筋にかけて、冷気が漂うのは壁と蓋が凍土でできているからよね、きっと。
「それじゃあ、解除します!」
「頑張ってね、ディ、んん!
リンダ嬢」
少し緊張しているのか、普段は流暢に喋る公女が噛んだみたいだけれど、そんな事もあるわよね!
「『はい!』」
そうして壁に練りこんだ自分の魔力を霧散させれば、ただの土壁となった壁はボロボロと崩れた。
壁のすぐ近くにいただろう、涼しい顔をした教皇が、私達、というよりも気配を消した私の後ろに佇む公女の姿だけを捉えている。
ローブの誰かは教皇の少し後ろに立っていた。
「ようやく出てらっしゃいましたね。
おや?
助けに来られた方はどちら……」
__ヒュンッ。
教皇が公女に向かって話している途中、不意に何かが私の後ろから、教皇の方へ飛んで行った?!
__カン、カラカラ……。
「ふっ、そんな物を投げつけ……え?!」
「えい!」
「へっ?!」
教皇は余裕の動作でそれを躱し、余裕の表情で公女を見やり、口を開く……間もなく、驚く。
それはそうよ。
公女はスティックを投げた直後に、私の肩を掴んでかけ声をかけ、恐ろしい力で私を……教皇に向かって勢い良く押したんだから!!
※※後書き※※
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