377.私にもわかる、駄目なやつ〜ミランダリンダside

「なっ、人?!」

「きゃあああ!」


 至近距離で不意をついたのと、私が気配を消していたからね。


 私だって、こんな風に危険極まりない教皇に向かって、自分からぶつかりに行くなんて、思ってもみなかったわよ!


 視界の端に、公女がいつぞやの全力疾走スタイルで駆け出すのが映る。


 もしかして囮に使われたの?!


「秘技、ザ・鞭!」


 公女はそう叫ぶと同時に、スカートのポケットに手をつっこみ、忍ばせていたらしき見覚えのあるグリップを掴んで、鞭を放った。


「またですか?!」


 思わずそう叫んだのは、もちろん私。


 グリップからしなる青紫色の縄が飛び出す。

もちろんこれ、見た事あるわ!


 縄が私の腰に巻きつく。

ええ、あの時もそうだった!


 公女はそのままグリップを持って引っ張り、私を自分に引き寄せた。

これもあの時と同じよね?!


「隠密の影を囮に使うとはやりますね!

でも逃がしません!」


 誰が隠密の影なの!

私は普通の、伯爵令嬢よー!


 そんな私の心の叫びなんて知る由もない教皇が手をかざせば、水が鞭のように現れて竜巻のような孤を描きなら、私を狙って飛んできた!


「ひ、ひぃぃぃ?!」

__ガガガッ!


 悲鳴を上げながらも、公女に引き寄せられ、背後に庇う形となった私は何とか凍土の壁で防ぐ。

もしいつものように土の壁だったら、間違いなく防げなかったわ!


「そ〜れ!」


 のんきなかけ声と共に、公女はいつの間にか落ちていたスティックを拾い、土壁の向こうに放り投げた。

それと同時に腰の鞭は解除される。


「今度は何です?!」


 緩やかに放物線を描いて壁の向こうに行ったソレを見たらしい教皇は、どこか苛立ったような声を出す。


 こちら側からは見えないけれど、冷静で穏やかな印象しかない教皇も、あまりの予想外の事態には感情が顕になるのね。


 わかる!

私も今、目まぐるしく変わる状況に右往左往しているもの!


 でもあれじゃあ、スティックは教皇に弾かれ……あ、やっぱり普通に手刀あたりで弾かれたような音がして、カランカラン、コロコロと地面に落ちて転がる音がしたわ。


 壊れた時の別機能って、物理的に投げつけるって意味だったの……え?


 壁の向こうから、発動する魔法具の気配を感じて、思考が中断される。


 こんなにハッキリ感じるっていう事は、間違いなく大きな魔法が発動……。


 え?

私達の足下に魔法陣が現れた?!

でも今、揺らいだわ?

何事?!


「ふ、邪魔してくれちゃって」


 不意に背後から聞こえたのは、公女の声。

それは出会ってから1度も聞いた事のない、冷たい、嘲笑うかのような……。


「は?!」

「やっと発動したか」


 けれど聞き覚えのある2人の男性の声に、注意が壁の向こう側へ自然と向く。


「それでは後の事は、お2人にお願いしますわ!」

「任せろ」

「任されるな!

状況説明くらい……」


 ガラッと快活に変わった公女へ、新手の男性の片方が何かを言い終わらない内に、風景もガラッと変わる。


「バッチリなフォーメーションだったわね、リンダ嬢」


 親指を立て、ウインクをお見舞いしてくる公女……やだ、可愛い。

物理攻撃のように突進させられたり、盾にされたりしたけれど……この笑顔は反則よ。


「あなた|達(・)ならやり遂げられるって、信じていたわ!」

「は、ははは……そう、ですか……」


 でもそのマイペースな様子に腰が抜けて、あの時のようにヘナヘナと木の床に座りこんでしまう。


 達ってなにかしら、なんて事は頭の隅に追いやられる。


「そう……助かっ……うっ……ううっ」


 途端、涙腺が崩壊して泣いてしまったのは、仕方ないわ。


「まあまあ、まだお酒も飲んでいないのに、泣き上戸さんなのね」


 どうしてそこにお酒が登場するの?

私の頭をヨシヨシと撫で始めた公女は、やっぱり私のような凡人には理解できない、鬼才っぷりね。


 どうでも良いけど、感覚がおかしくなったのかな?

頭に振動は伝わるけど、まるで帽子を被っているかのように、公女の華奢な手が触れる感覚がしないわ。


「……どんな状況ですか、コレ?

何故、私の部屋に……」

「まあまあ、ナックス神官。

数時間ぶりですわね。

ふふふ、解呪が難なくできて何よりですわ。

ちょっと残った影響と諸々誤魔化すのに、酒宴……ゴホン。

いえ、ロブール家当主夫妻の離婚成立記念と称して、尽力していただいたナックス神官には、宴を開催致しますわ!」


 待って、公女!

それは記念にしちゃ駄目なやつ!

私にもわかる、駄目なやつよー!



※※後書き※※

これにてミランダリンダ視点は終わりです。

長かったですが、お付き合いいただきありがとうございます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る